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「び、白虎神獣……!?」


 廊下に月也の姿はなかったが、その代わりに真っ白い虎がいた。先ほどまでの猛々しさはなく、ただの大きな猫のように、ちんまりと座ってこちらを見ている。

 監視のためについてきたのかと思ったが、どうやらそういう訳でもなさそうだ。どことなくソワソワしていて、近づいてもいいかどうか伺っているような素振りをしている。


「もしかして、心配してくれてるの?」


 自惚れかもしれないと思いつつ、恐る恐る白虎に尋ねる。

 白虎は人の言葉がわかるのか、まるで「そうだ」と言わんばかりに、尻尾をピンと垂直に立てた。その姿が何だか可愛くて、七星はクスクス笑いながら両手を広げる。


「ありがとう。おいで」


 許しを得た白虎は「待ってました」とばかりに七星の側に寄り、甘えたように頬ずりした。力加減はしてくれているようで、押されてひっくり返ることはなかったが、それでも自分の背丈よりある大きな虎の愛情表現は中々パワフルだった。


「人間の味方はいないけど、あなたと呂色が優しくしてくれるから、頑張れそうだよ」


 七星が両手で白虎の首の周りをわしゃわしゃ撫でると、嬉しそうに喉を鳴らす。猫だったらゴロゴロ言うところなのだろうが、虎だとグルグル唸るようで迫力がある。


「驚いたな。そんなに懐かれたのか」


 白虎の毛皮に埋もれながら、七星が声の主に目を向ける。あまり表情を変えない月也が、珍しく本当に驚いたような顔をして廊下に立っていた。

 しかしすぐにいつも通りの涼しい表情に戻ると、月也は七星の部屋の障子戸を開け、確認するように中をぐるりと見まわした。


「畳も布団も新しいものに替えさせた。他に気になるところはあるか」

「本当だ、黒い焦げがなくなってる……」


 台所へ行っていたほんの数十分で、よくそんな作業が出来たものだと感心してしまう。


「別の部屋へ移ってもいいんだぞ」

「い、いえ。ここで充分です」

「そうか。女中頭の後任は、もっと信用できる者にしよう。今後お前の身の回りの世話は、墨怜(すみれ)が行う。俺がいない時はあいつを頼れ」


 月也が瑠璃ガラス製の可愛らしいオイルランプに火を灯すと、じんわり部屋が明るくなった。ガラス越しに揺れる灯りが、月也の端正な横顔に影を作る。


「今、帝都では妖が頻繁に出没していてな。父上も忙しく、あまり家に帰れていないようだ。それに加え、異国からの要人を迎えるために、西條家は帝から難題を課されている。父上もお前の置かれていた状況までは、把握できていなかったのだろう。許してやってほしい」


 そう言いながら、月也は真っ直ぐ七星を見た。


「俺も今日まで何も気づけていなかった。……辛い思いをさせて、すまなかったな」


 まさか月也が謝罪するとは思わず、七星は大きく目を見開く。

 慈愛に満ちたこの言葉を、真っ先に鷹司七星に聞かせてあげたかった。

 いや、彼女は聞くべきだった。

 そう思った瞬間、怒りの色を含んだ言葉が口をついて出る。


「遅いんですよ。もう、その言葉は、届かないんです……」

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