第六十四話 光属性2人組
ちょっと申し訳ないお知らせ
Twitterでもしつこいくらい言ってるんですが、本作って味方のキャラ数多いんですよ。私はあまり複雑な思考ができないので、第二部からは何らかの理由をつけて1度に登場する味方キャラの数を少なくしたいと思ってます。別にリストラする訳じゃないんですが、これは確実に私の落ち度なので申し訳ないです
「それは…本気ですか?」
ある日の朝、アルカディアはリーフェウスに問う。「ああ、今日の依頼はメイとアンタの2人で行ってもらう。猫探しだし問題ないだろう?」
「それはそうですが…万一戦闘になったらどうするんです?メイさんは支援専門ですし、私は広域攻撃しか出来ないんですが…」
「まぁ、訓練だと思ってくれ。それに…」
リーフェウスは声を落として、アルカディアに耳打ちする。
「本当にまずかったらラビアが助けてくれる…メイはな」
「私は」
「アンタは自衛出来るだろ」
「出来ますが」
「じゃあ大丈夫だ」
(何か腑に落ちないですね…)
こうして、メイとアルカディアという光属性2人組は、大都会であるクロノケージまで猫探しに向かった。
「まずは捜索対象の特徴を確かめましょう。メイさん、メモはありますか?」
「はい、ちゃんと持ってきましたよ!」
満面の笑みでメモ用紙を取り出すメイを見て、何故かアルカディアの脳内に妹という言葉がよぎったが、今は依頼に集中しなければならない。
「…なるほど、赤い首輪を付けた白猫ですか」
「アルカディアさんはクロノケージ出身なんですよね?猫さんが行きそうな場所とか分かりますか?」
「どうでしょう…私はこの辺りの地域で生まれた訳ではないので」
「そうですか…でも、この辺にいる事は確実ですよね?」
「そうだと思います」
と、ここでメイがある事を思い出す。
「そういえば…こういう問題ってアルカディアさんの権能でどうにか出来ないんですか?」
「基準はよく分からないのですが…私の力でも叶えられる願いと叶えられない願いがあるのです」
「むぅ…どういう基準なんでしょうね…」
「推測ですが…『願望』と『欲望』の違いなのだと思います。願いにはその2つの成分のような物があり、恐らく『欲望』の割合が大きいと叶えられないのかと」
「そうなんですか…」
雑談はこれくらいにして、2人は本題の猫探しに取り組み始めた。
「猫さんって、私の偏見だと路地裏とかによく居るイメージなんですが…どうなんですかね」
「イメージに頼るより先に、まずは聞き込みしましょう」
そして、2人はしばらく周囲の人々に聞き込みをしていた。何人かに話を聞いた頃、通行人の男性から有用そうな話が聞けた。
「ああ、その猫ならさっき見た」
「本当ですか?どの辺で見かけましたか?」
「そこの建物の裏に入っていったよ。他の猫と、あと黒い服の人と一緒に」
「黒い服の人…?」
「うん、すごい懐かれてそうだったよ。あと、多分その人スケイドルの人じゃないかな。和風な服装だったし」
「情報提供感謝します。メイさん、行ってみましょう」
2人が情報通りの建物の裏へ向かってみると、そこで予想外の人物と出会った。
「え…セツさん!?」
「童…」
先程の男性が言っていた『黒い服の人』というのはセツの事だった。しかし、何故セツがここに居るのだろうか。
「メイさん、この方は…?」
「この人はセツさんです。スケイドルに住んでいる私達のお友達です」
「なるほど…よろしくお願いします、セツさん」
「ああ…いやそれより、助けてくれないか」
「セツさんは何でそんな事に…?」
「賭博で負けた傷を癒す為に猫と戯れていたら…何故か懐かれてしまった」
座り込んでいるセツの肩や足には、何匹もの猫がぶら下がっている。その中には、捜索対象の白猫もいた。
「セツさん、その左肩の白猫さんだけ渡してくれませんか?」
「いや全員持っていって欲しいのだが」
「お腹が空いたら帰っていきますよ」
「その間私はずっとここに居なければならないのか?」
「はい」
「何という事だ…」
こうして2人は依頼人に猫を引き渡し、依頼を完了した。
「さ、帰りましょうか」
メイがそう言った時、アルカディアの肩に誰かがぶつかってきた。
「おや…申し訳ありません」
「いってぇ…コレ骨折してんじゃねぇの?」
「うわマジか〜慰謝料貰わないとだわ」
そう言って来た男の2人組は、性格の悪そうな目つきでアルカディアを睨む。
「そう言われましても…ぶつかって来たのはそちらでは?」
「言い訳するんじゃねぇ!さっさと金を渡せ!」
「アルカディアさん!」
男の1人がアルカディアに殴りかかろうしたその時…
「…致し方ありませんね」
アルカディアの人差し指の先が淡く光ると、殴りかかる態勢をとっていた男はその態勢のまま眠りに落ちた。
「えっ…どうしたんだよ」
「貴方には何もする気はありません。出来るのならこのまま身を引いて頂きたいのですが…」
「チッ…」
残された男は眠り続ける男を連れて、アルカディアを睨みながら近くの路地へと去っていった。
「ハァ…相変わらずの治安の悪さですね」
「これ…日常茶飯事なんですか?」
「まぁそこまで頻度も高くないですが…結構見かけますね」
2人が気を取り直して帰宅しようとした時、先程の男達が逃げていった路地から悲鳴が聞こえてきた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!何なんだよおま…ェ…ゔ…ゲェ"ッ…」
その悲鳴は、並大抵の状況では発されないほどに異様な叫び声だった。
「…行きましょう、メイさん」
アルカディアの表情はいつにも増して深刻そうだった。その様子を見て、メイは黙ってついていく。その路地に広がっていたのは…
「ひっ…」
先程の男2人組の遺体だった…のだが、アルカディアに眠らされた方の遺体は両手足と首が胴体から切り離されており、もう1人の遺体に至っては……人の原型すら留めていない、ただの肉塊だった。辺りは血の海と化し、周辺の壁にも大量の血や肉などが飛び散っている。
「うっ…ぅえ……」
あまりにも凄惨な状況に、メイは嘔吐しかける。アルカディアでさえ、顔を引き攣らせていた。アルカディアは犯人に心当たりがあった。
「メイさん、貴方はここで……いや、『彼』が近くに居るなら1人になる方が危険か…申し訳ありませんが、ついて来てください。そして、私から絶対に離れないでください」
「は…はい」
コンクリートの壁をよく見ると、刃物で引っ掻いたような傷が奥の方へ伸びている。メイとアルカディアは、血の海に踏み入りながらその傷を追う。路地を抜けた先の人混みの中で、アルカディアは知人の後ろ姿を見つけた。黒いコートと中折れ帽子を着用しており、帽子の下には白い髪が生えている。
「やはり貴方でしたか…『道化師』…!」
アルカディアが道化師と呼んだ人物の姿は、人混みに紛れて消えていった。
「道化師…?知ってる人なんですか?」
「赤月の使徒…私の同僚にして、最低最悪の外道です」
「…強いんですか?」
「真っ向勝負なら、私が彼を眠らせて終わりです…が、奇襲を含めた何でもアリの実戦であれば…彼に敵う者はそう居ません」
「そう…なんですか」
「一刻も早く帰りましょう。道化師に目をつけられる基準は誰にも分かりませんから」
そして2人は、急いでその場を後にして萬屋へ帰った。小走りで帰っている道中、一瞬背筋に寒気が走ったメイの耳にこんな声が聞こえた気がした。
「クフッ……ワタシは何処にでも現れますよ」
その夜、メイは体調を崩した。




