第四十八話 夢見る疫病
「あ…朝ですね」
すっかり話し込んでいたリーフェウスとメイは、窓の外が明るくなってきた事に気がついた。
「そんなに長く話してたのか…眠くないか?」
「はい。全く」
今日は定休日である。今まであちこちを忙しなく旅していたせいか、リーフェウスは何も予定のない日に未だ慣れていなかった。
「…寒くなってきたな。旅を始めたあの日から…もうそんなに経ったんだな」
「あっという間でしたね…」
「まぁ、まだ俺の人生は終わらないがな」
「そうですね、ラビアさんから任された仕事もありますし!私も頑張ってお手伝いしますよ!」
「ああ、頼りにしてる」
それから、2人は朝食を食べることにした。リーフェウスは、ラビアから教わった『和食』なる物を作った。
「旧世界には美味い食べ物が沢山あったんだろうな」
リーフェウスは感慨深そうに呟く。他の3人はまだ起きてこない。
「今日は何もない日か…何か飲むか?」
「あ、じゃあココア飲みたいです」
「……無いな」
「何ならあります?」
「コーヒー。豆だが」
「……ミルとかあるんですか?」
「無い」
「誰が買ったんですかそれ」
「硝光」
「ああ…」
2人は本を読んだり、服を洗濯したりして過ごした。ちなみに、今までは血などで服が汚れる度に新しい服を買っていた。やがて日は高く昇り、正午となった。
「私、ご飯作ります」
「ああ、頼む。…アイツらよく寝るな…そんなに疲れたか?」
そして昼食を食べ終え、リーフェウスは洗濯物を取り込んだ。
「リーフェウスさん」
「何だ」
「花札やりましょうよ」
「どこで買ったんだそんなの」
「スケイドルです」
こういう時の相場はトランプとかだと思うが、2人は花札に興じた。しばらくして、空がオレンジ色に染まり始めた頃、リーフェウスが言う。
「…流石に寝過ぎだろう」
「こんな時間まで寝てるなんて…今日はお休みの日だから大丈夫ですけど…皆さん、体調でも悪いんですかね…?」
「…俺は医学には精通していない。ここは医者を頼ろう」
それから20分ほどして医者がやってきた。心地良さそうに寝ている3人を、順番に診ていく。
「…3人とも、特に異常は見つかりません」
「という事は…本当にただ寝ているだけなのか?」
「そうなります。ただ…」
医者は少し間を置いてから話を続ける。
「似たような状態の人が、ここ最近増加しているのです。丁度、一昨日あたりから」
「何かの…病気ですか?」
「我々は『夢中病』と呼んでおります。基本的には寝ているだけで、命に関わる病気ではないのですが…」
医者は言葉を詰まらせる。
「…夢中病の患者の中に、目が覚めた方はいないのです」
「えぇ…」
「落ち込むなメイ。命に別状が無いのなら何とかなる」
「それはそうですけど…」
「申し訳ありませんが、現状夢中病の方に対して私が出来る事はありません。対処法が見つかりましたら、また来ます」
「ああ、ありがとう」
医者は帰っていった。
「ふぅ…一難去ってまた一難だな」
「どうしましょう…私も医学は専門外なので…」
その時、勢いよく玄関のドアが開いた。
「リーフェウス殿!いるか!」
銀色の美しい長髪を携えてやってきたのはカロスだった。
「カロス…何かあったか?」
「実は失礼ながら…先程ここに訪れていた医者の話を聞かせてもらった」
カロスは若干慌てているように見える。
「珍しいな。アンタがそんなに慌てるなんて」
「その夢中病という病が…奈落でも流行している」
「そうなんですか……あれ?カロスさんは無事なんですね」
「それは後で説明するとして…2人とも、昨日寝たか?」
「いえ…他の3人は寝ましたけど…それから起きてこないんです」
「…やはりな」
カロスは何かに気がついたようだ。
「何か分かったのか?」
「夢中病に罹る条件だ…それは恐らく眠ること。それ故に、眠っていない君達が罹らずに済んでいるのだろう」
「へぇ……えっ?じゃあカロスさん寝てないんですか?」
「ああ。私とヴェンジェンスの面々は全員、ここ2,3日寝ていない」
「ブラック過ぎますよ…」
「奈落のほぼ全ての業務を行っているのだから仕方ないだろう…大体私が先代の死神に勧誘された時も、ここまでの激務だと知っていれば…」
カロスは咳払いをして話を戻す。
「…話を戻そう。現世の医者は気づいてないだろうが…夢中病の患者にはある共通点がある」
「共通点?」
「先程、奈落にいる夢中病患者の簡単な診察を行ったところ…その者の身体から神特有の魔力が感じ取れた」
リーフェウスの頭に閃光が走る。途端に、ラビアに言われた言葉が脳内で再生される。
「それは…つまり…」
「ああ…君の出番だ」
『マジか…』とでも言いたげなリーフェウスの横で、メイが不安そうに言う。
「でも…私達だけでどうにか出来ますかね…?」
「とりあえず、1日程方法を考えてみてくれ。明日の午後2時ごろにまた来る。…思いつかなければそれでも良い。最終手段は用意している…あまり気は進まないがな」
そう言うとカロスは席を立ち、足早に帰ろうとする。
「急いでいるのか?」
「ああ、実は問題は夢中病だけではない。現世にいるかは知らないが…夢中病と同時に『夢幻教』と名乗る怪しげな集団が出没するとの情報がある。幸いまだ被害の情報は無いが、奈落の治安を乱すのなら…もとい私の仕事を増やすようならば…容赦はしない」
カロスは冷気を放ちながら言い残すと、軽い挨拶と共に空間の裂け目に消えていった。
「さて…面倒な事になったな」
リーフェウスはラビアの気持ちがなんとなく分かった気がした。
豆知識
カロス君の髪が長いのは、ただ単に切ってないだけです。夏とかめっちゃ暑いそうです。切れよ




