②
月也がいつもの調子で、威圧的に七星に尋ねる。
七星は口の中に残っていた固い麦飯を無理やりゴクリと飲み込むと、目を伏せたまま静かに答えた。
「これは、私のいつもの夕飯です……今日は腐ってないだけ、まだマシかと」
「デタラメです!!」
七星の告発を、女中が即座に否定した。
「私たちは立派な膳を用意していたのに、七星様がいつもの我儘で、急に猫まんまを食べたいなんて言い出したんです。ですから、仕方なく……」
「そ、そんなこと言ってません!」
思わず叫んで七星が立ち上がる。月也は「ほう」と相槌を打ち、目を細めて女中を見た。
「では、本来の七星の夕餉はこれではないと言うのだな?」
「もちろんです!」
自信満々で胸を反らす女中に、月也は「そうか」と素直にうなずいた。
――あぁ、やっぱり。
七星は失望しながら唇を噛みしめる。どうせこれ以上否定したって、自分の言うことなど誰も信じてくれない。
ところが月也は項垂れる七星の手首を掴むと、和室を出て廊下を歩き始めた。大股でズンズン歩くものだから、歩幅を合わせるために七星の方は小走りになってしまう。
「だったら台所へ行って確認しよう。お前の言う通りなら、用意された七星の夕餉がまだあるはずだ」
月也の言葉を聞き、立ちすくんでいた女中は我に返ったように慌てて追いかけてきた。
「お、お待ちください! あの、もう、七星様の食事は破棄してしまったので……」
「なんだ、捨ててしまったのか。それで、七星の献立はどんなものだった?」
「え、ええと……月也様と同じものです」
嘘を重ねる女中の顔色が、みるみる青くなっていく。
問答を続けているうちに台所にたどり着き、そこで作業していた料理人や女中たちが月也の姿を見てギョッとした。
「月也様、いかがされました。高貴な方がこのような場所へ足を踏み入れてはなりません」
女中頭が前へ出て、月也が台所の奥に進まぬよう立ち塞がる。
「七星の夕餉が用意されていたと聞いてな。どこにある?」
女中頭はそこで初めて月也の陰に隠れていた七星に気づき、どういうことだと睨むような視線を七星に向けてきた。麦飯を持ってきた女中は自分の嘘が露見するのを恐れ、すがるように訴える。
「ですから先ほど申し上げた通り、破棄してしまったのでここには残されておりません!」
そう言いながら、女中頭にチラチラと目配せをする。今までのやり取りから、何となくでも事態を把握したのだろう。女中頭が「その通りです」と、深くうなずいた。




