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 そこには黒猫が佇んでいて、少女は小さく感嘆の声を上げる。


「わぁ。ゲームに出てくる呂色(ろいろ)みたい。綺麗な黒猫……」


 ベルベットのような毛並みに思わず手を伸ばすと、黒猫はふぃっと顔を背け、外廊下から庭に降りてしまった。


「待って!」


 見覚えのある黒猫が唯一の手掛かりのような気がして、少女は裸足のまま和室を飛び出し、庭に降りた。

 足の裏に、ひんやりとした土の感触が伝う。


 黒猫を見失った少女は、キョロキョロとあちこち視線を動かした。そうして自分がいた屋敷を見上げ、感心したように溜め息を漏らす。


「凄い……由緒ありそうなお屋敷」


 まるで緑の絨毯を敷きつめたような情緒ある苔庭は、素人目にもよく手入れされているだろうことが分かった。

 大豪邸と言って差し支えないほどの邸宅は、黒く美しい屋根瓦の風格ある佇まいだ。平屋ではあるが、どことなく天守閣を連想させる。


「この風景、どこかで見た気がする」


 どこだったかな。

 庭に突っ立ったまま考え込んでいると、「まあ!」と悲鳴にも似た声が廊下から聞こえてきた。声のした方に目を向けると、若い女性が二人、物の怪にでも会ったかのような、嫌悪と恐れの混じった複雑な表情でこちらを見ている。


 鶯色の揃いの着物を着た女性たちはまるで仲居のように見え、「やっぱりここは温泉旅館なのかな」などと、少女は呑気に考えた。

 しかし彼女たちから発せられたのは、およそ客に対する物言いとは思えない、辛辣なものだった。


七星(ななせ)様、いつ目を覚まされたんです⁉ それにしても、起きて早々裸足で庭に出るなんて……とうとう頭がおかしくなったのかしら」 

「汚れた足で屋敷に上がられたら、たまったもんじゃない。掃除の仕事増やさないでくださいよ」


 女の一人が少女に向って、濡れた雑巾を遠慮もなく投げつける。あまりにも乱暴な投げ方で、受け取り損ねた雑巾がバチンと少女の顔に当たった。

「痛っ」と少女が声を上げても、女たちは悪びれる風でもなく再び廊下を歩き始める。


「ホント、気味の悪い子どもね」

「でも、目を覚ましたなら女中頭に報告しなきゃ」

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