表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
星命  作者: Isel


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

97/108

第八十一話 null moon light

「…うん、アルカディアの言う通りだよ。僕はこの騒動の原因を知ってる」

街中の人々が一斉に気の狂ったようになる、という奇怪な現象を鎮圧した夜、ラビアがそう言った。

「原因なんてあるのか?俺はただの病か何かだと思ってたんだが」

「バーカ」

「は?」

リーフェウスに対して無駄に喧嘩を売ったラビアだったが、その直後に溜め息混じりに訂正する。

「…いや、あながち間違いでもないかもね」

「なんだ?早く教えてくれ。もしかしたら俺の『仕事』かもしれないだろう」

「そうだね…今回の相手は…」

ラビアが言いかけた時、萬屋の玄関のドアが勢いよく開いた。そこから入って来たのは、お馴染みのカロスとセツだった。

「リーフェウス殿!居るか!」

それに話を遮られたラビアは思わず叫ぶ。

「だぁぁぁぁぁ!!今日の僕は何回話を遮られるんだよ!!!」

「珍しいなアンタがキレるの」

やってきた2人の姿を見ると、ラビアは途端に矛を収めて呟く。

「って…いつメンじゃん。てっきりまた誰か暴れ出したのかと思ったよ」

「「私達を『いつメン』で纏めるな」」

カロスとセツは息ピッタリに指摘する。

「何の用さ。仕事も放り出して現世に来るなんて」

「以前から奈落では、少しではあるが暴徒が出現していた。それが今日突然、爆発的に数が増えたのだ。私の部下は全員鎮圧に当たっている」

「上司の君は何してんだよ」

「良からぬ予感を感じてな。ひとまずここを訪ねようと思ったのだ」

カロスが話し終わると同時に、セツが補足する。

「私も同じだ。昨今のスケイドルでは、目から血を流した暴徒が増加していると聞いた」

「この混乱は…この街だけじゃなくて、世界中に広がっているみたいだな。ラビア、改めて説明を頼む」

リーフェウスに促され、ラビアが『やっと話せる』とでも言いたげな様子で話し始める。

「今回の騒動の元凶は…アルカディアやスカーヴ達、赤月の使徒の頭領…『月』って呼ばれてる神だよ」

「今まで何度かその名前は聞いたが…月は何が目的なんだ?アルカディアは知らないか?」

「知りません…というか、聞いた事がありません。赤月の使徒同士は面識があるだけで、大して交流する訳でもないので」

「月の目的は月から聞くとして……僕が話すのは月がどういう存在なのか、だ」

「どういう存在って…神じゃないのか?」

リーフェウスの質問に、ラビアは両手をポケットに入れながら答える。

「神にも色々種類があるのさ。例えば、命に関する権能を持つ神は『死神』で一括りにされる。僕達三神柱だって同じようなものだ。それで、月は『概念種』っていう分類だね」

「概念種?」

「そう。何かしらの形而上の概念…つまり、形の無い物が具現化した神だよ。言ってしまえば神の上位互換だ……アイツも…」

「そんな上位の存在が何故この星を狙うんだ」

「それは月に聞かないと分からないよ。それより僕達が議論するべきなのは、月とどう戦うかだ」

そのラビアの言葉を聞いた瞬間、アルカディアが少し大きめの声で叫ぶ。

「月と戦う…!?無謀です!貴方達の命を無駄に散らす事になります!」

「そうは言ってもさ…これが僕達の役目なんだよ」

「っ…!ですが…」

アルカディアはまだ何か言いたそうだったが、諦めたように溜め息を吐いてこう言った。

「…ハァ…貴方の事だ。どうせ結論を変えるつもりは無いのでしょう?」

「よく分かってるじゃん。それじゃ、本題に入ろうか」

ラビアは萬屋の全員とカロスとセツを居間の中央に集める。

「今回の相手の目的は至極単純…この星を滅ぼす事だ。そう来られたら、僕達も黙ってる訳にはいかないよな?」

「ああ、作戦を立てよう。アルカディアの動揺と、今日の騒動から推察するに…行動は出来るだけ早い方が良いだろう」

「その通り。まぁ、作戦って程でもないけど」

ラビアは居間の隅にある物置から紙とペンを引っ張り出して、大雑把な文字を書き始めた。

「……よし、これで良い」

そこにはこんな事が記されていた。

ーーーーーーーーーー

月を直接叩く組

・僕

・リーフェウス

・セツ

・アルカディア

別動隊

・それ以外全員

ーーーーーーーーーー

その内容を理解した時、全員は多少の困惑に見舞われた。主に、下の『別動隊』の部分に。

「……ラビア殿、説明を頼む」

「うん。上のやつは説明要らないでしょ?単に最低の人数で最高の戦力になるようにしただけだし」

ラビアの言葉の後に、硝光が手を挙げながら言う。

「アタシ達人間組とかは何するんだよ?別動隊って言われても分からないぞ?」

「それは…まだ言えないけど。とにかく結構大事な仕事をしてもらうよ。強いて言えるのは深淵に行ってもらうって事かな。カロスとセイリアには人間組の護衛をしてもらうよ」

カロスやセツなどの人外連中はともかく、人間組はまだ気持ちの整理がついていないようだった。

「正直…不安だわ。いくらあなたの策といっても…星を滅ぼそうとする程の存在に通用するのかしら」

言葉通りの不安そうな様子で呟いたのは灰蘭だった。

「あの戦いを思い出してみなよ。僕より強大で恐ろしい相手が想像出来るかい?」

「……ふふ。確かに…それは想像出来ないわね」

「でしょ?じゃあさっさとやるよ。明日で良い?」

「ああ」

一同が同意した時、リーフェウスがふと思いついたように言う。

「そういえばカロス…協力してくれるんだな。この星が滅びたらアンタの仕事が減ったりしないのか?」

その問いに対して、カロスは真顔で返答する。

「減る訳が無いだろう。奈落は全宇宙からの死者を迎え入れているのだから星が1つ滅んだ程度で私の仕事が減るものか」

「あ…ああ」

その謎の圧に、リーフェウスは言葉を詰まらせる。

「そもそも星が丸ごと滅ぶのなら私の仕事はむしろ増えるぞ?私は死ぬ時までこの仕事から逃れられないのだ。まぁもう死んでいるしそもそも死ねないのだがな。ハハハハハハ」

「分かった。俺が悪かったからもうその辺りで…」

「リーフェウス殿。私は君になら如何なる無礼を働かれても咎めるつもりはないが、仕事に口を出すのは別だ。この仕事の経験がないのならこの仕事に対して知った風な口を効かないでくれ」

「ああ、ああ。本当に…本当に俺が悪かった」

その様子を見ながら、セイリアはアルカディアに耳打ちする。

「この者達は…いつもこんな調子なのか?」

「ええ。そのお陰か…月を相手にするというのに、何故か緊張していません」

「ふふ…我もだ。温かい場所だな、ここは」

彼らの一大作戦が、今始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ