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星命  作者: Isel


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第五十八話 星命

ラビアの今までの言動やこれまでの出来事から、リーフェウスは1つの結論に辿り着いた。

「アンタの…計画ってのは…」

「そうさ。僕の計画の最終段階…つまり僕の望みは、君を殺す事でも、この世界を滅ぼす事でもない…」


「僕自身が死ぬ事だ」


「…」

リーフェウスは何も言えなかった。

「せっかくだから話してやるよ。まず僕は、権能のせいで、生きているだけでこの世の生き物が受けている苦痛全てを味わう事を強いられる。それに加えて、無駄な実力と寿命の無い身体のせいで、親しい者との別れをこの世界が滅びるまで繰り返す事になった」

「…それを嘆いたアンタは、この世界を滅ぼそうとした。だが、そこでアンタに立ちはだかったのが…」

「アダムカドモン。前生の君だ」

「そして前生の俺を殺したアンタは、その時この計画を思いついた」

「そう…生まれ変わったアダムカドモンに僕を殺させ、この権能を受け継がせた上で僕自身も消滅する…そのはずだった。結果は…って、前にカロスが話してたんじゃん。あの通りだよ」

「今やっと合点がいった。俺があの時アンタを殺せたのは…」

「君が『決意』したんだろ?『僕を救う』ってさ」

「…アンタにとっての救いが『死』だったから…俺の権能が発動した結果、アンタが死んだんだな」

リーフェウスは気丈に振る舞ってはいるが、内心は憔悴していた。『神の力』と言えど万能ではないのだ、という事に。そして、自分とラビアの間に『救い』に関する大きな解釈の相違がある事に。

「ま、そういう事だよ。僕を救いたいなら、もう僕に関わらないでくれ」

「…」

リーフェウスは葛藤していた。勿論、自分はラビアを救いたい。だがどうやって?ラビアは生きている限り、永遠に救われる事はない。だからといって、死んでしまっては救いも何もない。

(俺に出来る事は…無いんだな…)

リーフェウスは自己嫌悪をするタイプではない。この時抱いた感情も自己嫌悪ではなかったが、それは今までの人生で感じた事のないもの…言わば『無力感』だった。そんな事を考えている間にも、ラビアの背中はどんどん遠ざかっていく。その背中は、酷く悲しそうに見えた。その理由など、もうリーフェウスでなくても分かるだろう。ラビアは仲間を…側にいる者の事を誰よりも愛しているのだ。だからこそ、もう誰とも関わりたくないと思っているのだ。何かを愛する虚しさ、それと別れる辛さ、彼は『全てを知っている』のだから。

「…」

リーフェウスは、最早『待ってくれ』とすら言えなかった。リーフェウスが半ば諦めていたその時…

「……ぁぁぁぁああああ!」

少女の叫び声のような声が高速で近づいてくる。その声の主はリーフェウスの真横を通り抜けて…

「あ…ラビア…」

「はぁ…?まだ何か…」

微かに聞こえたリーフェウスの声に振り向いたラビアの胴体に直撃した。

「うぇっ」

リーフェウスは直前までの雰囲気も忘れてちょっと笑ったが、数mほど地面を滑っていったラビアの様子を見に行く。

「…何でアンタがここに」

ラビアに突撃したものの正体は、長い銀髪を携えた少女…メイだった。

「何…何さ。何で君あんな速度で…」

流石のラビアも少し取り乱している。

「何しにきたの…家でゆっくりしてなって」

今現在、メイはラビアに馬乗りになっている。メイはラビアより身長が低い為、普段とは高さの関係が逆になっている事から、ラビアは謎の威圧感を覚えていた。

「ラビアさん!」

そのメイの大声にラビアは驚く。

「言ってくれたじゃないですか……私に嘘は吐かないって」

「はぁ?嘘?」

「私が『もう居なくならないでください』って言ったら、ラビアさんは『分かった』って言ってました!」

メイは涙目になって、ラビアを両手で叩きながら言う。尚、メイ本人の腕力が弱い為『ポコポコ』と音が鳴っているだけである。

「あぁ…」

「…確かに、ラビアさんからすれば私達なんてどうだっていいのかもしれません」

「そんな事…僕は…てか降りろよ」

「駄目です!ラビアさん逃げるじゃないですか!」

ふとラビアがリーフェウスに目を向けると、薄気味の悪い笑みを浮かべている。

「アンタはメイには敵わないんだな」

「うっせぇ消すぞ」

いつの間にか普段の調子に戻った2人をよそに、メイは今にも泣きそうな声で言う。

「ラビアさんが死を願う理由は分かってるつもりです…だから私は…ラビアさんに私を愛せなんて言いません。でも…」

メイはその勢いのまま叫ぶ。

「私にとってはラビアさんが必要なんです!私はあなたと一緒に居たいんです!」

「……なぁそれ」

リーフェウスは何かを言おうとしたようだが、空気を読んで口を噤んだ。その代わりに、今思い出した事をラビアに言う。

「だ、そうだ。それに、アンタには『約束』があるんだろう?」

「…チッ。面倒な事思い出させやがって」

メイの言葉がラビアに対する感情に任せて放たれたもの…つまり、本心から出た言葉だというのは、ラビアも分かっていた。しばらく複雑そうな顔をしていたラビアだったが、やがて両手を広げてうんざりしたように言う。

「ハァ……分かった分かった、僕の負けだ。もうしばらく君達の茶番に付き合ってやるよ」

その途端に、メイの表情が明るくなる。

「やった…!」

「全く…何がそんなに嬉しいんだか」

「…寝てるぞ」

「はぁ?」

こうして、ラビアは眠ったメイを背負ってリーフェウスと共に帰路に着いた。

「言っておくけど、正体が割れた以上僕はもう猫を被るつもりはないよ。それで僕を嫌うなら勝手にしてくれ。出て行きやすくなるからね」

「相変わらず捻くれてるな…それより、1つ聞いてくれないか」

「何さ」

「俺達の役目についてだ。最初はこの星に在る生命を守るだけだと思っていたが、アンタの働きを知って少し考えを改めたんだ」

「へぇ?」

「この星に在る生命だけでなく、この星()生命……言うなれば『星命』か。それを守る事が、俺達の役目なんじゃないか、なんて最近考えてたんだ」

「ハッ…何を言うかと思えば駄洒落かよ。カロスの悪癖が移ったんじゃないの?」

そんな話をしているうちに、家の扉が見えてくる。

「帰ったらアンタの事も説明しないとな」

「アルカディアの件の説明でしたんじゃないの?」

「混乱するかと思って誤魔化したんだよな…」

「…うん、間違ってはない判断だね」

リーフェウスの旅は終わった。目的も果たした。しかし、リーフェウスや仲間達の人生はまだまだ続いていく。目的を果たすのみが人生ではない。それは、リーフェウスが最近なんとなく行き着いた結論だった。目前に迫った木製の扉を開けて、リーフェウスは言う。

「ただいま」

ちょっと長めの豆知識

ラビア君の役目の前任者はアイオーンなんですが、アイオーンはラビア君とは違って宇宙全体の平和を守ってました。当然ラビア君もそれを知ってる上、彼自身目の前の問題をわざわざ見過ごすタイプでもないので、本来は管轄外なのに結局宇宙全体を見守ってます。今のところアイオーン以外にそう呼ばれた事はありませんが、「調停者」の名に相応しい働きですね。

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