第?話 呪い(前編)
ラビアはかつて、旧世界に生きる1人の人間だった。特に秀でた才覚がある訳でもなく、特に何かを成し遂げた訳でもなく、ただ平々凡々とした人生を送っていた。だが、命がある限り死は必ず訪れる。人間時代のラビアにも、比較的早めではあるが例に漏れず死が訪れた。
…はずだった。気がつくとラビアは真っ暗な空間にいた。状況を飲み込めずに戸惑っていると、ラビアの前方に光が現れ、そこから声が聞こえた。
「やっとこの時が来た…待ち侘びたぞ、人間」
「…眩しい…」
「ああ、驚かせてしまったかな。まずは自己紹介といこう。我が名は『アイオーン』。この世界に存在する正の概念やそれらを連想させる全てを司る存在…俗に言う神だ」
「…禿げてんの?」
「違うわ」
どうやらラビアは昔からこの調子で喋っていたようだ。
「で、何が目的な訳?」
「…それを語るには長くなる」
アイオーンは、ラビアをこの空間に呼び出した理由を説明し始めた。
「我はこの世界が誕生した時から存在しているのだが…実は現在、我と対を成す存在と少々対立していてな」
「ほう」
「戦いは避けられないような状況なんだ。問題は、向こうも我と同じくらい強大な存在だということと、我々が今この星…地球の周辺にいると言う事だ」
「それ何かまずいの?」
「超まずい」
「超まずいんだ」
「何がまずいかと言うとだな…我と奴が戦えば、この星は無事ではいられないんだ」
「へぇ…」
「地球の人類も…恐らくほとんど死んでしまうだろう。地形や文明など以ての外だ」
「……」
「戦い自体は勝算がある。だが、問題はその後だ。恐らく…勝ったとしても我の力はほとんど残らない」
「ふーん…で、何が言いたいの?」
「…我は戦いの後に、残る全ての力を振り絞って世界を再生させる。そこでだ、人間。お前にはその世界…新世界での神となってもらいたい」
ラビアは、アイオーンの台詞を理解するのに少し時間を要した。やがて、その意味を理解した頃…
「………はぁ!?」
「そこまで驚くことか?」
「驚かない奴いないだろ!」
「ハッハッハ」
「笑ってんじゃねぇ」
アイオーンは笑い終えた後に、再び真面目な表情になる。
「あー…笑った。それでだ、何か質問はあるか?」
「ありまくりだけど…まずは1つ。その相手の神はどうすんの?」
「封印する。少なくとも、数千年は効力を発揮するはずだ」
「数千年か……じゃあ2つ目。新世界の神って言っても、具体的に何すれば良いの?」
「新しく生まれ変わったこの星の…平穏を守ってくれ。今回の我の相手のような悪神などからな。あえて名前を付けるのなら…『調停者』とでも呼ぼうか」
「他に相手はいないの?」
「あまりいないが、異星や異世界からの侵略者だな。ちなみに今までその役目を担っていたのは我だ」
「…うん、分かった。じゃあ最後。どうやって守ればいい?」
「よくぞ聞いてくれた。今からその話をしようと思っていたんだ」
ラビアはアイオーンに対して『なんか人間臭いなコイツ』という感想を抱いていた。
「我が無理矢理連れて来てしまった詫びとして、お前が望む力を与えよう。我は『権能』と呼んでいる。さぁ、どんな力を望む?」
「そんな魔王みたいな」
いきなりそんな事を言われても、すぐには思いつかなかった。10分ほど悩んで、ラビアはようやく結論を出した。
「…じゃあ、『この世界の全てを知る』力が欲しい」
その答えを聞いたアイオーンは、少し目を細めてこう言った。
「…ほう?理由を聞いても良いか?」
「…この星には腐ったもんが沢山ある反面、素晴らしい物も沢山ある。お前だって分かるだろ?ずっとこの星を見てたんならさ」
「ああ、否定はしない」
「でも…お前らが戦えば、その素晴らしい物が全部無かった事になるんだろ?そんなの…あんまりじゃないか。だから…せめて1人くらい、それらを全部覚えてられる奴が居ても良いんじゃないか、って思っただけだよ。それに…約束もあるしね」
「…なるほど、気に入った」
「そりゃどうも」
「その他の調整は我がやろう。他の細かい能力の設定や、戦う為の下地づくりなどをな」
「あ、ちょっと待った。さっき最後って言ったけど、まだ2つ聞きたい事があった」
「…まぁ時間が惜しい訳ではない。聞こう」
「1つ目。なんで人間の中からその調停者を選ぼうと思ったの?」
「強い存在を作ろうと思ったら、相応のエネルギーが必要になる。だが人間の中から選べば、身体を構成する為のエネルギーが節約出来るのだ」
「分かった。じゃ、2つ目。たった1人でこの星を守れって言うの?」
「…確かに、それは少々酷だな。……分かった。では、我の持つものと同じエネルギーを…お前達に分かりやすく言うと『魔力』を、新世界の一部の人間に持たせよう。それから、何体かお前の同族も作ろう。基本的な問題はその者達に対処させ、その者達ではどうしようもなくなった場合、お前が手を下せ」
「…なるほど」
「もう質問はないか?」
「うん」
「では、早速取り掛かろう。ちなみに分かっているとは思うが、人間時代の名前とは別の名前で生きてもらうぞ。それもこっちで決めておく」
「分かったよ」
「それでは新たな世界を…頼んだぞ」
その言葉を最後に、ラビアの視界は白く染められた。
次に目が覚めた時には、ラビアは見慣れない土地にいた。そして程なくして、ラビアの頭の中に膨大な量の情報が流れ込んできた。それが自分の要求した力による物であるという事は、権能を使うまでもなく理解できた。
その膨大な量の情報の奔流が止まった時、ラビアは突然膝から崩れ落ちた。
「ハ…ハハ…嘘だ…これが…こんなものが…『真実』だなんて…」
彼は知ったのだ。知ってしまったのだ。真実という…何よりも残酷なものを。その残酷さに打ちひしがれる間もなく、次にラビアを襲ったのは尋常ではない程の痛みや苦しみであった。
「……っ!」
それは最早声すら出ないほどの苦痛だった。ラビアはその理由をすぐに理解できた。権能だ。自分がアイオーンに求めた力。あれのせいだ。『世界の全て』の中には『世界に存在する全ての苦痛』も含まれていたのだ。勿論、苦痛が全てではなかったが、権能によって知る物の中で、1番割合が大きかったのが『苦痛』であった。
「……いや…信じない。僕は…僕の目で見た物、僕の耳で聞いた物しか…信じない…」
ラビアは自身の信条を1人呟くと、苦痛に耐えながら何とか立ち上がり、ひとまず周辺の集落を目指す事にした。
『新たな世界を…頼んだぞ』
それは彼が受けた、1つ目の呪い。
キャラクタープロフィール
名前 アイオーン
種族 神
所属 なし
好きなもの 世界の全て
嫌いなもの なし
権能 正の概念とそれを連想させる全てを司る力
作者コメント
リーフェウス達の世界が作られた理由の大体半数を占める存在にして、ラビアをバグみてぇなぶっ壊れ性能にしやがった戦犯。お前のせいでラビア戦書くのすごい苦しい。種族の欄には神と書いているが、実際のところは神というより概念に近い。イメージした言葉は「生命」「神」「光」




