第八十話 凶月が目を醒ます
なんと、最終章です
スカーヴとの一件から数日経ったある日の事。リーフェウスは椅子に座って本を読み、ラビアはその向かいの席でモ◯ハンをしている。今日は萬屋の休業日であり、他の面々も全員自室に居る。
「…そろそろいいだろう」
リーフェウスは立ち上がって外に干した洗濯物を取り込みに行く。今日の洗濯物当番はリーフェウスなのだ。少しして、リーフェウスは真顔で室内へと戻ってきた。
「何してんの?まだ乾いてなかったの?」
リーフェウスはどこか様子がおかしい。
「いや、その…変な話だとは思うんだが…」
「何さ、早く言いなよ」
「それが…その…月が……2つあるんだが」
「…はぁ?」
確かに今は昼だが、季節の関係上昼でもうっすらと月が見える。だがそれでも、月が2つになるなどあり得ない。
「いや本当なんだって。ていうかアンタなら分かるだろ、権能で」
「僕はこの目で確かめた事しか信じないようにしてんの」
「じゃあ確かめて来い」
「ああいいさ。どっちが馬鹿なのかをはっきりさせてやるよ」
そう言って、ラビアは外に出ていった。そして10秒程経ってから、中に入って来る。
「どうだった?」
ラビアは無言で元の席に座り、真上を向いて大きな溜め息を吐きながら言った。
「…馬鹿が2人に増えたみたいだ」
「ほらあっただろ。しかもなんか赤い上に今は昼だし…どうなっているんだ」
「ハァ……リーフェウス。今から大事な話を…」
そのラビアの言葉を遮って、萬屋の戸が叩かれた。その音の直後に、焦ったような様子の若い女性の声が聞こえてくる。
「あ、あの!すみません!今日が休業日って事は知ってるんですが…どうかお力を貸していただきたい案件が…!」
リーフェウスはドアを開けて女性と対面する。
「落ち着いてくれ。状況は?」
「あ、あの…父が、急に目から血を流して…それから、暴れ出して…」
女性は錯乱しているようだったが、最低限の状況はなんとか理解できた。
「…分かった。向かおう」
「僕も行くよ」
依頼人の女性とラビアとリーフェウスは、その女性の父親の元へ向かった。
「私の家はここです」
「隣人かよ」
「何で知らないんだアンタは」
「僕家から出ないから…」
すると、家の中から何かが割れるような音が聞こえた。
「あ…!きっと父です…」
「さっさと止めよう」
「止めるってどうやってだ?」
「知らないよ、何か案があるんじゃないの?」
「アンタを頼る気満々だったんだが」
「ぶっ殺すぞ」
その時、室内のドアが蹴破られて、女性の父親が顔を見せた。報告通り、目からは血を流しており、表情も正気のそれではない。
「グ……ヴァァァァァァァッ!!!」
濁点塗れの雄叫びを上げながらラビアに襲いかかってくる。
「何で僕なんだよ」
ラビアは指を思いっきり鳴らして、魔力の波動をぶつける。女性の父親は襲いかかる時の姿勢のまま、うつ伏せに倒れ込んだ。
「…悪いんだけどさ、この人縛っといてくれる?」
「え?」
「正気に戻すのは一筋縄じゃいかなそうなんだ…大丈夫、必ず元に戻すからさ」
女性を安心させるような口調でラビアは言う。
「さて、一旦帰ろう。話さなきゃいけない事もあるしね」
「死ね?」
「今そんな更年期みてぇなボケしてる場合じゃないから」
2人が萬屋に帰り、ラビアが何かを話そうとした時、今度は外から大勢の足音が聞こえてきた。
「すみません!うちの旦那の様子が…!」
「姉が目から血を流していて…!」
「僕の妻が…!」
先程の女性の父親と同じような症状が、この近辺で多発しているらしかった。
「…この星に何が起こっているんだ」
気づけば、空さえも赤色に染まっている。結局その日は萬屋の全員が1日かけて問題の解決に当たった。そしてその夜…
「疲れた…」
「アルカディア大活躍だったじゃん」
「お役に立てて嬉しい限りですが…今回の騒動は正直異様です。ラビアさん、貴方なら何か知っているのでしょう?」
「…君も大体分かってるだろ」
「……はい」
空には赤と金色の満月が浮かんでいた。
魔法と異能の見分け方は、攻撃にしか使ってなければ「魔法」で、攻撃以外の用途(移動など)にも活用出来ていれば「異能」です




