第六十八話 赤月の使徒
前回セイリアの背丈がメイと同じくらいだと言ったんですが、メイの身長は164cmです。
「赤月の使徒って何だ?」
そんなリーフェウスの疑問は、言われてみれば当然である。まだ誰からも説明されていない概念なのだから。
「そういえば説明してませんでしたね」
そして、その疑問にアルカディアが答える。
「赤月の使徒というのは、とある神が選んだ『強い負の感情』を持つ者達で構成されている組織です。言うなればその神の眷属ですね。私達はその神の事を『月』と呼んでいます」
「アンタに負の感情なんてあるのか?」
「ありますよ。そもそも『強い負の感情』というのは、月の裁量で決まるのです。私の場合は『欲望』や『気鬱』…月からすれば、願望も欲望も大差無いのでしょう」
「なるほど…それで、使徒の共通点としてその赤眼が挙げられるって訳か」
「その通りです。基本は両目が赤くなる筈なのに、セイリアさんは片目…何があったというのでしょう?」
「…それを話すには、我の用事から話さねばならない」
セイリアは少し深刻そうに話し出す。
「我がここに来た理由は…我の眷属の事だ。名は『アジダハーカ』…我と同じく破壊の力を持つ巨大な竜だ」
「竜か…」
「アジダハーカは、我が生まれた時から一緒にいた。眷属という立場ではあったが…我にとっては家族同然なのだ」
セイリアは微笑みながら話す。本当にアジダハーカの事を大切に思っているのだろう。
「だが…ある日彼はおかしくなった。今まで出来ていた我との意思疎通も不可能になり、ただ周囲の物を手当たり次第に破壊するようになったのだ。その時から、我とアジダハーカの片目が赤くなった」
その説明を聞いて、アルカディアは考え込む。
「…恐らくそのアジダハーカという眷属は、赤月の使徒となったのでしょう。それしか考えられません。破壊の力を持っているのなら、『破壊衝動』があっても変ではないですし…」
「つまり、アンタはそのアジダハーカを正気に戻してほしいって事だな?」
「ああ、そうだ……だが…頼んでおいて何だが、その…可能なのか?」
それを聞いたリーフェウスは、無言でラビアの方を向く。
(…出来るよな?)
(無責任が過ぎるだろ)
(アンタがいるからどうにかなるだろって…)
(ナチュラルにテレパシー使ってんじゃねぇよ)
(ここまで来たら断れないぞ)
(カスが)
側から見れば少しの沈黙の後、リーフェウスが口を開く。
「…ああ、任せてくれ」
「本当か…!ありがとう!」
ラビアがリーフェウスを睨んでいるのは置いておいて、メイが手を挙げて質問する。
「あの…セイリアさんって、何で手袋してるんですか?今日そんなに寒くもないと思うんですが…」
「それは…」
セイリアは言いにくそうに言葉を濁す。
「…私が説明しよう。これは彼女の権能を抑える為の物だ」
「セイリアさんの…?」
「ああ。セイリアは元々、『指定した対象を破壊する』という権能を持っていた。だが、神の権能は長く生きるにつれて強力になっていき、果ては制御不能になる恐れもある…セイリアも例外ではない。彼女の権能は、今や『素手で触れた物』までもが対象になってしまったのだ」
「…その通りだ。この手袋は特殊な物で、タナトスの権能によって部分的に我の権能を死なせているのだ…無論、外せば元通りだが」
「そうなんですか…」
「僕からも補足させてもらうよ。権能は生きていればいつか必ず暴走する。セイリアのそれはまだ初期段階だ。5万年も生きれば、近づいた物全てを破壊してしまうくらいになるよ」
「そんな…それ生きにくくないんですか?」
「生きづらいに決まってるだろ。寿命も無い上、実力も相当な筈の神という生き物がちょくちょく死ぬのは、暴走した権能に嫌気がさして自殺する奴が多いからさ」
そのラビアの話で若干重くなった空気を和ませるように、カロスが呟く。
「私は忘れてないぞ……君が私に手袋を作らせたくせに、『箸が持ちにくいから薄手にしてくれ』だとか『色はこの色が良い』だとかの細かい注文をつけて来た事を」
「おい!それはバラすなと…!」
「アンタ裁縫も出来るのか」
「感心したなら金をくれないか」
「2000歳以上歳下の奴に金たかるな」
「いや最近本当に生活がギリギリなんだ…部下の衣食住に加えて、その他の奈落の設備などの修繕費…支出が増えるばかりなのだ」
「ヴェンジェンスの食費とかってアンタが出してたのかよ」
話がどんどん展開されていく中、ラビアが全員に聞こえるように声を上げる。
「本題に戻ろうよ。アジダハーカってのはどこにいんの?」
「深淵だ。彼がおかしくなってから、タナトスが半ば無理矢理送り込んだ」
「まーた深淵かよ…」
ラビアが面倒くさそうに呟く。
「場所が分かっているならさっさと行こう」
「待ってください、今出かけてる3人はどうするんですか?」
「書き置きでもしておけば良いだろう。どうせ誰か留守番しなきゃいけないからな。この家鍵無いし」
今サラッととんでもない欠陥が明かされたが、とりあえずこれからの行動は決まった。目的地は深淵だ。
「カロスは来るのか?」
「私は仕事の合間にここに来たに過ぎない。君達を深淵に送ったらすぐ帰る」
「いや要らないよ。僕が送れる」
「仕事を休めると思ったんだがな…」
こうして、リーフェウス、ラビア、メイ、アルカディア、そしてセイリアの5人は深淵へ向かった。
キャラクタープロフィール
名前 セイリア(神名は不明)
種族 神
所属 奈落
好きなもの 精進料理 小鳥
嫌いなもの 脆いもの
権能 破壊の権能
作者コメント
現状1番長生きしているキャラだが、精神性は誰よりも乙女である。なんとなくの印象では魔法タイプっぽいが、身体能力は高い。その昔、カロスの髪をふざけて掴んでみたら毛根ごと破壊してしまい、カロスの頭にでかい十円ハゲを作ったことがある。特に反省はしていない。イメージした言葉は「清廉」「仙人」




