第四十四話 fatal error
死を覚悟した灰蘭の目の前には、頭上に『神』の文字を浮かべ、薄い金色のオーラを纏ったリーフェウスの姿があった。
「今のは…あなたが…?」
「やっと分かった…全てを知るアンタが唯一知り得ないもの…」
「…」
ラビアは攻撃の手を止め、黙ってリーフェウスの言葉を聞いている。
「それは『未来』だ。アンタはこの世界に存在しないものは知る事が出来ない…だったら俺がそれを操れば良い。だから俺は『決意』したんだ。望まない未来を…変えてみせると」
「…ハハッ、面白くなってきたじゃん」
それから、再び凄まじい弾幕が展開された。それは先程までの物とは比べ物にならない程に激しく、仲間達の命を幾度となく奪いかけた。だが…
「無駄だ」
その度にリーフェウスが未来を変える。ラビアの顔からは、徐々に余裕が消えていった。
「…本当面白いよ。君はどこまでもいつまでも…僕の癪に障る存在だ!」
すると突然、ラビアの左手に黒い魔力が集まり始めた。そして力強くその手を握ると…
「うわっ…!」
声を上げる間も無く、黒い渦が辺りを包んだ。辺りの地形は崩れ、土煙が立ち込める。
「『過去』は変えられないだろ?その力じゃ…付け焼き刃でどうにか出来る程、僕は弱くない」
「クソ…皆無事か!」
「ああ…私とセツはな」
「だが、人間組はもう戦えないだろう。幸い生きてはいるが…寧ろあの化け物相手にここまで死なずにいれたことが奇跡だ」
先に言っておくが、決して彼らが弱い訳ではない。実力は人間の中でも上澄みの方だろう。ただ、相手が悪すぎたのだ。
「アンタは…人の命をどうとも思わないのか?」
「命…ね。僕が名に冠する言葉………くだらない、とだけ言っておくよ。どんな命もいずれ…塵と化して消えていくんだから」
そのラビアの顔は、どこか悲しそうに見えた。
「君達の命も…今日ここで消える」
その時、リーフェウス達の背後からラビアに向かって斬撃が飛んでいった。
「消えねえよ…消させねえよ!まだ俺達は戦えるぜ!」
何故、まだ諦めずにいられるのだろう。何故、まだ立ち上がれるのだろう。その理由が、ラビアには理解出来なかった。
「……分かったよ。そこまで苦しみたいと言うのなら…僕も多少なり真面目にやらないとね」
ラビアは周囲に黒い魔力を纏い始める。
「マジかよ…今までのがまだ…真面目にやってすらいなかったってのか…!」
「落ち着け、硝光殿。我々にも対抗策がいるだろう」
「俺の事対抗策って呼ぶな」
やがて、周辺に声が響いた。
「遊びは終わりだ…今度こそ…真の惨苦を見せてやる」
その声と共に現れたラビアの姿は、意外にもあまり変わってはいなかった。だが、背後の光輪は黒く染まり、顔が黒いグリッジで隠されていた。
リーフェウス達は改めて武器を構え直す。だが…
「…」
ラビアは指一本すら動かさず、全員の武器を破壊した。背後の光輪の中央には『破滅』の文字が浮かんでいた。
「な…!」
だが、セツとカロスの武器は魔力で作られている為、破壊されずに済んだ。しかし、ラビアはそれを見逃すような相手ではない。ラビアが左手の指を鳴らすと、黒い波動がリーフェウス達に飛んできた。
すると、魔力で作られているはずの2人の武器も消滅した。ラビアの背後には『虚無』と書かれた光輪が増えていた。
「頼みの綱の未来視と未来改変ももう使えない…身体能力だけでいつまで生きていられるだろうね?」
そして、更にラビアの光輪が増加する。その中央には『濁乱』の文字が浮かんでいた。すると…
「何だ…これ…」
リーフェウスの頭の中に、声が響き始めた。恐らく他の仲間達も同じだろう。その声は酷いノイズがかかっていたが、何故か内容は聞き取れた。
『どうして僕が なんであの時
大嫌いだ クソ』
リーフェウス達はその声に聞き覚えがあった。前述の通り酷いノイズがかかってはいたが、それは紛れもなくラビアの声だった。何故こんな分析をする余裕があるのか、その理由は単純。ラビアの攻撃の手が、何故か先程までと比べて緩くなっているのだ。
『虚しい 死ね
殺す もう嫌だ』
だが、攻撃の手が止まった訳ではなく、声が絶えず響いている上に、声が響く度に酷い頭痛がする。
『呪い 全部塵に
消えちまえ 消えろ』
その時、リーフェウスはある事に気がついた。絶えず響き続ける声の裏で、誰かの記憶が映像として流れ始めたのである。リーフェウスは本能的に、それがラビアの記憶であると理解した。何故、どういう理由でそれが頭の中に流れ始めたのかは分からない。だが、ラビアの攻撃も段々と単調になっていっている。リーフェウスはその映像に集中し始めた。
ラビアの技(一部)の効果紹介
破滅→指定した範囲にある物質全てを消滅させる。作中で何度か使っている斬撃魔法っぽいのは全部これ。
虚無→当たった対象の魔力を完全に封じる。バフ等も対象。
濁乱→対象の精神をかき乱す。




