表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/72

 廊下の突き当りまで来た七星は、自室の前で少しだけ怯んだ。

 日は差し込んでいるはずなのに、どういうわけだか部屋の空気が重く、どうしても暗いイメージがわく。敷かれたままの布団を見ていると、ますます憂鬱な気分になった。

 しばらく天日干しされていなかったのか、ずっしりと重く、表面は微かに湿っている。


「ななちゃん……無念だっただろうな」


 体は彼女のものでも記憶までは共有出来ないので、正確なことは分からない。それでも状況から察するに、病に伏していてもろくに看病されず、最悪の事態に陥ってしまったのだろう。


「でも、他人事じゃないんだよね……これからどうしよう」


 途方に暮れていると、黒猫の呂色が尻尾を揺らしながら七星の隣にやってきた。

 どうしたんだろうと思っていると、敷布団を咥えてグイグイと引っ張り出す。しかし猫の力ではどうにもできず、諦めたように七星を見上げてにゃあと鳴いた。それからトコトコ廊下まで歩き、七星を振り返って再びにゃあにゃあと鳴く。

 日当たりのよい廊下にくるんと丸まった呂色を見て、七星はふふっと笑った。


「そこに干せってこと? そうね。布団がフカフカなら、少しは明るい気分になれるかも」


 陰鬱な空気を払うように、重い掛布団を抱えて廊下に広げる。七星の部屋は屋敷の一番端なので、廊下を塞いだとしても通行の妨げになることはないだろう。


「子どもの体だと、運ぶのも一苦労ね」


 さぁ次は敷布団、と持ち上げたところで異様なものが目に入り、七星は「きゃあ!」と悲鳴を上げた。


「な、なに、これ」


 敷布団の下から出てきたのは、人の形に切り取られた白い紙だった。頭の位置をマチ針で突き刺すようにして畳に留められている。ホラー映画で呪いの道具として出てくるような代物だ。

 とてつもない不吉な気配に、思わず七星は後ずさる。


 すると呂色が七星を守るように前に出て、シャーっと毛を逆立てながらその白い紙を爪で引き裂いてしまった。

 無残に破れた人型の紙は、その瞬間ボッと発火してあっという間に燃え尽きる。


「ろ、呂色、危ない! こっちにおいで」


 燃えカスから遠ざけるように、七星は足元の呂色を抱き上げた。

 オカルトの類はあまり信じない方だったが、目の前で起きた怪異にはさすがに膝が震える。しかし良く考えれば、ここはゲームの世界なのだ。何が起きても不思議ではない。


 特に西條家は調伏(ちょうぶく)呪文や加持祈祷(かじきとう)を得意とし、物の怪の類や邪気を払う特殊な能力に長けた一族だった。もしかするとこんなことは、日常茶飯事なのかもしれない。


 気味悪そうに七星が立ちすくんでいると、誰かがこの部屋に向って大慌てで駆け付けるような、荒々しい足音が聞こえてきた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ