第七十話 vs破壊竜
豆知識
アルカディアのバフを受けた人は、後頭部にアルカディアと同じようなヘイローが現れます。ただ、アルカディアのと違って触れませんし、バフをかける対象の数が多いと出ません。ゲームの容量削減と同じ感じです。
人1人程度ならば余裕で焼き尽くせそうな黒炎をアルカディアが防いだところから、アジダハーカとの戦いは幕を開けた。普段通りに武器を構えて前に出るリーフェウスだったが、何かがおかしい。
「…何で前衛が俺だけなんだ」
能力が支援向きのメイとアルカディアはともかく、先程凄まじい実力を見せたセイリアや、言わずと知れた最強であるラビアまでもが後衛から動こうとしなかった。
「我が力を使えば…アジダハーカを傷つけることになる。我はアジダハーカを負傷させたくない。もちろん、できるだけ力になろうとは思うが」
「なるほどな…で、ラビアは何故動こうとしない」
その問いに、ラビアは左手の平を上に向けて答える。
「今回の目的はアジダハーカを『正気に戻す』ことだろ?『殺す』ってんなら話は別だけど…依頼人はそれを望んじゃいない。ヒーローごっこに僕を巻き込まないでくれ」
いかにもラビアらしい、捻くれた返答だった。
「リーフェウスさん!前!」
メイの大声と共に、リーフェウスは反射で跳び上がる。さっきまでリーフェウスがいた場所には、鉄すらも引き裂けそうな鋭い爪が振り下ろされていた。
「さぁ…無苦なる理想郷へ…!」
アルカディアがいつか聞いた詠唱を口にすると、リーフェウスの後頭部に光輪が現れた。
「おお…すごいなアンタ。ラビア殺せるんじゃないかこれ」
そんなリーフェウスのブラックジョークに、アルカディアとセイリアは『?』という顔をし、メイはトラウマを思い出し、ラビアは…
「自惚れんなバーカ」
と吐き捨てた。
「!!!!!!!!!!」
「熱ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
大滑りしたリーフェウスを咎めるかのように、アジダハーカの黒炎が襲い掛かる。危うく丸焼きになるところだったリーフェウスを眺めながら、メイが呟く。
「アルカディアさんのバリアって他の人につけてあげられないんですか?」
「生憎ですが…あのバリアは人々の『排他』の願いが基になっているので、他人には付けられないのです」
「そうですか…」
その時、アルカディアがリーフェウスに呼びかける。
「リーフェウスさん、私の祝福はそう長く持ちません。早めに片をつけて下さい」
「そう言われてもな…!」
先程ラビアも言っていたが、今回の相手は殺してはいけない。その縛りが戦闘の難易度を高くしていた。そもそもがそういう依頼であったが、それを抜きにしても、アジダハーカはセイリアの唯一の家族だ。どのみち殺す訳にはいかない。
「君ならどうにか出来るだろ?僕に勝った奴なら楽勝の筈さ」
「それは励ましか!?」
「好きに取れよ」
リーフェウスは幾度と無くアジダハーカに斬りかかるが、肌を覆う鱗が非常に硬く、斬撃が通らない。アルカディアの祝福があってこれなのだから、リーフェウスは攻撃以外でアジダハーカを無力化する方法を考え始めた。
「…よし、やってみるか」
回避しながら、リーフェウスは数十秒ほどして作戦を思いついた。
「止まれ!」
リーフェウスの頭上に『制』の文字が浮かび、剣を振る動作と共に青白い波動を放つ。
「……!!!!!」
それに当たったアジダハーカは、一瞬動きが鈍くなった。
「次はこれだ…!」
今度は、リーフェウスの頭上に『浄』の文字が浮かび、剣の先からアジダハーカの額に向かって青白い光が放たれる。だが…
「!!!!!!!!!!!」
特に効いた様子も無く、リーフェウスはアジダハーカによってラビアの足元まで叩き飛ばされた。
「これでも駄目か…」
「『これでも』って程凝った作戦でもなかったけどね」
「無い頭絞って考えたんだよ」
「あれ程の破壊衝動がそう簡単に収まる訳ないだろ?手段は攻撃以外無いんじゃない?」
「だから攻撃は…」
2人が言い合っていると、セイリアが一歩前に出た。その右手には薙刀が握られている。
「セイリア…アンタ戦わないつもりなんじゃ」
「…元はと言えばこれは我の頼みだ。我の都合で…お前達に苦労をかける訳にはいかない」
決然とした様子で言うセイリアの薙刀には、段々と白色の魔力が集まっていく。
「大丈夫だ。知っての通りアジダハーカは頑丈…急所を外せば命には関わらない…はずだ」
「…俺達だってアジダハーカに死んでほしいとは思わない。信じてるぞ、セイリア」
「ああ」
セイリアは短く返事をし、アジダハーカに向き直る。
「!!!!!!!!!!!」
再びあの黒炎が咆哮と共に吐き出され、セイリアの身体を焼き尽くさんとする。
「無駄だ」
だが、セイリアは持ち前の破壊の権能でその黒炎を打ち消す。
「これで正気に戻ってくれる事を祈るぞ…」
セイリアは突きのような構えをとり、力を溜める。そして、セイリアは自身の奥義の名を叫ぶ。
「『穿空』!」
その瞬間、周囲に凄まじい突風が吹き荒れ、轟音が鳴り響き、セイリアの正面に空気の空洞のようなものが現れた。その空洞はアジダハーカの胴体を綺麗に貫いていた。そしてそれらは全て、セイリアの渾身の一撃によるものだった。
「…すごいなアンタ」
「あれ僕が食らったら跡形も無く消し飛ぶんじゃない?」
「私のバリアで耐えられるでしょうか…」
「…あまり褒めないでくれ、恥ずかしい…」
セイリアの一撃を受け、アジダハーカは鎮静化したようだった。
「だが、まだ終わりじゃない。アジダハーカに何があったのか聞かないとな」
こうして5人は、アジダハーカの目覚めを待つ事にした。
アルカディア君のバフと詠唱まとめ
強壮→攻撃力&痛み耐性強化
堅牢→防御力&痛み耐性強化
迅速→速度強化&行動阻害無効
どっかに行こうとするやつ→「強壮」「堅牢」「迅速」のバフに加えて、全体回復&全体蘇生&状態異常回復
バッファーとしてバカみてぇな性能を誇る上に火力支援も可能だが、見た目ほど火力は高くない。ぱっと見はメイの上位互換で、バフ量も確かにアルカディアの方が多いが、長期戦闘における支援役はメイの方が適している。




