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第六話 白虎神獣

 精進料理でも、もう少し食欲をそそるのではないだろうか。

 七星が戸惑っていると、頭上から苛立ったような棘のある声が降ってきた。


「文句があるなら食べなくてもいいけど?」

「たっ、食べます!」


 女中が膳を下げようと手を伸ばしたので、奪われないように七星は慌てて茶碗を持ち上げる。そういえば、ゲームの中では腐った食材を出されていたこともあった。それに比べれば、まだ随分マシだ。


 そう考え直し、麦飯を口に運ぶため茶碗に箸を差し入れる。香りや色合いからして炊き立てではないだろうと思ってはいたが、予想以上に固くて箸の先がカツンと麦にぶつかった。


 こんな年端もいかない病み上がりの少女に、なんて酷い仕打ちだ。

 そう心の中で憤るものの、逆らうわけにはいかなかった。なにしろ食事を与えられず、餓死ENDなんてことも充分ありえるのだから。


 仕方なく、もはや味噌の香りがするだけのただの湯を、すっかり乾燥した飯に注ぐ。なんとか飲み込める程度の固さになった麦を咀嚼していると、女中がこらえ切れないというように、声を上げて笑いだした。


「あっはっは! どう? 美味しい? 気に入ったんなら、これから毎日、猫まんまにしてやろうか」


 部屋の障子戸は開けっ放しなので、下品な女中の馬鹿笑いが庭にまで響く。

 悔しくて何か言い返したいが、言葉が出なかった。

 いつもそうだ、と七星はうつむく。

 広輝にも麗佳にも言いたいことはたくさんあったのに、何一つ伝えられなかった。


 じわっと涙が滲んだが、泣いていると気づかれたくなくて七星は麦飯を勢いよく掻き込んだ。それを見て女中は、更に大声で笑う。


 少しの辛抱だ。すぐに飽きてどこかへ行く。

 そう自分に言い聞かせ、ゴリゴリと固い麦を噛みしめる。その間も、女中は声を上げて笑い続けた。


「随分と楽しそうだな」

「ひゃっ! つ、月也様……!!」


 突然、障子戸の影から月也に声をかけられた女中は、腰を抜かしそうなほど驚いてその場で飛び上がった。いつから廊下にいたんだろうと、七星も大きな瞳で瞬きを繰り返す。

 先ほどまでの月也は制服を着用していたが、今はくつろいだ着流し姿だった。年齢よりもずっと大人びて見えて、ドキリとしてしまう。


 月也はつかつかと七星の目の前まで歩み寄ると、茶碗の中を覗いて嫌悪を露にした。


「粥……と言う訳ではなさそうだな。どういうことか説明しろ」

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