第七話 空へ
カレアスへの行き方を見つけた(?)リーフェウス達は最寄りの宿にて夜を過ごすこととなった。やがて日は沈みきり、皆が寝静まっている頃、梯子のかかった屋根の上に人影があった。
「夜風はやっぱり気持ちいいですね…」
なかなか眠れなかったメイが1人呟く。そんなメイの上に、また1つ人影があった。
「眠れないのかい?」
暇つぶしに外を飛び回っていたラビアが問いかける。
「ラビアさんもですか?」
「まあ、そんなとこだね」
「あの…眠くなるまで、お話しに付き合ってくれませんか?」
「いいよ」
「私…実はちょっとわくわくしてるんです。今までずっと、外の世界に行くのが夢だったので」
「ほう。何かきっかけがあったりするの?」
「はい。小さい頃に読んだ小説が理由なんです。その小説の主人公は、自由で、奔放で。その主人公に、私は憧れたんです」
「ふうん…」
「なので…その…」
「ん?」
「私の頼み事が無事に終わっても…一緒にいていいでしょうか?」
その問いに、ラビアは思わず笑ってしまった。
「なんで笑うんですか!」
「ごめんごめん。面白い子だなって思ってさ。僕達は会ってからまだ間もないけどさ、あいつらがそれを断ると思うかい?」
「…思いません」
「僕もそう思うよ。不安なら、近いうちに機会を見計らって言い出してみたらいいんじゃない?」
「はい…!そうします!」
「…じゃあ、僕からも1ついいかい?」
「なんでしょうか?」
「……この世界は、好き?」
「はい」
「思ったよりも即答だね。理由は?」
「私は、こう見えても色々なことをやってきました。まあほとんどは何かしらの勉強ですけどね。学んだことが上手く活かせたり、他のことでも上手くいったら、当然嬉しいです。でも…」
「うん」
「嬉しいことだけだったら、人生ってつまらないと思うんです。私だったら兄のことだったり、人付き合いだったり。そういう良くないことがあって初めて、何かに喜びを感じられるんだと私は思ってます。だから、ほどほどに幸せで、ほどほどにうまくいかないこの世界が…私は好きです」
「…そう」
「あっごめんなさい!話、長かったですよね?」
「いや、いい話だったよ」
その言葉を最後に、しばらく静かな時間が続いた。空に浮かぶ雲が、2度、3度形を変えた頃にラビアが呟いた。
「ねえ、メイ。僕は…」
だが、返事はない。代わりに聞こえてくるのは、小さな寝息である。
「…寝たか。おやすみ」
そう言ってラビアは掛け布団を持ってきてメイにかけてやり、その側で空に浮かぶ月と星を眺めていた。
そして、夜が明けた。
「さて、向かうとするか」
「なに偉そうにしてんのさ。手段を作るのは僕だよ?」
皆が談笑するなか、突然メイが声を上げた。
「あの!皆さん!私、言いたいことが!」
「どうした?」
「えっと、この件が終わっても、皆さんと一緒にいてもいいでしょうか!?」
その発言に、一同が一瞬固まる。
(確かに「言ってみたらいいんじゃない」とは言ったけど、まさか翌朝に言うとはね…)
そして、真っ先に返事をしたのはリーフェウスだった。
「?当然だろう。あんたは仲間なんだから」
「…!ありがとうございます!」
「じゃあ改めてカレアスに向かうとしようぜ?ラビア、頼む」
「吹き飛ばされないでよ?」
そう言うとラビアがそう言うと、ラビアの背後に淡い光を放つ光輪が現れた。その中心には「烈風」という文字が、法輪と同じように淡く光っていた。
「おお、なんだそれ」
「これが僕の異能だよ。それより口は閉じな。舌噛むよ」
「は?そんな強いのを…」
リーフェウスの発言を遮るようにラビアが指を鳴らすと、その場の全員を上へと飛ばす気流が発生した。宙を舞っている間、全員の叫び声が響き渡ったのは言うまでもない。
数十秒ほどかかった後、一行はカレアスの端に着地した。
「舌噛んだ…」
「頭打った…」
「だから言ったのに」
「これ、不法入国じゃ…」
「灰蘭は心配症だな。大丈夫だって〜」
「硝光が気にしなさすぎなのよ」
そんな雑談の後、大地(?)の端で作戦会議が始まった。
「とりあえず役割は分担した方がいいだろう。『アステール』とやらの情報を集めるグループと、どうにかしてメイの兄を助け出すグループに分かれよう」
「なら、私は兄の方に行きます」
「僕もそうさせてもらうよ」
「兄貴の方は少人数の方が良くねえか?忍び込む訳だしな」
「それもそうだな…なら、残りの4人で情報収集をしよう」
全員が「了解」と言って頷く。ラビアとメイはメイの兄が囚われている牢屋があるという建物へ向かっていった。
「アタシ達も二手に分かれようぜ?4人で同じとこに行くのは効率悪いじゃんか」
「じゃあちょうど2人ずつだし、男女で分かれるか。2時間後にここでもう一度集合しよう」
そして灰蘭と硝光は、リーフェウス達とは反対の方向へ歩いていった。
「俺らも行こうぜ」
「ああ………うん?」
「どうした?」
「いや、向こうの路地に人影が…なんか急いでるみたいな…」
「行ってみるとするか」
一方、その人影の主は酷く動揺していた。そんな怪しい人影の正体、それは…
「な…なんであいつらがここに居んだよ…!?」
数日前、危うく売り飛ばされそうになった結果、カレアスまで逃げてきたベルであった。
キャラクタープロフィール⑤
名前 灰蘭
種族 人間
所属 主人公陣営
好きなもの 水 自然 動物
嫌いなもの 人と話すこと(嫌いというより苦手)
異能 なし(炎の魔力を扱える)
作者コメント
硝光と全く同じ理由で生まれたキャラ。こいつも名前気に入ってる。硝光と同様に髪型は特に考えてはいないが、肩くらいまでの長さを想像している。ちなみに「人と話すのが苦手」とあるが、硝光とは普通に話せる。