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星命  作者: Isel


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第六十話 権能フル活用ババ抜き勝負

もう6年以上はババ抜きやってないので、ペアになるかならないかの確率とかは気にしないでください。

それは、突然やってきた。ある日の昼下がり、なんとなく冷蔵庫を覗いたメイは戦慄した。

「み…皆さん…」

1階の居間で思い思いの過ごし方をしている仲間達に、メイは震えた声で告げる。

「し…食料が…尽きました…」

普段ならば、そんなもの誰1人として気にしないであろう。当然だ、買いに行けば良いのだから。しかし、今はそう言ってはいられない。リーフェウス達の住んでいる地域に、今年最大とまで呼ばれるほどの大嵐が直撃しているのだ。もうマジでやばいくらいの。いくら食料の為とはいえ、こんな中を外出したい人間はいないだろう。

「…」

萬屋内、もとい家の中は静寂に包まれた。全員の一挙手一投足が外出する羽目(命取り)に繋がるからである。そんな中静寂を破ったのは、我らが主人公リーフェウスだった。

「…ジャンケンだ」

リーフェウスはそれしか言わなかったが、全員がその意味を理解した。負けた者が買い出しに行く(死ぬ)…今から始まるのは、そういう戦いだ。

「行くのはいつも通り2人だ」

そのリーフェウスの言葉に、全員は同時に頷く…が、

「ちょっと待て」

そう声を上げたのはヴァルザだった。

「おい人外3人組」

「俺?」

「僕?」

「私ですか?」

3人はほぼ同時に言う。

「お前らの能力を言ってみろ。リーフェウスはこの前の戦いで使ったやつだ」

「…未来視と未来改変」

「過去&現実改変」

「願いを現実に…」

「そんな奴らが人間と同じ土俵で戦うなよ!」

「いや、そう言われても…ねぇ?」

「まぁ生まれ持った才能みたいなものだからな」

「才能…!」

ちょっと嬉しそうなアルカディアをよそに、ヴァルザはこう提案する。

「お前らは別で戦えよ。人間組から1人、人外組から1人でどうだ?」

「それでいいけど、僕らはどうやって決めるのさ」

その時、メイが某猫型ロボットのような仕草で小さな箱を取り出した。

「ト〜ラ〜ン〜プ〜…です!皆さんはババ抜きで決めたらどうでしょうか?」

「いいだろう」

「構わないよ」

「受けて立ちましょう」

こうして、神3人による権能フル活用ガチババ抜き勝負が始まった。

「…俺はリーフェウスに銀貨1枚」

「アタシはラビアに銀貨2枚」

「なら私はアルに銀貨1枚よ」

「皆さん…」

人間組は既にジャンケンを済ませたようだ。負けたのはヴァルザらしい。

(ババ抜きなんてあまりやった事はないんだが…まぁ何とかなるだろう)

(落ち着け…最下位にさえならなければ良いのです。加えて、能力の内容からして最も警戒するべきはラビアさん…この方の邪魔をしなければ、1番勝ち目の薄い私でもまだ…!)

(なーんて考えてんだね…僕の権能を甘く見ちゃって…)

まず始めは、アルカディアがラビアからカードを引く。

「…!?」

ここで、早速アルカディアを予想外の事態が襲う。ラビアの持っている手札が、1つ不自然に飛び出ているのだ。これを見ている人間組は…

「ガキみてぇな戦法だな」

「とても4000歳とは思えないわね…」

「アイツ4000年間アレやってるってことか?」

散々にも程がある言われようだが、アルカディアには効果覿面のようだ。

(何だ…何故…?アレはババか?いや、ラビアさんは付き合いの長いリーフェウスさんも認める捻くれ者…そう見せかけてあの飛び出たカードは普通の物かも…)

アルカディアは真面目で思慮深い性格が故に、小細工をされるのが苦手である。対するラビアは嘘や小細工が大得意な男だ。この場において2人の相性は最悪だった。

(フフフ…悩んでる悩んでる…)

と、アルカディアの方は打開策を考えついたようだ。

(そうだ…!ラビアさんの願いを見れば、擬似的にラビアさんの心を読む事も可能なはず…!)

アルカディアは、早速ラビアの願いを見た。すると…

『もっと悩んでほしいな…僕がババ持ってないって知ったらどんな反応するかな…ああ教えてぇ』

そんな事実を知ったアルカディアは、少し呆れたような目でラビアを見ながら言う。

「…何がしたいんですか貴方」

「さっさと引きなって。『見た』んだろ?」

アルカディアがカードを引くと、どうやらペアになったようだ。アルカディアは手札からカードを2枚捨てる。

「じゃ、次は僕だね」

ラビアは若干警戒しているように見えたが、特に何事もなくリーフェウスの手札からカードを引く。ペアにはならなかったようだ。

(まぁ予想通りだ。こんな序盤から未来改変は使わないか)

「次は俺か」

ババを持っているのはリーフェウスなので、この段階ではまだ駆け引きも何も起こらない。何事もなく手札を引き、ペアになったカードを捨てる。

しばらくは何もないまま、平和なババ抜きが行われていた。しかし、全員の残り枚数が3,4枚程度になった頃、試合は大きく動き出す。きっかけはラビアがババを引いたことだった。

(クソ…ここに来てか…!せめてアイツに…!)

ラビアが何らかの願いを抱いた事を察知したアルカディアは、すぐさまその願いを叶える。

(これでリーフェウスさんにババが行くはず…このままラビアさんを無事に勝たせれば、あとは一騎打ちだ…!)

が、ここでアルカディアをまたしても予想外の出来事が襲う。

「何…!?」

ラビアが引いたはずのババが、アルカディアの手元にあったのだ。アルカディアの困惑を悟ったラビアが、ニヤつきながら言う。

「あらら…人の願いはちゃんと聞かないとね?僕がさっき願った内容は『アルカディアにババが行けば良いのに』だよ?」

「貴方…!」

「僕は僕さえ良ければ良い。そもそも、勝手に共闘関係だと思ってたのは君だろ?」

その台詞に、人間組は…

「きったね」

「アイツ今からでも反則負けにしようぜ」

「まぁそういう戦いじゃない。腹は立つけど…」

その瞬間、リーフェウスには不吉な映像が見えた。リーフェウスの未来視は、基本能動的に発動するタイプだ。しかし、時折自動で未来が見える場合もある。そういう時は大概、リーフェウスが望まない未来が近づいているという証だ。

(何だ…?このままいけば俺が負けるという事は分かった。だが…何が理由だ?今ババを持っているのはアルカディアな上、勝負も終盤だ…余程のヘマをしない限り、このままアルカディアが負けると思うが…)

「次は貴方ですよ、リーフェウスさん」

「ああ」

リーフェウスがアルカディアの手札に手をかけた時、嫌な予感が強まる。

(そうだ…俺には出来るんだ…!望まない未来が近づこうというのなら、それを変えてみせる!)

リーフェウスは満を辞して未来改変を使う。あまり細かく内容を指定すると消耗が激しいので、『アルカディアの手札にババが残る未来』をリーフェウスは望んだ。

「よし…!」

リーフェウスの手札が残り2枚になる。実のところ、アルカディアとリーフェウスの思惑は大体同じだった。『ラビアとの一騎討ちだけは避けたい』という理念の下、彼らは戦っていたのだ。

(これはまずい…ラビアさんとの一騎討ちになれば私に勝ち目などない…)

ここで、アルカディアは初の試みに出る。

(…ラビアさんとの一騎討ちを避けるだけなら、初めから私の権能でラビアさんを勝たせれば良かった。ですが…それは『勝ちまでの時間』を飛ばす事になる。時間に干渉した経験はないが故に、出来るならやりたくはなかったのですが…)

アルカディアは、覚悟を固める。

(やるしかありません!)

もう普通に外出ろよと言いたいところだが、彼らはそれがどうしても嫌らしい。アルカディアの法輪が輝き、辺りを光が包む。

「…あれ?僕の手札揃ってんじゃん」

「え?ちょっ…え?今アルカディアの番じゃなかったか!?」

「そう言うなよリーフェウス…僕だって気づかなかった事くらいあるんだよ」

(いやぁ…ありがたいね。まぁ、負けたくないなら僕との一騎討ちは避けるのが賢明。まだ能力に回数制限があって、権能を使い慣れてないリーフェウスとやり合った方が良い。流石にアルカディアは賢いね)

「さぁリーフェウスさん。決着をつけましょう」

たかがババ抜きでここまでの雰囲気を出せるのは最早神の御業と言えるだろう。実際神なんだが。

そしてまた少し経って、とうとうリーフェウスの手札が残り1枚。アルカディアがババと普通のカードで残り2枚となった。今はリーフェウスの番である。

(さぁどっちを引きますか…?)

アルカディアは小細工などは一切しない。ただリーフェウスの方をじっと見ている。

一方、リーフェウスは勝ちを確信していた。今まで温存していた未来視を使い、2つのカードどちらを引けば望む未来が訪れるかを知っていたからだ。リーフェウスは、普通のカードに手を伸ばす。

(勝った)

アルカディアは平静を装っていたが、内心はとてつもなく焦っていた。が、そこでアルカディアは起死回生の妙策を思いついた。微かではあるが、リーフェウスが抱いている願いを察知したのである。

『ラビアが負けていれば最高だったんだがな』

「…リーフェウスさん、その願い…しかと聞きましたよ!」

そして何かを察知したラビアは、すっかり休憩していたところだったが2階から階段を転げ落ちてくる。

「ちょっ…!お前それ!」

再びアルカディアの法輪が輝き、金色の光が辺りを包む。

「…最悪だ」

「お、なんか揃ってるぞ」

「私もです」

結局、勝負はラビアの負けだった。項垂れているラビアに、アルカディアが囁く。

「さっき騙された礼ですよ、ラビアさん」

「クソが…無駄に良い声なのが腹立つ!」

何が起こったのかを知っているラビアは、リーフェウスに叫ぶ。

「お前ぇ!最後の最後で何て事願ってくれてんだ!」

「何の事だ?よく分からないが、この勝負はアンタの負けだ…いや、この勝負『も』だな」

「アダムカドモォォォォォン!!!!」

結局、ヴァルザとラビアはずぶ濡れになりながら買い出しに行った。その翌日、ラビアだけがとんでもない風邪を引いたらしい。

豆知識

この世界の生き物は、死亡した際に身体がある程度損壊していると死体がそのまま残ります。そうじゃなきゃ殺人事件とか解決しようが無いですからね。

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