第五十六話 夢の終わり、夜の始まり
豆知識
アルカディア君はそこそこの癖っ毛です。それと関係あるかは分かりませんが、男にしては髪長いです。肩より少し上くらいまで伸ばしてます。
アルカディアは一通り自分の過去を話し終えると、小さく息を吐いて俯き加減に言う。
「…それで、私の過去など聞いてどうするのですか?私を嘲笑うのですか?」
「まさか、僕がそんな事する奴に見えるかい?」
「ああ」
「はい」
「ええ」
「君達さぁ」
少し予想外の返答が返ってきたが、ラビアは気を取り直して続ける。
「別に、君をどうにかしようって訳じゃないさ。ただ君に言いたいことがあるだけ」
「言いたいこと?」
「うん。君は人々を苦しみから救いたかったから、その人々の願いを叶えたり、永遠に続く幸せな夢を見せた。そうだよね?」
「…はい」
アルカディアの答えを聞いてから、ラビアは手の平を上に向けて言う。
「…うん。嘘じゃあないだろうね。でも、他にも理由があるだろう?」
アルカディアは黙っている。だがそれは、ラビアからすれば肯定の意を示したのと同義だった。
「まぁ一旦いいや。アルカディア、1つ聞かせてもらうよ」
「…何ですか」
「君の力で永遠の夢に落ちた人々のこと…喋るどころか指1つ動かしすらしないまま、ただ眠り続けるだけの存在…君はそれを『人間』と呼べるのかい?」
その言葉にアルカディアは、いくらか語気を強めて返す。
「っ…!それでも…!苦しみ続けるよりはマシなはず…!」
「そうじゃないんだよね…少なくとも僕はさ。…僕が呑気に眠りこけてたばっかりに、彼女は…」
ラビアの最後の方の言葉は上手く聞き取れなかった。少し俯いていたラビアは、再び顔を上げてアルカディアの方を見る。
「とにかく、全ての人を救うなんて土台無理なんだよ。僕にすらできなかったんだから」
その言葉の後に、依然として地面に膝をついているアルカディアは絶望したかのような表情でラビアに問いかける。
「なら…私がやってきたことは…無駄だったと言うのですか…?」
すると、ラビアは優し気な表情になって、アルカディアと目線を合わせる。
「そうは言ってないだろ?あ、そうそう。君は小説書いてたりもしたんでしょ?それについても言いたいことがあってね」
アルカディアは反射的に身構えた。今まで経験してきた、幾度とない失敗や非難などを思い出してしまったからである。だが、ラビアが放った言葉はアルカディアの想像とは違った。
「僕は創作なんてやったことないけどさ、別に賞を取ることが全てじゃないんじゃないの?」
「それは…ですが、賞を取らなければ認めてもらえないのです」
「本当にそうかい?よく思い出してみなよ。一番近くにいたじゃないか。君の大ファンがさ」
その瞬間、アルカディアの脳裏には、かつて自身を唯一愛して、必要としてくれた者の顔が浮かんだ。
「…!リナ…!」
「いただろ?君を認めてくれる人。それに、今君の目の前にもいるよ」
「え…貴方、私の作品なんてどこで読んだのですか?書籍化なんてしてないと言うのに…」
「ハハ…まぁ色々あってね。僕の能力だと思ってくれ」
そしてラビアは、リーフェウスやメイも聞いたことがないような穏やかな声で言う。
「僕は結構好きだったんだけどな。君の話」
その瞬間、アルカディアの目から大量の涙が零れ始めた。もう二度と聞くことのないと思っていた言葉を、今日聞けたのだから。
「誇りなよ。世界的な大スターと全てを知る神が絶賛する作品を、君は創りだしたんだから。むしろ、審査員の見る目が無かったんじゃないの?」
笑いながら言うラビアに向かって、アルカディアは絞り出したような声で呟く。
「ありがとう…ございます…!」
ラビアは、アルカディアの涙が収まるまで待ってから問いかける。
「で、君はこれからどうすんの?」
「これから、ですか…人助けをしたいとは思ってますが…」
具体的なイメージが湧いていた訳ではないが、アルカディアはなんとなくそう思った。その時、リーフェウスが久しぶりに口を開く。
「じゃあ俺のところに来ればいい。人手は多いに越した事はないからな」
「俺のところって……あぁ…君さぁ………まぁ好きにすればいいけど…」
ラビアは少し呆れたような表情で歯切れ悪く呟いた。恐らく権能を使って、リーフェウスが萬屋を開店した事を知ったのだろう。
「俺は萬屋を営んでいるから、アンタほどの実力者が居てくれると心強いんだ。人助けもできるし互いに利のある話だとは思わないか?」
アルカディアは顎に手を添えて考え込んでいた。
「行ってやりなよ。考えてるように見えるけど、君の答えはもう決まってるんだろ?」
「…何でもお見通しなんですね。リーフェウスさん、私で良いと言ってくださるのなら…私は貴方のところで働かせていただきます」
「ああ、よろしく頼む」
(全く…出会う者全てを味方につけるねコイツは…)
こうして、リーフェウス達は萬屋へと帰った。ドアを開けると、ヴァルザと灰蘭と硝光が慌てたような様子で出てきた。
「どこ行ってたんだお前ら」
「ああ、少し野暮用でな」
「てかそれより!アタシ達3日くらいずっと寝てたんだぞ!」
「リーフェウス、その後ろの人は?」
リーフェウスは、これまであった事を全て話した。
「へぇ…コイツが俺達を眠らせてたってのか」
「申し訳ありません…」
「謝らなくていいぜ。俺の育て親はもう大分前に死んじまったんだけどよ、夢ん中で久しぶりに会えたんだ。むしろ礼を言いたいくらいだぜ」
「…そうですか…なら、よかったです」
その時、誰かがアルカディアの手を引いた。
「アルカディアさん、行きましょう!ここの間取りを教えてあげます!」
「え、ああ、はい」
メイは元気よくアルカディアを連れて家中を歩き回り始めた。
「なんか張り切ってんな」
「そういや、メイちゃんにとっては初めての後輩か」
「ふふ、きっと嬉しいんでしょうね」
平和な会話をする3人の後ろで、リーフェウスはある異変に気がついた。
「…ラビア?」
家までは着いてきていたはずのラビアがいないのだ。
「すまない、少し出てくる」
リーフェウスは、ラビアを探しに出かけて行った。
いつかメイとアルカディアの絡みも書きたい。光属性2人組。




