第三十八話 露見する異変
スケイドルでの一件の後、リーフェウス達は平安の家に別れを告げ、再び旅を開始した。
ある日の昼頃、リーフェウスとメイは薪を囲んで座っていた。ヴァルザ、硝光、灰蘭は買い物に行っており、ラビアは『用事がある』と言って朝からいない。今リーフェウス達がいる場所は街からそこそこ離れているので、全員の帰りは遅くなるだろう。
「暇だな……まぁいつもの事だが」
「最近は戦ってばかりでしたし、たまにはこんな日も良いじゃないですか」
「それもそうだな」
2人がのんびりと時を過ごしていたら、突然リーフェウスの隣の空間が裂けた。
「久しいな、リーフェウス殿、メイ殿」
「こんにちは、カロスさん」
「また面倒事か?」
「私を何だと思ってるんだ…」
「けど、アンタは用もないのに顔を見せるようなタチじゃないだろう」
「…胸騒ぎがしたんだ。ただそれだけの事だが…」
カロスは歯切れを悪くして答えた。
「胸騒ぎ…ですか」
「まぁ、それ以外に用がある訳ではない。私の事は気にするな」
「気にするなと言うなら…その鎌をどうにかしてくれないか?」
「邪魔か?」
「いや邪魔というか…落ち着かない」
カロスの鎌は死神の武器というだけあって、中々の威圧感を放っていた。
「私の部下は気にしていないんだがな…」
「そりゃ何百年と見てたら慣れるだろうよ」
そんな事を話していると、空から誰かが降ってきた。
「あ、セツ」
「息災だったか、少年」
「セツさんはまた何のご用ですか?」
「此奴から手紙を貰ったんだ。走り書きのな。『胸騒ぎがする』とだけ書かれていた」
セツが指を指した先には、カロスがいた。
「ああ、近頃不可解な出来事があってな」
「よくその内容で手紙出したなアンタ」
リーフェウス達は、カロスの言う『不可解な出来事』について聞いた。
「俺の髪が若干光る理由…?」
「そうだ。以前説明したことは覚えているんだが…その時に何を話したのかは全く覚えていないんだ」
それを聞いたセツは、鼻で笑いながら言った。
「ハッ、とうとう耄碌したか?」
「私の部下と同じ事を言うな…だが、その可能性もゼロではない。故に、君がどうなのかを聞きたいんだが…」
「………確かに、俺も何も覚えてないな」
「私もです…」
「やはり…」
「『やはり』だと?何か知っているのか?」
「いやただの感嘆詞だ」
その時、思い出したかのようにセツが言った。
「不可解な事と言えば…」
次は、セツが自分の疑問について話した。
「制約のある能力って珍しいのか…」
「言われてみれば、私も制約のある能力など見た事がないな」
「確かに…私もないです」
4人とも、一旦閉口した。その沈黙の裏で、リーフェウスとメイはほぼ同じ事を考えていた。
((お…落ち着かない…))
考えてみれば当然である。ここ最近の扱いや行動のせいで忘れられていると思うが、今2人の目の前にいるのは『彼岸を治める死の神』と『1つの国の都市伝説』である。落ち着けと言う方が酷だ。
(どうするんだメイ…この空気)
(私に言われても…)
(今こそアンタの好印象トークでどうにかする時だろう)
(勝手に変な技術作らないでください!)
2人が目線で会話している時、リーフェウスはとある事に気がついた。
「どうした、リーフェウス殿。何かあったか?」
「いや…俺にもあったんだ。『不可解な出来事』」
「ほう…どんな?」
「実は…俺の能力って、最初は『能力の複製』だと思ってたんだ。でも、その後メイに異能を見てもらって、俺の能力が『能力の創造』だって事が分かった」
「そんな事もありましたね…」
「だが、問題はここからだ。俺の能力を『複製』だと伝えた奴が…」
「誰だったか覚えていないんだ」
「え?それは………あれ…誰…でしたっけ?」
「恐らく、私と同じ現象だろうな。何なんだこれは…」
4人が頭を捻っていると、買い出し組が帰ってきた。辺りはいつの間にかすっかり暗くなっている。
「よう、帰ったぜ」
「あ、カロスとセツだ!」
「何か用?」
その時、空からラビアが降りてきた。
「あれ、珍しい顔がいるね」
結局、その日の夕食はカロスとセツも交えて食べる事になり、カロスは、灰縁の創作料理を食べずに済むことに密かに安堵しており、セツは食費が浮いたことを密かに喜んでいた。
そして、その日の夜。カロスとセツはまだ起きているが、他の面々はおおよそいつも通り眠っている。ただ1つ違うのは、いつも夜になるとどこかへ行くラビアが拠点にいることだった。
リーフェウスがそろそろ寝ようとしていた時、ラビアが声をかけた。
「リーフェウス、少し来てくれ。話したい事がある」
「ああ…」
リーフェウスは眠い目を擦って、ラビアと森の中へ進んでいった。
さて、何の用でしょうか




