第五十一話 惨界再臨
リーフェウス、メイ、カロスの3人は、ラビアの魂を探す為に深淵へやってきた。以前から深淵を研究しているカロスは勿論のこと、リーフェウスにとっても最早見慣れた場所だった。
「こんな場所を見慣れる日が来るとはな…」
「…よし、場所は分かった。ついて来てくれ」
カロスの案内に従って、似たような風景が続く深淵の大地を進んでいく。
「さっきからずっと考えてたが、やっぱり分からないな。何でアイツは深淵に思い入れがあるんだ?」
「私達が戦った場所だから…でしょうか?」
2人が議論している側で、カロスはとある可能性を思いついた。
「…2人とも、深淵を探索した事はないだろう?」
「急に何だ?今しているじゃないか」
「そういう意味の探索ではない。もっと広い範囲を歩き回った経験はないだろう、と言っているんだ」
「ある訳ない」
「そうだろうな。とすると君達は知らないだろう…実は深淵は、全部が全部このような殺風景な景色が広がっている訳ではない」
「他にはどんな風景が?」
「様々だが…1番多いのは都市の面影を残した廃墟だ。倒壊した建物や、散乱する家具などの残骸…それはまるで、数千年前まではここに人が住んでいたように見える」
カロスは、『丁度良い』と言わんばかりに前方を指差す。
「噂をすればだな。ああいった廃墟が、深淵には散在している」
「…本当だ。酷く荒れ果てているが…確かに誰かが生活してたような痕跡がある」
「という事は…ラビアさんは深淵で生まれたって事ですか?」
「半分正解だな。あくまで私の推測だが…ラビア殿が深淵で生まれたのではなく、ラビア殿が生まれた場所が深淵となったのだ。つまり…深淵は旧世界の残骸なのではないだろうか?」
「確かに…それなら、ここまで荒れている理由も、ラビアさんが深淵にいる理由も説明がつきますね」
合点のいく理由が見つかり、心に引っかかっていた物が無くなった3人は再び歩を進める。
やがて、3人は強い光を放つ人魂のような物が浮いているのを見つけた。その光は、どこまでも暗い深淵の地が普通の場所に見える程に周辺を照らしていた。
「眩しいな」
「これだけ目立つのなら、私が居なくても見つけられたかもしれないな」
「カロスさんが居なかったら私達深淵まで来れないんですよ」
無事にラビアの魂を発見した3人。カロスは早速蘇生の為の作業に取り掛かる。
「恐らく蘇生中は淵族が寄ってくるだろう。正直なところ、あまり淵族を殺してほしくはないが…今はそうも言ってられん。私は君達を守る事は出来ない。各自、自分の身は自分で守ってくれ」
そう言うとカロスは、大きな魔法陣でラビアの魂を包み込んだ。すると、遠くの方から無数の淵族が向かってくるのが見えた。リーフェウスとメイは戦闘の準備をする。
「っていうか、淵族って光が苦手なんじゃなかったのか?その魔法陣めっちゃ光ってるが」
「ああ。だから私は襲われないだろうな」
(…なんか解せない)
「リーフェウスさん!来ますよ!」
リーフェウスが振り返ると、さっき見たよりもずっと数の多い淵族の群れが近づいて来ていた。
「…多くないか?」
リーフェウスは頭上に『強』の文字を浮かべ、淵族の一体に斬りかかる。だが、首元を狙ったその剣はまるで石を斬ろうとしたかのように弾かれてしまった。
「そういや淵族って硬いんだったな…!」
そんなリーフェウスを見て、カロスは茶を飲みながら声をかける。
「頑張ってくれリーフェウス殿。私は手が離せない」
「湯呑みはどこから出した!?」
「どうしましょう…どんどん増えていきますよ!」
ひとまずの対処として、リーフェウスは『制』の力を使って正面の淵族の動きを止める。次にメイの方へと走り、今度は『衝』の文字を頭上に浮かべて淵族を吹き飛ばす。
「耐え続けてれば最悪カロスが何とかするだろ…!」
「私を頼り過ぎるのもよくないぞ?」
と、茶を飲み干して言う。
「だから何か解せない!」
その時、リーフェウスの身体を大きな影が覆った。
「リーフェウスさん後ろ!」
振り向くと、他の淵族より大きな人型の淵族がリーフェウスに拳を振り下ろそうとしていた。思わず硬直するリーフェウスだったが…
「失せろ、雑魚共が」
その瞬間、メイとリーフェウスの周りに幾筋もの黒い閃光が走り、周辺の淵族を一掃した。
「セツ!」
「すまない。思ったより当たってしまってな」
「今度何か食事を奢って貰わねばな」
「いやもう全部馬に溶かしたぞ」
「君という奴は…」
だが、依然として淵族の群れは押し寄せる。リーフェウスはメイに傷を癒して貰い、セツと共に前線に立つ。
「相変わらずの強さだな…!」
リーフェウスは前線に居るには居るが、実際のところセツがほぼ全ての淵族を一撃で仕留めていく為、リーフェウスはその動きを見ている事しか出来なかった。セツはかつて戦った時と同じく、黒い淵気の暴風と共に淵族を殲滅していく。
「周辺の敵は一掃した。しばらくは大丈夫だと思うが」
「アンタ…本当に全部1人で片付けるとはな」
「先日のあの男との戦いでは、私は何も出来なかった。その鬱憤を晴らすつもりで槍を振るったからな。それに、少年の腕ではまだあの者達に刃を通す事は出来ないだろう?」
「それは認める」
その時、メイが叫んだ。
「皆さん!また来ましたよ!」
セツとリーフェウスは武器を構えるが、その2人にカロスが声をかける。
「もう戦う必要はない…完了だ」
その瞬間、夥しい数の淵族の群れの中心に、赤黒い光芒が放たれた。大地を揺るがす程の衝撃が深淵中に走る。
「揃いも揃って変わらないツラしてるねぇ…って、まだ数週間しか経ってないのか…そりゃそうか」
カロスの側には、かつて仲間として共に戦った者であり、かつて敵として刃を交えた者…ラビアの姿があった。
「…久しぶりだな。ラビア」
「久しぶりってほど時間経ったかい?」
すると突然、メイがラビアに抱きついた。
「うわビックリした。何してんの」
「もう…もう、居なくならないで下さい…私…寂しかったんですよ?」
その時、ラビアは一瞬複雑そうな顔をした。だが、すぐにいつもの表情に戻って、メイの頭を撫でながら優しそうに言う。
「…分かったよ」
そして、ラビアはリーフェウスの方を向く。
「僕を蘇生した理由は分かってるよ。説明は必要ない。さっさと行こう」
セツはいつの間にか帰っていた。カロスの能力によって、ラビア、リーフェウス、メイの3人は現世に帰り、夢中病を広めた悪神のところへと向かった。
一方その頃、奈落の某所では…
「久しぶりだな…この場所は」
かつてメイとソロンを陥れ、カレアスの実権を握ろうとした男…アステールの姿があった。




