第四十五話 『決意』
書き忘れたのでラビアとリーフェウスの権能の副次効果を書きます
ラビア→一度知った事は基本的に忘れない(ただし、寝てる時やぼんやりしてる時などの例外は一応あり)
リーフェウス→一度発動させた能力は自由に発動できる
「これが…ラビアの過去…」
脳内に流れる映像を見終えたリーフェウスは、仲間の方に目を向ける。様子から見るに、この映像が見えているのはリーフェウスのみらしかった。全員、ラビアの攻撃を捌くので手一杯なのである。
「ラビアが思いついた『計画』…あの世界を滅ぼすって事じゃないのか…?」
リーフェウスに見えていたのは、あくまでも『映像』だけである。それ故に、ラビアの『全員が救われる計画』がどのような内容なのかは分からなかった。
そんな時、リーフェウスはある事に気がついた。酷い頭痛と共に脳内に流れる声の内容が、徐々に変化しているのである。
『何故立ち上がる…! もう諦めろ…!
君達を殺したくはない…! 何故…!』
その声は、先程までのような世界に対する厭悪に満ちた声ではなく、神となる前の、ただ1人の人間の声に聞こえた。
『辛い… 苦しい…
痛い… 悲しい…』
ラビアの背後には、いつの間にか『惨苦』の文字が刻まれた光輪が浮かんでいる。
「ラビア…」
(俺に…何が出来る?アイツの苦しみは無くしてやりたい…でも…それはこの世界がある限り不可能だ…どうすれば…どうすればラビアを救える?)
その時、リーフェウスは確かに聞いた。依然として酷くノイズのかかった、聞き慣れた声で、ただ一言、
『寂しい』
という声を。それと同時に、リーフェウスはラビアのものではない誰かの声を聞いた気がした。『俺の旧友を、救ってくれ』という声を。
その瞬間、彼の決意は固まった。
「チッ…どうするつもりだカロス!このままでは遅かれ早かれ全滅するぞ!」
「私以外がな」
「今そんな冗談を吐いている場合か!」
「魔力も使えないのに無駄に体力を消耗する気か?愚かしい…」
「いいだろう!アルヴィースの次は貴様の番だ!」
こんな状況でも口論を繰り広げる2人は、ここでとある異変に気づく。
「リーフェウス殿…?」
リーフェウスの身体からは黄金の光が放たれており、仲間達もラビアも思わずリーフェウスに目を向ける。
「…『お前』が万象を『破滅』させると言うのなら、俺が万象を『創生』する」
どこか威厳のある口調で話すリーフェウスの頭上には、『創生』の文字が浮かんでいた。すると、辺りを光が包み込み、全員の武器が修復された。
「お前が世界を『虚無』で鎖ざすと言うのなら、俺がその世界に『光明』を齎す」
その言葉と同時に、カロスとセツの武器も修復された。リーフェウスの頭上には『光明』の文字が浮かんでいる。
「魔力が元に戻った…」
「お前が世界を『濁乱』に堕とすと言うのなら、俺がその世界を『是正』する」
今度は頭上の文字が『是正』に変化し、全員の頭に響いていた声と頭痛が消えた。
「そして…お前自身が『惨苦』に灼かれるというのなら…俺がお前を『救済』する!」
剣を掲げて宣言したリーフェウスの頭上には、『救済』の文字が浮かんでいた。その『決意』に、ラビアもノイズのような声で答える。
「ハハハハハハ!いいだろう…3000年前のリベンジマッチといったところかな!」
「リーフェウス!アタシ達も…」
加勢しようとする仲間達を、リーフェウスは制止する。
「いや、必要ない。これが…俺なりのラビアとの向き合い方だ」
「…意見を変える者の目ではないな。行ってこい、少年」
「ああ」
リーフェウスがラビアに近づくと、その周囲一帯にバリアのようなものが現れる。
「これで…正真正銘の 1対 1だ」
「ああ…決着をつけよう」
それからバリアの中で繰り広げられたのは、未だかつて見た事がない程の大激戦だった。闘技場のリング程度の大きさの空間に、ラビアは容赦なく天変地異を引き起こす。一方、リーフェウスは反撃しようとはしなかった。何か策があるのだろうか。当然ながら、リーフェウスには何度も自分が死ぬ未来が見えた。だが、その未来を『神』の能力を使って悉く変えていく。
「リーフェウスさん…本当に大丈夫でしょうか…」
「ここまで来たら、少年を信じる他はない」
「リーフェウス殿…まさか無策ではあるまいな」
「それあり得るのが怖えんだよな」
「リーフェウスの性格からして全然それもあるわね」
「世界背負って戦ってるとは思えねえな」
「割と『何とかなるだろ』の精神で生きてますよね、あの人」
「ま、それがアイツの良いところでもあるけどな」
カロスの予想とは異なり、リーフェウスにはしっかり策はあったようだ。…策と呼べるのかは分からないが。ラビアの攻撃の間隙を見て、リーフェウスは叫ぶ。
「ラビア!このまま同じ事を繰り返していても埒が明かない!ここは1つ…勝負といかないか?」
ラビアは攻撃の手を止めて耳を傾ける。
「…勝負?まぁ、何を考えているのかは分かってるけど…」
リーフェウスはニヤリと笑う。
「…何を笑っているんだ少年」
「ここからじゃ音が聞こえないんだよな…」
「…さっきカロスも言ってたけど…もう彼を信じるしかないわ」
バリアの外にいる仲間達の心配など知らずに、リーフェウスは言う。
「ルールは単純。俺とアンタ…お互い次の一撃に全力を懸ける。それで立ってた方の勝ちだ」
「本気かい?僕に全力を出せだなんて…身の程を知らない愚か者が…」
「返答は?」
正直なところ、リーフェウスは断られるかと思っていた。だが…
「……フッ…いいよ。乗った」
「…決まりだな」
そこで、ラビアはグリッジの中から刀を取り出す。そして…リーフェウス達の前で初めて、その刀を抜いた。リーフェウスも、自身の武器を構える。気づけば、ラビアの顔の黒いグリッジは消えていた。
「…行くよ」
それから2人は、文字通りの鍔迫り合いを繰り広げた。お互い、最早声の1つすら上げずに、今だけはただ純粋に『目の前の相手に勝つ』事だけを考えていた。ラビアの光輪の中央と、リーフェウスの頭上に浮かぶ言葉。今この時、2人の力を表すその言葉は、奇しくも同じ『決意』だった。
「アイツら…!」
「とうとう決着か…」
仲間達が思い思いの感想を口にする中、リーフェウスとラビアは未だ全力の鍔迫り合いを続ける。戦況は、若干ラビアが優勢だった。
(いける…このまま…)
やがて、ラビアの刀がリーフェウスの喉元を捉えそうになる。だがその瞬間、ラビアの脳内にとある記憶が流れ出した。それは、いつかとある人間が自分に言った言葉の記憶である。
『ほどほどに幸せで、ほどほどにうまくいかないこの世界が…私は好きです』
それを思い出したラビアは、一瞬力が緩んだ。そしてその反動で、リーフェウスの刃がラビアの胴体を袈裟状に切り裂いた。
「…!」
ラビアの背後の光輪は消え、ラビア自身も地面に落ちる。
「…この勝負、俺の勝ちだな」
「…ハハッ…やるじゃん…アダムカドモン…」
仲間達が駆け寄ってきて、ラビアを見下ろす。
「…いつまで寝ている気だ?さっきも言ったが、俺の勝ちだ。もう戦いは…終わったんだぞ…」
ラビアは、リーフェウスの抱いている感情を察知した。
「そんな顔するなっての…君も僕も…お互いの譲れない物の為に、命まで懸けて戦った。そして、その結果僕が負けた…それだけの事さ。君が気に病む必要なんてない」
「ラビア…」
「…君、前生で自分が言ったこと覚えてる?…見たんだろ?僕の過去…」
「…ああ」
「なら、言った事の責任は取れよ?君は僕の代わりに、この星を守らなきゃいけないんだ」
「…」
リーフェウスは、ラビアのとある気遣いに気がついた。自分が『ラビアを殺した』という罪悪感に駆られないように、あえて『死』や『殺した』などという言葉を使う事を避けている、という気遣いだ。
「…アンタほどの優しさを持った人間が…何故…苦しまなきゃならないんだ?」
「知らねぇよ…じゃあ君が作れよ…『誰も苦しまない世界』をさ」
ラビアの身体は徐々に魔力の粒子に分解されていく。
「さて…そろそろかな。この星を…頼んだよ。リーフェウス」
「ああ…任せろ」
ラビアは天を仰いで呟く。
「ああ…やっと…眠れるなぁ…」
その言葉を最後に、ラビアの身体は消滅した。
ヴァルザと灰蘭は、その様子をじっと見ていた。
メイと硝光は号泣していた。
カロスは空を見つめ、何かを考えていた。
セツは地面に突き立てた槍に寄りかかり、目を閉じていた。
そして、リーフェウスは。
「…帰ろう。俺達の勝ちだ」
1番前に立っていた為、表情は見えなかった。だが、その声に含まれている微かな震えが、感情を押し殺した事によるものだという事は、全員が分かっていた。




