表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/72

第七話 密かな決意を胸に

「そ、んな……」


 七星から拒絶の言葉を言い渡され、女中頭の顔はみるみる絶望の色に染まる。

 成り行きを見守っていた野次馬たちの間から、驚きと共にヒソヒソとささやき合う声が広がった。


「ねぇ。七星様、いつもと雰囲気が違わない?」

「そうよね。いつもだったら、もっとヒステリックに喚き散らすのに」

「今日はずいぶん大人しいのね。病み上がりだから?」


 確かにゲームの悪役令嬢(ななせ)だったら、平手打ちの一つも女中頭に見舞っていたかもしれないし、ここぞとばかりに「全員クビにして!」と月也に訴えたかもしれない。


 しかし七星は、とにかく目立ちたくなかった。

 余計なことをして誰かから恨みを買い、断罪ルートへ突入してしまう事態だけは避けたい。女中頭に向って発した言葉でさえ、言い過ぎたのではと内心ヒヤヒヤしていた。


 早くこの場から立ち去りたいと考えながら、何もかも失い放心する女中頭から目を逸らす。逃れた視線の先で、呆然と佇む麦飯を運んできた女中と目が合ってしまった。


 それまでは魂が抜けたように虚ろだったのに、七星を認識した途端、女中の目に激しい憎悪の光が宿る。


「私をクビに出来て、イイ気味だと思ってるでしょ。やっぱりアンタは噂通り鬼の子だったのね! 雑巾を投げつけられた仕返しに、呪いの力であの子を火だるまにしたんだ!」


 七星を指さし、女が悲鳴に近い金切り声で叫んだ。興奮したように肩でぜえぜえ息をしながら、女が一気にまくしたてる。


「アンタの両親が死んだのも、自分の呪いのせい? いつも不吉な黒猫を連れて、周囲に不幸をばら撒いて、不気味なのよ! アンタが消えたって誰も悲しまないんだから、死ねばいいのに!」


 そう言われた瞬間、広輝の顔が脳裏に浮かんだ。

 彼は自分が居なくなって、少しは悲しんだだろうか。

 しかしいくら想像してみても、自分のために涙を流す広輝を少しもイメージすることが出来なかった。


「もう……死んでるのよ」


 なんてつまらない人生だったろうと、七星は「ははは」と乾いた声で笑う。

 これ以上この場にいるのが苦しくなって、七星はくるりと踵を返し、逃げるように台所を飛び出した。

 廊下を走りながら、頬を伝う涙を拭う。


「ななちゃんも、辛かったね」


 小さな子供が「死ね」と罵られたのに、周囲から向けられる視線に同情の色はなかった。きっと他の使用人たちも、不幸をばら撒く不吉な子という認識で、「いなくなればいい」と思っているのだろう。


 彼女の孤独を想像し、自分自身と重ね合わせる。

 鷹司七星が死の間際、せめて安らかだったらと願った。


 ようやく自室にたどり着き、障子戸を開けるために手を伸ばす。その瞬間、自分以外の足音がしたことに気が付いた。

 月也が追ってきてくれたのかと振り返り、そこにいた者を見て七星は目を丸くする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ