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「私の敵ではないのなら、月……いえ、お兄様はなぜ、私を避けていたんですか」


 単刀直入過ぎて怒らせやしないか内心ヒヤヒヤしながらも、七星は月也の顔を食い入るように見つめる。こんなにじっくり話せるチャンスはもう二度とないかもしれないと思うと、どうしても前のめりになってしまった。


 月也は困惑気味に「それは……」と口ごもる。どう伝えようか、言葉を選んでいるようだった。

 じれったく感じた七星は、急かすように連続して質問をする。


「やはり、我儘だったり、しつこくまとわりつくところが鬱陶しかったのでしょうか」

「そうハッキリ言われると答えに困るな」


 少し参ったように目を伏せた月也は、墨怜が淹れてくれたばかりの煎茶を一口飲んでから言葉を続けた。


「お前はすぐ感情的になって自分の思いを押し通そうとするから、有意義な会話が出来ないだろう? 子どもだから仕方ないとは思うが、いちいち泣き喚かれるとこちらもどうしていいかわからなくなる。だから……意図的に避けたつもりはなかったが、多少距離は空けていたかもしれない」


 言い訳に聞こえるかもしれんがな、と、バツが悪そうに最後に月也が付け足した。

 月也の言い分に、「確かになぁ」と七星は小さく唸る。


 きっと鷹司七星は、使用人たちからイジメを受けていることを、幾度となく月也に告発していたはずだ。しかし癇癪のように泣き喚くだけで要領を得ないので、月也も事態を正確に把握できず、対処に困っていたのだろう。


 それに加え、意地悪な女中頭たちは「言い掛かりです。七星様のいつもの我儘です」と嘘をつき、鷹司七星を悪者に仕立て上げていたに違いない。


(もしかすると月也さまは、思ったより冷酷じゃないのかも)


 月也の攻略パートで断罪ルートに突入するのは、決まってヒロインへの嫌がらせがバレた時だった。

 だとすれば、ヒロインを虐めることなく、月也にしつこく絡みさえしなければ、このパートに関しては断罪される確率は低くなるかもしれない。


 そこまで考えた時、一番肝心なことを忘れていた七星は、手に持っていた苺を危うく取り落としそうになった。


(あまりにも色々ありすぎて、大事なことを忘れてた! ヒロインは今、どこにいるんだろう)


 今日一日屋敷で過ごしても、ヒロインと顔を合わせることはなかった。

 もしかして、と一筋の希望が生まれる。


「あの……おかしなことをお聞きしますが、お兄様は今、鳳舞(ほうぶ)学園高等科の何年生でしたっけ?」


 ゲームのオープニング。

 公爵家の養女となったヒロインが初登場するのは、月也が三年生になる年の春休みだった。季節的には丁度今頃だ。


 月也は七星の質問に、不思議そうに首を傾げながら答える。


「今はまだ一年だが、春休みが終われば二年に進級する」

「よっっしッ!!」


 七星は嬉しさのあまり、思わずガッツポーズをした。

 四月から二年生ということは、ヒロイン登場まであと一年の猶予がある計算だ。

 それまでに何とか汚名を返上し、出来るだけ名誉を挽回しよう。味方をもっと増やさなくては。


 ――それが出来なければ、死、あるのみだ。


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