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 七星の返答がよほど予想外だったのだろう。

 月也はハッと息を飲んだが、一拍置いた後「あははは」と白い歯を覗かせて無邪気に笑いだした。

 いつもの大人びた雰囲気は一掃され、ケタケタ声を上げる姿はただの高校生だった。


 その様子は相当珍しかったようで、墨怜は茶を淹れ直していた手を止め固まり、部屋の隅で寝ていた白虎は何事かと頭を上げる。

 こんな表情もするのかと、七星は輝くような月也の笑顔に見惚れてしまった。


「七星は本当に凄いな! 俺はせめて及第点を貰わなければと頭を抱えていたというのに、お前は満点を目指したうえで、更にあちらの度肝を抜こうと言うのか。いや、悪くない。痛快だ!」


 笑い過ぎて目尻にたまった涙を拭いながら、月也が楽しそうに言った。


「確かにお前の言う通り、あまり迎合するのもよくないな。簡単に篭絡できると思われては本末転倒だ。他にも案があれば教えてくれ。七星の考えをもっと聞いてみたい」


 作戦会議のような高揚感に、七星はじっと座ってなどいられず立ち上がり、のぼせたように頬を赤く染める。


「まだまだ試したいことがたくさんあります! 例えば、白ワインの代わりに日本……じゃなかった、大和酒を振舞うのはいかがでしょう。発泡性のものを食前酒としてお出しするのも面白いかも。それから、それから……」


 七星の頭の中であれもこれもと次々思いつき、言葉にするのが追いつかない。

 久しぶりにワクワクしたが、興奮しすぎたのかクラッと立ち眩みのような感覚に襲われる。頭はフル回転出来ても体はまだ子どもで、しかも病み上がりなことを忘れていた。

 椅子にコテンと腰を落とした七星の背中を、支えるように墨怜が手を添える。


「月也様、もう七星様はお休みになる時間です。これ以上は、お体に障りますので」

「ああ、すまない。そうだったな」

「わ、私はまだまだ大丈夫です! 全然眠くありません」


 こんなに楽しい時間をまだ終わらせたくないと、七星は墨怜と月也の顔を懇願するように交互に見た。

 墨怜は熱を測るように七星の額に手を当て、「いいえ」と首を振る。


「少しお熱が上がってしまったようです。もう横になりましょう。すぐに布団のご用意をいたします」


 墨怜は相変わらず事務的だったが、確かに敵意がないことはわかる。無表情で感情は乏しいが、その奥に少しだけ優しい灯りを見たような気がした。

 これ以上は我儘は言わない方がいいだろう。しかし、名残惜しい。

 無意識のうちに寂しそうにうつむく七星に、月也がほんの少しだけ微笑んだ。


「七星。明日起きて熱が下がっていたら、一緒に皇帝宮殿へ行って晩餐会が行われる会場の下見をしよう。調理場も見学できるぞ」

「本当ですか!?」

「ああ。だから明日に備えてもう寝ろ」


 月也のひんやり冷たい手のひらが、七星の頭をポンポンと優しく撫でる。

 その瞬間、七星の瞳から、意図せず涙がはらりと落ちた。

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