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 白虎神獣……?

 そう思った瞬間、真っ白いふかふかの毛並みが七星の視界いっぱいに広がった。

 それと同時に、耳をつんざくような使用人たちの悲鳴が台所中に轟き渡る。


「と、と、虎ッ!?」


 女中頭の叫び声が聞こえたかと思ったら、今度はガチャン、バリンと食器が割れる派手な音がした。


 七星は目の前に突然現れた白い物体からちょこんと顔を出し、何が起きたのか様子を伺う。

 どうやら女中頭は腰を抜かしてよろめいた拍子に、作業台の上にあった皿までひっくり返してしまったらしい。破片が散乱する中、尻もちをついた状態で震え上がっていた。


「そんなに怯えなくたっていいのにね」


 小声で呟いた七星は、改めて目と鼻の先にいる白虎をまじまじと観察する。

 動物園の虎よりも一回りほど大きいだろうか。毛並みは輝くように白く、神々しい。低く唸ると口の隙間から鋭い牙が見えたが、不思議と怖くはなかった。


「この式神は嘘を見破るのが得意でな。嚙み殺されたくなければ本当のことを言え。もう一度だけ問うぞ。七星の夕餉は、きちんと用意されていたんだな?」


 月也のよく通る声が騒然とした台所に響き、途端にシンと静まり返る。その場にいただけの無関係な女中や丁稚奉公の少年までもが、怯えながら息を飲んだ。


「もっ、申し訳ありませんでした! 命だけはお助けを……!!」


 そんな中、最初に命乞いをしてきたのは料理人と思しき中年の男だった。白い調理用の白衣を着ていて、この場での役職は高そうに見える。

 男は台所の土間に額をこすりつけるようにして、必死に月也に懇願した。


「七星様には必要ないと言われ、いつも食事は用意しておりませんでした。全てあの女の命令です。悪いのは、あの女です!」


 頭を地べたに付け、土下座の格好をしたまま、男は人差し指を女中頭の方に向ける。

 指をさされた女中頭は狼狽しながらも、尻もちから何とか正座の姿勢に直して月也を見上げた。


「こ、これには深い訳が。月也様のためを思ってのことにございます」

「俺のため?」


 女中頭は大きくうなずくと、独善的な態度で意気揚々と語り始める。


「はい。恐れながら、七星様は月也様の許嫁には不相応かと。ですが今は亡き大旦那様(おじいさま)のお決めになったこと、従うより他ない月也様があまりにも不憫で。そこで、七星様が自ら家を出ていき、破談になるよう仕向けた次第にございます」


 月也のためと信じて疑っていないのか、女中頭は得意げな表情をしていた。褒めてもらえるとさえ考えていそうで、その姿に少し寒気を覚える。

 月也は心底呆れたように息を吐き出し、土間に正座している女中頭を冷たく見下ろした。

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