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また女中頭かと身構えていると、姿を見せたのは驚いたことに月也だった。
元々色が白いが、美しい面差しから更に血の気が引いているように見える。
「何があった」
それは問い詰めるような威圧的な口調だった。
早く何か答えなければと焦ったが、聞かれていることの意味が解らず、七星は怯えたように身を縮める。
月也はもどかしそうに、更に質問を重ねた。
「今、この部屋から呪いが解かれたような気配がした。お前は無事か?」
相変わらず冷徹な物言いだったが、もしかして身を案じてくれているのかもしれないと思い、七星は小さな声で「無事です」とだけ答えた。
月也は心なしかホッとしたような表情をし、次に廊下に目をやる。
「どうして布団があんな場所に?」
「は、はい。しばらく干していなかったので、陽に当てようと」
「しばらく干していない? なぜ」
月也は不機嫌そうに片眉を上げ、七星を追求する。まだ学生だというのに、そこらの大人よりもずっと貫禄があった。七星は叱られているような気分になって、腕の中にいる呂色をぎゅっと抱きしめる。
「きっと、ずっと病気で寝ていたから……」
七星が病床に伏していたことは初耳だったのか、月也は驚いたように少し目を見開いた。それから確認するように布団があった場所にもう一度目を向け、処方された薬袋に気づく。
「日付は二週間も前のものなのに、ほとんど薬を飲んでいないじゃないか。ちゃんと医者には診てもらったんだろうな?」
「さ、さぁ。どうでしょう……わかりません」
歯切れの悪い七星に苛立ったのか、月也が大きくため息をついた。七星はいたたまれなくなって、呂色を抱えたまま下を向く。
「では、この針は何だ」
背の高い月也に見下ろされ、七星は恐縮しながらぼそぼそと話し出す。
「敷布団の下に、白い紙で作られた人の形をしたものがありました。でも、呂色がそれを引っ搔いて破ったら、突然火が上がって……針だけが残ったんです」
七星は畳の上で燃え残ったマチ針を指さす。月也は畳に膝をつき、黒く焦げた針を指でつまみ上げると顔をしかめた。
「なるほど。お前が寝込んでいたのは形代のせいかもしれないな。呪いの一種だ。このまま気づかずに過ごしていたら、命を落とすところだったぞ」
「の、呪い!?」
それを聞いた七星の顔色が蒼白になる。鷹司七星はやはり亡くなっていたのだ。しかも、病気ではなく呪いのせいで。
「一体、誰が……」




