第七十八話 ジェスト!ジェスター!!ジェステスト!!!
「さァ、始めまショウ?」
その台詞を言い終わる前に、ジェストは周囲に大量のメスを出現させ、それらを飛ばして攻撃してくる。
「おい卑怯が過ぎるだろう」
「卑怯?卑怯?知らないデスねぇ。勝てば良い、勝てば良いのです!」
カロスは鎌と異能を用いて刃の雨を弾いていく。少しして、カロスはその刃の雨の中に数枚、トランプのようなものが含まれている事に気づいた。
(トランプ…?撹乱か?)
そう思ったのも束の間。完全に警戒していなかったトランプは、カロスの顔の真正面で爆発した。爆風に包まれるカロスを見て、ジェストは心底愉快そうに笑い出す。
「アハハハハハハハ!!騙されまシた?騙されましたネぇ!!愉快!愉快!!愉快愉快愉快愉快!!!」
「そうだな、愉快というより滑稽だ」
次の瞬間、ジェストの首元に大鎌の刃部が添えられる。
「私が死に縁の無い存在だと知らずに、1人で勝ち誇る君の姿は実に滑稽だ。道化師の名に相応しいな」
一見するともうカロスの勝ちが決まっていそうだが、ジェストは依然として不気味な笑みを崩さない。
「フフフフフフ…」
ジェストが指を鳴らすと、カロスの正面にあったはずのジェストの身体は、カロスの後ろへ移動していた。
「…一体どういう能力なんだ?最初はメスを操る能力かと思ったが…」
「アハハハハ…冥土の土産に教えまショウ!ワタシの能力は…『手品』です」
「手品?」
「そウ。例えば…」
ジェストはおもむろに両手を広げ、右手の指を鳴らした。すると、ジェストの左手にメスが現れた。
「手品ハ見た事ありまセンか?」
「そんな金ある訳無いだろう」
「アハハハハハ!!でアレば見せてあげますよ!!一生分の!そして人生最後の手品ヲ!!!」
ジェストの情緒の不安定さに、感情の乏しいカロスですら多少の恐怖を覚えていた。
「さァ!さぁサァ!!タネも仕掛けも一切無し!魔死っ苦傷の始まりデス!!」
ジェストは再び、トランプ爆弾とメスの弾幕を展開する。
(ジェストの攻撃…支離滅裂な言動に反して考えられているな。メスを避ければトランプに当たり、トランプを気にし過ぎればメスが身体に突き刺さる…)
その時、カロスの視界の端に1つの小石が目に入った。
(小石…?どうせジェストの撹乱だろうが…)
カロスが警戒を小石に割いた瞬間、カロスの左足をメスが貫いた。
「…」
とはいえメスの刃は小さく、カロスにとっては表情を変える程の痛みではなかった…のだが。
「…っ!?」
先程の小石がカロスの首元で爆発した。カロスは不死身が故に死ぬ事はないが、それでも熱さや痛みは感じる。
「ハァ…神経を削る相手だ」
カロスはもう帰りたくなっていた。
「さっさと片付けるぞ。私に残業手当ては存在しないんだ」
その瞬間、ジェストの足元から巨大な氷柱が生える。
「おや危ない」
そして次に、ジェストは自分の背後から何かを引き裂くような音が鳴った事に気づいた。
「見え見えデスね…」
ジェストは指に挟んだメスを音の鳴った場所へ振り抜く。
「おや…?」
だがそこにカロスの姿はなく、ジェストは反射的に振り向く。振り向いている最中に、カロスの声が聞こえてくる。
「フェイクだ。騙されたな」
カロスは勢いよく大鎌を振り下ろし、ジェストの左腕を斬り落とした。
「1つ聞きたいんだが…何故君は他者の命を害するんだ?」
その問いに、ジェストはより一層狂気染みた笑いを浮かべて答える。
「ヒャヒャヒャヒャヒャ…理由?理由??有りませんよ!ただ強いて言うならば……ワタシは解放されたのです!『躊躇』という…無意識の枷かラ!!」
ジェストは斬り落とされた左腕の断面同士を、何度もぶつけ合っている。何度も、何度も、何度も何度も何度も。その度に、周囲には『グチャ、ズチャ』という気分が悪くなるような音が響き渡る。
(この者は常軌を逸している……いや、そもそも…『者』と呼んで良いのか?この生き物は…)
「さて…雑談はこコまでニしましょうカ!」
ジェストは指を鳴らして左腕を再生させると、再び刃の雨を降らせていく。以前と違うのは、ジェスト本人も攻撃に転じているという点だ。
「ずっと捌いてミタかッたのでス!!アナタは…死神様の血は!肺は!脳は!心臓は!どのような色をシているのか!!ああ……気になって気になって仕方がアりませン!!!」
「…もう喋らないでくれ。不愉快だ」
表面上は余裕そうだが、実際のところカロスに余裕はなかった。単純な手数の多さと、狙ってやっているのか分からないが言動による精神攻撃によって、流石のカロスも苦戦していた。
「同じ手ばかりは飽きまスよねぇ?コレはどうでしょウ?」
ジェストは拳銃を手に取り、カロスに向かって発砲してきた。
「ここに来て火器か…!全くストレスの溜まる…」
「ンー…最後の1発デスか」
その発言の直後、ジェストは銃口を迷いなく側頭部に近づけ、引き金を引いた。
「な…!」
当然、ジェストの頭部からは大量の血が流れている。だがそれでも、ジェストは何事も無かったかのように笑っている。
「アハハハハハハ…!!楽しい!楽しイ!!楽シイですよ!!!!!」
そんなジェストの様子を見かねて、カロスは空間を裂いて別次元へ入り込む。
「おヤァ…???逃亡ですかァ??」
「違う。考えが回っていないようだが、頭でも打ったか?…おっと失礼、頭でも撃ったか、だったな」
次の瞬間、カロスが大鎌で次元を引き裂きながら現れ、ジェストの身体を刃部の先端で貫いた。
「アハ…!!」
「この程度じゃ死なないだろう?」
そしてカロスは、追い討ちとしてそのまま鎌を横に振り抜き、ジェストの脇腹を内側から斬り裂いた。
「ハァ…やっと倒れたか」
カロスはしばらく、倒れているジェストの身体を見つめていた。しかし、そのジェストの身体に向かって細い糸のようなものが伸びている事には、何故か気づく事が出来なかった。
キャラクタープロフィール
名前 ジェスト
種族 半魔族(元人間の魔族)
所属 赤月の使徒
好きなもの 楽しい事
嫌いなもの 楽しくない事
異能 手品らしい事は何でも出来る
概要
私から直々に「コイツは人間とは呼べない」と称された男。前回言及されていた「変身能力」とやらも全部異能。ジェストが人を殺す理由は、当人に対する憎悪でも、ジェスト本人のストレスでもない。ただ目に入ったから殺す。道端で列を作っているアリを、その時の気分で踏み潰すのと同じ感覚なのです。イメージした言葉は「狂気」「悪意」「道化師」




