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「この部屋に出入りしても怪しまれない者の仕業だろうな。形代を破いたことで、呪いは術者のもとへ跳ね返ったはずだ。今頃、相応の代償を支払っていることだろう。すぐに誰が犯人か解る」


 月也はハンカチを取り出すと、焦げたマチ針を包んで胸ポケットにしまった。それから鋭く目を細め、睨むように七星を見る。


「それより、体調はもういいのか」

 

 凄みのある月也の眼力に委縮した七星は、声も出せずに頷くしかできなかった。月也は「そうか」とだけ言い残し、素っ気なく部屋を後にする。


 呂色と二人きりになった部屋で、七星は「ふぇぇぇ」と情けない声を出してその場に座り込んだ。


「こ、怖かった……。こんなエピソード、ゲームにはなかったのに。どうなってるの?」


 既にプレイしたことのある場面ならば、回答に困ることもない。しかし知らないストーリーでは対処ができず、月也を怒らせてバッドエンドを招いてしまったら一巻の終わりだ。


 七星は心底疲れた表情で、がっくりと肩を落とす。これからのことを考えると、頭を抱えたくなった。

 ずっと腕の中で大人しく抱かれていた呂色が、七星の心労を悟ったのか、慰めるようにぺろりと指先を舐める。


「呂色がいてくれて本当に良かったよ」


 まるで言葉がわかっているかのように、呂色は嬉しそうに喉を鳴らして応えた。柔らかな毛並みを撫でながら、七星は相変わらず不安そうな眼差しを庭に向ける。


「月也さまは呪いをかけた犯人はすぐにわかるって言ってたけど、本当かな。『相応の代償』ってなんだろうね」


 月也の言葉に半信半疑の七星だったが、その疑問は思いのほか早く解消された。


「まったくもう。大火傷で倒れたあの子の代わりに、なんで私がわざわざこんな屋敷の外れまで来なきゃなんないのよ」


 日が沈みきった頃、一人の女中がぶつくさ文句を言いながら七星の部屋を訪れた。なにやら物騒な単語が耳に飛び込み、七星は思わず聞き返す。


「大火傷……?」

「そう。ほら、昼間アンタに雑巾を投げつけた子よ。突然、火だるまになっちゃってさ」


 ぶっきらぼうに答えた女が抱えていた膳には、夕飯が乗っていた。「突然火だるまに」という不可解な出来事も気になったが、今はそれ以上に空腹を思い出してしまい、七星はごくりと唾を飲み込む。考えてみれば、昨日からなにも口にしていなかった。


「ほらよ」


 まるで家畜に餌でもやるように、正座して待つ七星の前にゴトンと乱暴に食事を置く。

 漆塗りの立派なお膳だったが、その上に載っていたのは味噌汁と呼ぶにはあまりにも色が薄い椀と、見るからに固そうな麦飯だけというとても質素なものだった。


「これだけ……ですか」

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