第七十四話 仇敵の喉は赤刃の先に
懺悔
郊外編に繋げる為の動機が雑過ぎる。許してください。セツの性根が世話焼き好きな善人だという事で。
リーフェウス、ラビア、ヴァルザ、硝光、灰蘭の5人は、『マフィア狩りを救ってやってほしい』というセツの依頼を受けて郊外までやってきた。しばらく歩いた頃、ふとヴァルザが呟く。
「てか、セツは来なかったんだな」
「ああ。何でも、多対一の『多』側に回りたくないそうだ」
「何故かしら…」
「それは……本人に聞いてくれ」
リーフェウスは、なんとなくその理由がセツの過去に由来するのだと分かっていた。景色の変わらない荒地を歩き続けていると、遠くの方からよろよろと血塗れの男が1人歩いて来た。硝光は驚きのあまり反射的に声を上げる。
「うわっ!ど…どうしたんだよそれ…?」
男は力無い声で呻くように話す。
「誰だ……いや…誰でもいい…助けてくれ…」
「何だ?…大体予想はつくが」
「マフィア狩りだ…マフィア狩りが出やがった……一瞬で…その拠点にいた奴らは皆殺しにされた…」
「アンタもその組織の奴か?」
「そうだ…」
男は怪我や精神的な疲労の影響なのか、やけに素直に答えた。だが、すぐに我に帰って焦ったように確認する。
「まさか…お前らも俺をどうこうしようってんじゃないだろうな…」
「違う。今の目的はアンタ達じゃない。場所を教えてくれ」
「…アイツとやり合う気か?命が惜しいなら辞めておけ…」
「そう言われても、マフィア狩りと接触するのが依頼だからな」
「…まぁ…お前らが死のうが生きようが知ったこっちゃねぇ。俺が来た方向に行け。まだ離れてないはずだ」
そう言い残すと、男はフラフラと何処かへ歩いていった。
「…急ごう」
5人は、所々がひび割れた大地を走り抜けていく。途中で時折ラビアが『帰りたい』と呟いていたが、誰も反応しなかった。数分ほど走った時、崩壊した数個のテントのような物の中央に、1人の青年が立っているのが見えて来た。後ろを向いているので顔は見えないが、長めの黒髪と刀を携えている。
「あれか…」
「セツの話通り…一滴も血が落ちてないわね」
「…よし、ちょっと話しかけてくる」
「1人で行くのかよ?」
「大勢で行ったら警戒されるだろう?」
リーフェウスはゆっくりとマフィア狩りに近づく。
「なぁ、少し良いか?」
「何だ?お前もコイツらの…」
マフィア狩りが振り向いた瞬間、その赤い両目が見開かれた。
「…ククククク……フハハハハハハハハ!!」
「うわ何だ気持ち悪い」
「ハハハ…悪い。思わぬところで幸運に恵まれたのでな」
「幸運?俺と会った事がか?」
「ああそうだ…」
そう言いながら、マフィア狩りは刀を鞘から抜く。鞘から出て来たのは、鮮やかな赤い色をした刀だった。
「この日を待ち侘びたぞ…フィクサァァァァァァァ!!」
その台詞とほぼ同時に、マフィア狩りがリーフェウスに向かって斬りかかってくる。何とか避けはしたものの、あまりに突然の出来事にリーフェウスは地面に転がる。
「おい大丈夫かよ!?」
「結局こうなるのね…」
「今確信した…正直単なる偶然かと思ってたが……アンタはやっぱりあの時の…」
「フィクサー!お前は知らないだろう…俺はお前に対する復讐の為に…今日まで技の研鑽を重ねてきたのだ!」
マフィア狩りは刀を構え、リーフェウスに向かってそう叫んだ。
「"纏式 反意の証明"」
マフィア狩りがそう呟くと、その赤い刀の周りに血が集まり始めた。そして、それらは赤黒い炎に変わる。
「改めて名乗っておこう…俺は赤月の使徒、『反逆者』スカーヴだ!」
スカーヴは炎を纏った刀と共に襲いかかってくる。標的は当然リーフェウスだ。
「リーフェウス!」
ヴァルザが加勢しようとするが、スカーヴはそれを望んではいないようだ。
「チッ…外野は大人しくしていろ!"斬式ニ型 散桜"!」
スカーヴが刀を横に一振りすると、スカーヴの周囲に数本の赤い斬撃が飛び交った。どうやら彼はリーフェウスとの一騎打ちを望んでいるようだ。
「そういう訳にもいかないぜ!そいつはうちの店主だからな!」
「私の資金源が無くなるのは困るわ」
硝光と灰蘭がそれぞれスカーヴに斬りかかるが、スカーヴは軽やかに身を捻り、2人を蹴り飛ばした。
「うっ…」
「やるわね…」
「硝光…君出血してるじゃん。治す?」
「いや、かすり傷だしまだ大丈夫だ」
硝光がラビアの提案を断った時、スカーヴが突然左手を硝光に向けた。すると、流れ落ちた硝光の血液が鋭く尖り、硝光の腕を貫いた。
「痛っ…!」
「ほら治した方が良かったじゃん」
「結果論だろそれ…!」
硝光がラビアに治療を受けていると、スカーヴはリーフェウスに向かって叫ぶ。
「公平な勝負の為に教えてやろう…俺の1つ目の能力は『血を操る能力』だ」
その言葉に、場の全員は違和感を覚える。
「1つ目…?」
「2つ目があるって事か?」
「それはまた教えよう…それまでお前が生きていられればな!」
再び、スカーヴの激しい剣撃が繰り出される。いつもの事だが、リーフェウスとしては殺す事が目的ではない為、攻撃を受け流しつつ隙を探していた。
(お困りのようだね)
突然、そんな声がリーフェウスの脳内に流れ込んできた。
(何の用だラビア!頭に直接声を送るのは気持ち悪いからやめろって言ったはずだぞ!)
(随分と余裕そうじゃないか。僕の助けは必要無さそうだね)
(待て待て待て!必要だ!必要だからやってくれ!)
(ハァ…手のかかる後輩だよ全く…)
その時、スカーヴ以外の全員の脳内に指示が飛んできた。
「さて…久しぶりに連携してみようか」
ラビアの掛け声と共に、灰蘭が片方の剣をスカーヴに投げつける。が、スカーヴはそれを剣撃の片手間に払い落とす。
「この程度で援護のつもりか?」
「まだアタシがいるぜ!」
灰蘭の投擲で生まれた死角から、硝光が雷を帯びた槍をスカーヴに突き刺す。
「小賢しい…!」
そして感電によって動きの止まったスカーヴに向かって…
「はい、おしまい」
ラビアが指を鳴らして大量の斬撃を浴びせる…はずだった。
「…舐めるな!大勢でかかれば俺に勝てるとでも思ったか!"斬式終型 命枯れ"!!」
スカーヴの周囲で、『散桜』よりも更に多い斬撃が交差する。ラビアは回避出来たが、硝光と灰蘭は何発か食らってしまった。
「一般人には手を出さないようにしていたが…ここまで俺の邪魔をするのならば、俺の敵と見做して差し支えは無いな!"脆式 紅霧"!」
血の香りがする赤い霧が立ち込め、リーフェウス達の身体を蝕んでいく。
「…それも読んでいたらしいぞ、アイツはな」
リーフェウスの頭上に『旋』の文字が浮かび、剣を振る動作と合わせて赤い霧をスカーヴごと吹き飛ばす。空中に舞い上がったスカーヴに向かって、ラビアは手を振りながら言う。
「言ったでしょ?『おしまい』だって」
スカーヴが後ろを向くと、大剣を振りかぶるヴァルザの姿があった。
「くたばれ!」
ヴァルザは大剣の峰で、スカーヴの後頭部を殴り倒した。
「クソ…!」
スカーヴは地面に叩きつけられ、膝をつく。
「はい終了。さっさと帰ろ…」
ラビアがいつも通りの様子でまとめようとした時、突然スカーヴが頭を抱えて苦しみ出した。
「ッ…!ああ…忘れてはいない…!俺の…俺達の敵は…1匹残らず屠り尽くす!」
スカーヴは脳震盪を起こしているはずだったが、それでも力強く立ち上がった。
「"脆式 紅霧!"」
再びあの赤い霧が立ち込める。全員の視界が悪くなったところで、またもやスカーヴの声が聞こえてくる。
「"終式一型 暮亡"!」
その瞬間、リーフェウスには見えた。灰蘭の首が、胴体と泣き別れるシーンが。咄嗟に『神』の力を使ってその未来は免れたものの、スカーヴの攻撃は止まらない。
「"終式ニ型 顎割"!」
またリーフェウスの脳内に不吉な映像が流れる。今度は、ヴァルザが喉と顎を2つに割られるシーンだった。再び『神』の力を使って未来を変える。リーフェウスは既に嫌な予感がしていた。今のリーフェウスでは、未来改変は1度の戦闘で3回までしか使えないのだ。
「"終式三型 三界破壊"!」
3本の交差した赤黒い斬撃が、3つずつ周囲に落とされる。リーフェウスの予知では、これによってラビア以外の全員が死ぬ筈だった。その未来も改変するが、もう未来を変える事は出来ない。
(頼む…もうこれで終わってくれ…!)
そんなリーフェウスの願いも虚しく、スカーヴは奥義であろう技を構える。
「これで終わりだ!"終式終型 塵滅刃"!!」
『散桜』はおろか、『命枯れ』すらも凌駕する程高密度な赤黒い斬撃の嵐。文字通り、範囲内の全てを塵と化して滅ぼしそうな斬撃がリーフェウス達を襲う。当然、リーフェウスには自分達が死ぬ未来が見えていた…が、今度はこの男が未来を変えた。
「悪いんだけどさ、僕は残業嫌いなんだ」
ラビアがあの悍ましくすらある斬撃の雨を、黒いグリッジと共に全て打ち消し、スカーヴの身体に幾つもの銀色の斬撃を浴びせた。
「…!」
スカーヴは力無く地面に倒れ込んだ。
「…仕方ない…か。助けてもらった以上、文句も言えないしな」
リーフェウスはラビアに礼を言おうとしたが、ラビアの表情は硬いままだった。その時は誰も目を向けていなかったが、スカーヴの死体からは緋色の光が放たれていた。
没キャラクタープロフィール
名前 裁刑
種族 神
所属 三神柱
好きなもの 刀 鳥 団子
嫌いなもの 神
権能 災いを司る力
作者コメント
今話で本格的な登場を果たしたスカーヴの原型。能力以外は概ねスカーヴと同じで、当初はセツと浅からぬ因縁がある予定だった。没理由は以下の通り。
・セツとどんな因縁があるのか思いつかなかった
・なんかコイツも仲間になりそうな気がして嫌だった
・死ぬ程立ち位置に困るキャラだった
・あと多分コイツは第二部で出す程強くないから




