③
自信満々に宣言した七星に、月也はキョトンとした表情を浮かべた。
たっぷり三秒は間を開けた後、ようやく声を発する。
「あ、あぁ……料理の知識。なるほど、本で読んだのか? 七星は勤勉だな、偉いぞ」
七星が「正式なフルコースを再現して見せる」と言ったのを、どうやら月也は子どもの夢想だと受け取ったらしい。少しだけ気まずそうに人差し指でカリカリ額を掻いた後、月也は落ち着きを取り戻してストンと椅子に座り直す。
「お前があまりにも話が分かるので、つい愚痴を吐いてしまった。心配かけたな。もう大丈夫だ」
「ち、違います。私はお兄様を慰めるために適当なことを言ったんじゃありません。本当に料理を作れるんです!」
今度は七星が椅子から立ち上がり、月也に向って力説した。
「一般的なコース料理は八品程度ですが、格式高い場だと十一品で構成されます。まずは食前酒から始まり、アミューズ、オードブル、スープ。パンが提供された後、一つ目のメインの魚料理、そしてシャーベットで口直しをし、二つ目のメインディッシュの肉料理へ。その後、生野菜、フロマージュ、デザートと続き、最後に珈琲や紅茶で締めくくるのです」
一気にまくし立てた七星を前に、月也は大きな瞬きを繰り返す。
「凄いな……本当に知識があるのか。俺も文献を読み漁ってやっと少しだけ理解できたというのに」
優秀な月也ですら苦戦していることを知り、七星は思考を巡らせた。
もしかしてまだ帝国では、洋食のようなものは出回っていないのかもしれない。
そういえば、このゲームは「明治時代初期の頃によく似た雰囲気」など、ざっくりしたイメージ設定だったが、実際はどの程度まで史実に基づいているのだろう。
コホンと咳ばらいをし、七星は椅子に座り直す。
「お兄様、いくつか質問よろしいでしょうか」
「ああ、構わない」
月也は動揺しつつも、きちんと背筋を伸ばして七星からの質問を受ける姿勢をとる。
「鎖国を終了してから、今年で何年目ですか? 鹿鳴館のような、異国文化を取り入れた社交場はあるのでしょうか。コロッケやオムライス、ビーフシチューはもう存在していますか?」
ポカンと目を丸くした月也だったが、すぐに我に返って戸惑いながら口を開いた。
「ええと、そうだな。鎖国を終えてからは三年経った。鹿鳴館というのは知らないが、異国風の社交場を建設中だと聞いたことがある。その……、すまないが、ころっけ? などは、どういったものだか見当もつかない」
「わかりました。ありがとうございます」
ふむ。と、顎に手を添え、七星は考え込むポーズをとる。
それほど現実の日本と剥離しているわけではなさそうだが、しかしここはパラレルワールド。
この先、日本と全く同じ道を辿るとは考えにくい。
なにしろ日本に開国を迫ったのはエルフでも人魚でもないし、あちらの世界に白虎神獣は実在しない。
明治時代とは似て非なるものなのだ。
「もしかして、今回の宮中晩餐会が、帝国で海外の料理が広まるきっかけになるのかも……?」




