第三十七話 セツの1日
(現時点での)大体全キャラ一人称
俺 私 僕、アタシ
・リーフェウス ・カロス ・ラビア
・ヴァルザ ・セツ ・硝光
・ディザイア ・メイ
・ベル ・灰蘭
・星導
スケイドル某所。黒い衣服に身を包み、長い黒髪を1つに纏めた人物が、木の上に腰掛けていた。
「…」
その者の名は『セツ』。数日前の一悶着以降、『己が守りたいと思ったものを守る為』にスケイドルにて暗躍している。今のところは、スケイドルに害をなす者や、目撃した悪人などを標的にしてその槍を振るっている。噂をすれば、今日もセツに客が来たようだ。
「兄貴…本当にやるのかよ…?」
「当たり前だ。あの都市伝説の黒鴉って野郎に勝てれば、俺の実力が証明される」
来たのは、妙にガタイの良い男とその弟分らしき2人組だった。セツはその2人…主に『兄貴』と呼ばれた方に声をかける。
「…愚かだな。強さを突き詰めて何になる?お前達のような輩は、どうせ他人の為に力を使う事など無いのだろう?」
そう言うと、セツは空中で一回転しながら地面に降り立った。セツの身長は低くはないが、高くもない。少なくとも、2人組の弟分の方よりは小さかった。その事実を確認した弟分は、突然前に出てきてこう言った。
「兄貴…コイツ弱そうじゃないですか。ちょっと俺にもやらせて…」
だが、その言葉が終わる前に…
「邪魔だ」
セツの裏拳によって遥か遠くまで殴り飛ばされた。
「私に用があるのはお前だろう」
「野郎…よくも弟を!」
「甘い」
セツは閃光の如き速さで、胴体に拳を入れた。何かが折れたような音が聞こえた気がするが、まぁ気のせいだろう。
「…この程度か。別に戦いを好んでいる訳ではないが…こうも歯応えのない相手ばかりだと腕が鈍ってしまいそうだ」
その時、セツは日が高く昇っていることに気がついた。
「…正午か。まずは昼餉だな」
セツは財布を取り出し、中を見る。
「…まずいな」
そこには、誇張抜きで銅貨の1枚すら入っていなかった。それなら財布を持った時点で分かるだろうに。
「動物の肉でも良いが…どのみち火を起こす手段が無い。ここは知り合いに迷惑をかけるとしよう」
それからセツは、以前カロスに教えてもらった奈落への入り口に訪れた。
「ここか…一般人に見つかったりはしないのか…?」
この入り口周辺には、カロスが結界を張っている為、一般人にバレることはない。
「数日ぶりだな」
こうして、セツは奈落へとやってきた。十数分ほど歩くと、大きな屋敷が見えてきた。
「ここか。奴の家は」
セツが扉に手をかけると、鍵などはかかっておらず、普通に開いた。
「防犯設備は無いのか…」
そして、一際大きな部屋の扉を開けると、赤髪の女性、灰縁が机の側に立っていた。
「あら…お客さん?」
「そうだ。お前達の親玉は何処へ?」
「知らないわ。なんかさっき『セツが来る』とか言って消えちゃったもの。あなたがセツ?」
「ああ」
その頃、カロスは別の次元からセツを見てほくそ笑んでいた。
「フフフ…如何にセツの五感が鋭かろうと、次元ごと移動してしまえば見つけられまい…」
「それより…何故奴は私から逃げるんだ…?ただ金を借りに来ただけだと言うのに…」
それを聞いた途端、カロスの表情は一転した。
「何が『金を借りに来ただけ』だ…まだ銅貨1枚すらも返されてないんだぞ…」
一体、セツが今まで借りていった総額はいくらになるのだろうか。それとアンタが言うな。
「まぁどこに行ったのかは見当がつく…娘、離れていろ」
「はいはい」
灰縁がセツから離れた事を確認すると、セツは黒い槍を振り回し始め、やがて空に向かってその槍を突いた。
「…何してんのよ?」
灰縁の問いを無視して、セツは空に語りかける。
「そこだろう?」
すると、セツの槍の真横の空間が裂け、カロスが顔を見せた。
「ば…化け物が…」
セツが突き出した槍の先端は、カロスの心臓辺りにしっかりと突き刺さっていた。無論、存在する次元が違うのでカロスにダメージは全く無いが、それでもカロスは心底驚いたようである。
「アタリ…だな」
「金なら貸せないぞ。私の懐だって今寒さを極めているんだ」
「何だと…なら私は今日の昼餉をどうすれば良いのだ!」
「知った事か!そもそも君に食事は必要無いだろう!」
「確かに必要は無いが、腹は減るんだ!」
「ハァ…君は浪費などしない方だと思っていたんだがな…」
「待て、私は浪費などしていないぞ」
「ならばどうして金欠になる?」
「あれは…一昨日の事だった」
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2日前、セツは暇を持て余していたので、先進国であるクロノケージまで足を運んだ。だが、セツの目的はそこで売られている電化製品や、その他の近未来的な商品ではない。
「さぁ…今日こそは」
セツの目的はギャンブル…今回は競馬だった。他にもポーカーだのパチンコだの色々とやるが、お察しの通りめっちゃ弱いのである。セツの賭け方は…
「…よし、これだ」
有り金全部を大穴に賭ける、というやり方だった。
結果は…まぁ言うまでもないだろう。
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「何だそのクソみたいな理由は」
「クソとは何だ。私の立派な趣味だ」
「自身を破滅に追い込む趣味は少なくとも立派ではない」
「やはり…今日は断食か」
それを見かねたカロスは、懐から銀貨を3枚取り出した。
「ほら…持っていけ。しっかり返すんだぞ」
「恩に着る」
そしてセツは、現世へと帰っていった。
「ちょっと主様…アレ誰のお金よ」
「ディザイア」
「あなたいつか本当に刺されるわよ…」
「もう何度か刺されている」
「懲りなさいよ」
そしてセツは無事に夜を迎え、いつもの木の上で考え事をしていた。
(…やはりおかしい。あの少年…リーフェウスの能力…能力を創造できるが『本人が強くイメージする必要がある』…か)
(そんな制約のある能力など…この2500年で見た事がない…)
その時、手紙を足に巻きつけた鳩がセツの元へやってきた。筆跡からして、カロスのものだった。
「カロス…?」
その手紙に何が書いてあったのかは、分からない。ただ、百戦錬磨のセツが一筋の冷や汗を流すような内容だったことは確かである。
その手紙を読み終えたセツは、仮面と槍を手に握って、淵気を纏って夜の闇へと飛び込んだ。
豆知識⑧ 〜各国のイメージ〜(スケイドルとクロノケージ以外覚えなくていいです)
フィステリア→モンゴルの辺り
ボルカニア→アフリカの赤道付近
スケイドル→日本(江戸時代)
カレアス→ヨーロッパ
クロノケージ→東京




