第?話 不滅の反意、劫火の如く(後編)
豆知識
「〇〇を操る」系の能力は、操る物に魔力を混ぜて応用を効かせています。だからスカーヴは血の能力なのに自己強化とか出来る訳です
もとい魔力がどうのとか言っておけば複雑な事考えなくて良…おっと、口が滑りましたね。
スカーヴにとっての最初のマフィア狩りから半年。彼は絶えず響き続ける幻聴に従い、同胞の仇となる組織の者や、その界隈に属する者全てを狩り尽くそうとしていた。
「次はあそこだ」
スカーヴは、いつしか『マフィア狩り』の通称で呼ばれ、恐れられるようになった。だが、そんな通り名などスカーヴには関係ない。自分が見捨て、自分を恨みながら死んでいったであろう同胞達への贖罪として、彼らの仇を狩り続ける。それだけだ。
「うん?何だ今の音」
拠点の見張りをしている男が、異音に気づいて警戒を強める。まぁ、それが彼の遺言となったのだが。
「…見張りは1人か」
スカーヴはたった半年と言えど、その半年間は自殺行為としか言えない程の連戦をしていた。その為、スカーヴの戦闘の腕は凄まじい速度で上昇していっていた。
「さて、ここには一体何人の敵が…」
その時、スカーヴに向かって数発の銃弾が飛んで来た。反射的に刀で弾いたものの、意識外からの攻撃には未だ慣れないようだった。
「仕事だフィクサー。マフィア狩りを消せ」
「分かった。金を用意しておけ」
簡易的な住居の中から出て来たフィクサーと呼ばれた青年は、背中から抜いた剣を構える。黒い髪と、郊外は決して寒くないというのに何故か着用しているマフラーが特徴的だった。
「子供じゃないか…もっと骨のありそうな奴が相手かと思ったが」
「…言うじゃないか、雇われ人の分際で」
2人の激突が始まった。スカーヴは先程殺害した相手のものも含め、今まで吸収した血液を駆使して多彩な攻撃を仕掛ける。対するフィクサーは、その全てを剣術と身体能力だけで捌いていく。
「…単調な攻撃だ。雇い主は本当にこの程度の奴を恐れていたのか?」
(馬鹿な…!俺は魔力を使って戦っているのに…コイツは素の身体能力だけで対処している…その上顔色1つ変えていないだと…!?コイツは…コイツは本当に人間か!?)
まぁ確かに人間ではないが。スカーヴの攻撃を『単調』と言い放ったフィクサーは、スカーヴの刀を弾いて腹を蹴り飛ばす。
「俺だって仕事は嫌いだ。さっさと消えてくれ」
「お前に…構っている暇は無い!」
「お…」
スカーヴはフィクサーに向かって斬りかかり、フィクサーが少し怯んだ隙に奥に見える大きめの建物の中へ入っていった。
(ボディーガードを相手にしても意味はない…早急に構成員達を皆殺しにせねば…!)
スカーヴは、入った時に目に留まった『立ち入り厳禁』と書かれた部屋のドアに手をかける。
「ここに何か重要な物でもあるのか…?」
その黒いドアを開けると、その中には…
「な…んだ、これは…」
部屋の中には、真っ黒な大穴が空いていた。穴の端からは黒い魔力が溢れ出しており、見ていると徐々に気分が悪くなってくる。その時だった。スカーヴの背中を、誰かが力強く蹴り飛ばした。
「失せろ」
スカーヴに追いついたフィクサーが、大穴に落下していくスカーヴに向かって吐き捨てた。
「貴…様…!その顔と名前…覚えたぞ!フィクサァァァァァァァ!!」
スカーヴの身体は、暗闇の中へ消えていった。その様子を見ながら、フィクサーは1人呟く。
「しかし…ここは何の部屋だ?」
「知る必要は無い」
突然、後ろから雇い主が声をかけた。
「お前は命令をこなし、我々は報酬を払う。それだけだ。それ以外は考えるな」
「…ああ」
フィクサーは報酬を受け取り、どこかへと去っていった。
一方、スカーヴは…
「クソ…何なんだここは…!」
異形の怪物が跋扈する暗闇の世界、深淵に落ちてしまっていた。
「ここの生物からは血が出ない上…大気が汚染されているのか?酷い気分だ…」
当然、彼は淵気だとか淵族だとかの事は全く知らない。それでも、スカーヴは深淵から一刻も早く脱出する為に歩を進める。
しばらく歩いた頃、スカーヴの耳をとてつもない咆哮が貫いた。
「う……耳障りな」
その音の正体を確かめる為、スカーヴは静かに音の鳴った方向へと向かう。
「…本当に訳の分からない場所だ」
そこには、黒い液体で出来たかのような姿をしている巨大な大蛇がいた。他の淵族と同様に、身体中にグリッジが走っている。
「触らぬ神に祟り無し、だ。離れた方が…」
「!!!!!!!!!!!!」
スカーヴの独り言を遮るように、その大蛇は雄叫びを上げた。そして、そこでスカーヴは気づく。
「……?…何か…俺の方を向いている気が…」
「!!!!!!!!!」
「いや気のせいじゃないな!」
スカーヴは刀を抜いて大蛇に向かっていく…が、凄まじい速さで振り抜かれた尾に弾き飛ばされ、付近の壁に叩きつけられた。
「グァ…!」
(何だこの生き物は……今まで遭遇したどの生物よりも強いぞ…)
その時、辺りの景色が赤みがかり、大蛇の動きが止まる。スカーヴはその現象に覚えがあった。
「また死に瀕しているのかい?」
「月…」
いつの間にか隣に浮いていた真月が、貼り付けたような微笑みと共にスカーヴに語りかける。
「今度は何の用だ」
「そう邪険に扱わないでくれ。私は君を気に入っているんだ」
「俺を?何故?」
「君からは純度の高い悪感情を感じる…詳細は言わないけど、私は人の悪感情を自分の力に変換出来るんだ」
「…俺を気に入っているならば、1つ答えてくれ。アレは何だ?」
スカーヴが指を指したのは、先程スカーヴを叩き飛ばした大蛇である。
「アレは…フフ、面倒なのと出会ったね。あれは『星喰』だよ」
「星喰?」
「そう。様々な星を渡り歩いて、訪れた星のエネルギーを喰らう怪物だ。星喰が来た星は、例外なく廃星となるんだよ」
「そんな奴がどうしてここに?」
「決まってるじゃないか…この星を標的に決めたんだよ。ここで君が星喰に勝たなければ、この星は終わりだね」
「流石に星ごと仇を滅ぼしたいとは思わないが…俺に勝てるのか?」
「無理」
「おい」
「だから私が来たんだよ。君にこの前与える予定だった力の、もう半分を与えにね」
「…代価は?」
スカーヴは少し声色を変えて、警戒しているかのように尋ねる。
「代価なんて必要ない。強いて言うなら、私の部下になってもらうくらいだけど…特に指示も何も出さないよ。君のやりたい事をやってくれれば、私の利益に繋がるからね」
「…信じて良いんだな」
「ああ、当然さ。それじゃ…また会おう」
次にスカーヴの意識が目覚めた瞬間、スカーヴの身体を星喰の牙が貫いた。
「本当に…能力渡すだけで帰ったのか…月…!」
その時、スカーヴは激痛の中でも何故か喋れている自分に驚いた。そして、彼はすぐさまその理由を理解する。
「そうか…これが…!」
スカーヴの脳内に1つの言葉が浮かんだ。それは、真月がスカーヴを気に入った要因となる物…正確には、それによって引き起こされる物。
『反逆』
真月は、スカーヴの中に渦巻く烈火の如き反意に目をつけたのだ。だが、彼は何に反逆すると言うのだろう。マフィアか、フィクサーか、真月か…それともこの世界か?
「…どれも正解だ…が、今だけは違う」
それでは、今の彼は一体何に反逆すると言うのだ?
「俺は…俺の死に反逆する!」
そして、スカーヴと星喰の大激闘が幕を開けた。何日戦っていたのかは分からないが、スカーヴは幾度となく腹を貫かれ、全身を焼き焦がされ、身体中の骨を砕かれた。だがその度に、スカーヴは緋色の光の中から蘇る。そして遂に…
「……!!!!」
「勝っ……た…」
星喰は空間を食い破って逃げるように立ち去り、幾多の死の末にスカーヴは勝利を掴み取った。その死亡回数は263回。スカーヴは歴とした人間だが、彼の実力は最早人間という枠には収まらない地点まで来ていた。
「おや…勝ったみたいだね」
「ああ…」
「お疲れのようだから、一言で済ませよう。これからよろしく頼むよ…『反逆者』」
スカーヴはそのまま眠りに落ちた。目が覚めると、スカーヴは現世に帰って来ていた。しかし、深淵での激闘を経ても尚、彼の心に変化はない。
「…首を洗って待っていろ。フィクサー…!」
その烈火……いや、劫火の如き反意は、永遠に消える事は無いだろう。
全てに反逆する事を決めたスカーヴ君ですが、一瞬ナレーター君と会話してるっぽいんですよね。
という事は…




