第五十話 狂信者への罰
「ラビアを蘇生するという事は…この前みたいにまた深淵に行くのか?」
「いや、現段階ではその必要はない」
予想外の言葉に、リーフェウスは疑問を抱く。
「どんな生物でも死ねば皆淵族になるんじゃなかったのか?」
「…先日深淵に赴いた際、ラビア殿の魂が元になった淵族は見当たらなかった。私自身忙しかった故、隈なく見て回った訳ではないが…」
「根拠はあるのか?」
「当然だ」
カロスは腕を組みながら話す。
「リーフェウス殿の話によると、彼は過去に『神を生命の輪廻から除外する』という操作を行ったそうだな?」
「ああ。それは確かだ」
「具体的にどういう仕組みなのかは分からないが…それほど大きな仕組みを改変してしまったせいで世界に不具合が起き、ラビア殿は完全に死ぬ事が出来なかったのではないだろうか。彼は今、魂だけとなって何処かを漂っているのだろう」
リーフェウスは直立不動で沈黙している。
「…?」
話が難し過ぎて理解出来なかったようだ。
「…リーフェウス殿、今私が何を考えているか分かるか?」
「分かる訳ないだろ」
「それが証拠だ。ラビア殿が死んだのであれば、ラビア殿の権能が君に受け継がれている筈だろう?」
「ああなるほど…」
「まぁ細かいことはいい。とにかく、今はラビア殿の魂を探す事が先決だ」
「どこにいるか分かるんですか?」
「死者の魂は生前思い出深かった場所に向かう。…ラビア殿の場合はそれが分からないから、各国を巡るしかないが」
こうして3人は、カロスの異能を駆使して世界各国を見て回った。その道中、カロスがリーフェウスに語りかける。
「…リーフェウス殿。私は疑問に思っている事がある」
「なんだ」
「ラビア殿の目的は…果たして本当に世界を滅ぼす事だったのだろうか?」
「……違うのか?確かに元々は世界を憎んでなかったとはいえ…あの戦いの時に感じた厭悪や憎悪は本物だったと思うが」
「だったら何故、世界に対する憎悪を抱いた瞬間に世界を消さなかったんだ?何故わざわざ世界のルールを変える必要があった?彼なら指を鳴らす程度の労力だけで、この星どころか宇宙の全てを消す事も可能だっただろうに…」
リーフェウスはハッとした。確かにカロスの言う通り、ラビアがその気になれば自分達は抵抗すら出来ないままに世界諸共殺されていたはずだ。
「…理由に見当がつく訳ではない。だが、少なくとも彼を蘇生しても、この世界に害は及ぼさない…と思いたいがな」
3人は、日が暮れるまで様々な国を渡り歩いて、ラビアの魂を探して回った。その結果は…
「人の魂って…こんなに見つからないものなんですか?」
「…おかしいな。現世にいないのであれば、あとは深淵しか有り得ない…深淵に思い入れがある者がいるとはな…」
「じゃあ結局深淵に行くって事か?」
「ああ、そうなるな。だが3人のみで行くのは少々不安だろう。それに、蘇生の作業中に淵族が襲ってくるかもしれない」
「もう少し人手が欲しいところですね…」
3人は、『誰を深淵に連れて行くか』という議論を始めた。
「ヴェンジェンスの者達は今各々の仕事に取り組んでいる」
「リーフェウスさんって私達以外の知り合いとかいないんですか?」
「いるにはいるが…どこにいるかは分からない」
議論の結論を要約すると、『誰も都合がつかない』だった。そして3人の脳裏には、同じ人物の顔が浮かんだ。
「…となると、もうアイツしかいないな」
「ああ…あのパチンカスを呼んでこよう」
3人はクロノケージへと向かい、セツを探した。やがてカロスが、セツがよく行くという店を見つけた。
「2人はここで待っていてくれ」
リーフェウスとメイは、初めて訪れる大都会に内心高揚していた。クロノケージは旧世界の面影を最も残している国で、具体的には『トウキョウ』という場所に酷似しているらしい。
数分ほどして、カロスがパチ屋から出てきた。
「カ…カロスさん…!顔に穴空いてますよ!」
「何があったらパチ屋でそんな傷を負う?」
「…セツに怒られた…『今良い波が来てるから邪魔するな』と」
「オンの時とオフの時の差が激しいな」
「戦ってる時はかっこいいんですけどね…」
「とりあえず、そっと書き置きをしてきた。後から来ると信じて…我々だけで乗り込もう」
こうして3人は、奈落へと向かった。すると、白いローブに身を包んだ男が、リーフェウス達の前に現れた。
「…何の用だ?」
「初めまして。我々は『夢幻教』という教団の者です」
「…君達が夢幻教か。何の目的で奈落にいる?というか…どうやって入って来た?」
「それはお答えできませんが…私達は教祖である『アルカディア』様の指令の元、世界中の人々を夢の世界へ誘う事を目的としております」
「…そうか、夢中病も君達の仕業だな?」
「その言われ方は心外ですねぇ…アルカディア様は偉大なお方です。何しろ私達の願いを叶えてくださっただけでなく、行く当てのない者達に居場所を与えてらっしゃるのですから!」
「顔も知らない奴の功績なんて興味はない。私が知りたいのはどうやって奈落へ入って来たか、だ」
「お答えできないと言ったはずです…それより、先程の言動から察するに、貴方達は夢幻教の理念には賛同していただけないと?」
リーフェウス達は黙って頷く。
「ならば仕方ありません…異教徒は排除致しましょう!」
光の魔力を両手に集め始める白いローブの男の鳩尾に、リーフェウスが前蹴りを入れる。
「黙れ」
「ァ…」
男は声にならない声を上げると、地面に倒れ込んだ。
「アンタらがどんな思想を持っていようがどうだっていいが…それを他人に押し付けるな。狂信者には付き合ってられない」
「貴方達…夢幻教を敵に回すつもりですか…!」
次は、カロスが男に向かって冷たく言い放った。
「仲間を呼ぶつもりか?」
そして、カロスが出した無数の光の針が男の全身に突き刺さる。…脳と身体の重要器官を避けて。
「ここ最近の私の仕事を増やした罰だ。五感を奪われ、四肢も動かせず、ただ意識のみが存在する中、そこでそのまま朽ちていくがいい」
その様子に、メイとリーフェウスは絶句していた。
「忘れてましたが…カロスさん死神なんですよね」
「全く…恐ろしい手段を取るものだ」
いくら敵とはいえ、初対面の相手の鳩尾に躊躇なく蹴りを入れる奴の台詞ではない。
「道草を食っている暇はない。行こう」
こうして、3人(1人参加予定)のラビア蘇生作戦が始まった。
何でアイツ蘇生しちゃうんだよ!!!!!
やめろよ!!!
強すぎておもんないんだよ!!!!




