②
ゲーム画面には悪役令嬢の鷹司七星が、黒猫の呂色を抱いて寂しそうに縁側に腰かけている。
『今日もお兄様は、私にだけ声をかけてくださらなかったわ……』
メッセージウインドウの鷹司七星のセリフに、胸がぎゅっと締め付けられた。
「ななちゃんにも、幸せエンドがあればいいのに」
このゲームはヒロインの他に、悪役令嬢を主人公に選んでプレイすることも出来た。
正し、特に努力しなくてもストーリーを進めれば簡単にクリアできるヒロインに対し、悪役令嬢は攻略対象者の好感度一つ上げるにしてもかなり苦労する。
しかも分岐点で選択肢を間違えてしまえばすぐに断罪イベントが発生し、高確率で死亡エンドになってしまうのだ。
ハードモードな上に意地悪で不人気なキャラを、好き好んで選ぶユーザーなど滅多にいない。それでも七星は彼女に親近感を持ち、あえて悪役令嬢でゲームをプレイしていた。
「ななちゃんが本当に悪い子だとは、思えないんだよなぁ……」
深いため息をついて、ベッドの上で仰向けに寝転がる。
「ずっと『お兄様』と呼んで慕っていた月也に、義理とはいえ本当の妹ができちゃったんだもん。まだ十二歳のななちゃんじゃ、受け止め切れないよ」
七星は無条件で誰からも愛されるヒロインより、必死に居場所を守ろうとする自分と同じ名前の悪役令嬢の方が、ずっとずっと好きだった。
「あっ、しまった!」
どうやら間違った選択肢を選んでしまったようで、悪役令嬢が崖から落ちていくムービーが流れる。血痕が飛び散り、THE ENDの赤い文字が画面いっぱいに表示された。
「あぁ……またバッドエンドになっちゃった」




