第三十六話 死神様の日常
そういややってなかったので、この世界の通貨の説明をします
金貨1枚=10000円
銀貨1枚=1000円
銅貨1枚=100円
って感じです
スケイドルでの一件を終え、少し久しぶりに奈落へと帰ってきたカロス。なんだかんだ働いたので、家に帰ってようやく休める…訳はなかった。
「…」
カロスはただ黙々と山のような書類仕事を片付けていく。
「……あっ」
だが、途中でカロスの使っていたペンが折れた。力を入れすぎたのだろうか。
「…少し休憩するか」
カロスには、最近休憩中に行っている密かな楽しみがあった。それは、旧世界の様々なことが記された本を読むことである。ちなみに現世の本屋にて銀貨2枚で売っている。
「今日はこの『ストレスの発散』の項目にするか…」
その本の筆者は何を思ってその項目を作ったのだろうか。だが、仕事漬けのせいでストレスが溜まりまくっているであろうカロスにはピッタリだ。
「ほう…旧世界の人々は『きちげ』なるものを解放してストレスを発散していたのか…」
…もう嫌な予感がしているが、とりあえず黙って見ていよう。
「なるほど…要は、常識外の行動を突発的に取れば良いのか…」
カロスは部屋の床に目を向けた。そして、床と天井に空間の裂け目を作ると、カロスはそこに飛び込んだ。天井から落ちてきたカロスが床の裂け目に入り、また天井から落ちてくる。
「おお…確かに若干ストレスが和らいでいく…」
それは気の持ちようだと思うが、ここで少し前に灰蘭が言っていた事を思い出してほしい。そう、カロスの能力はうるさいのだ。そして今日は偶然にも休みのヴェンジェンスのメンバーが多い。真っ先にその音を疎ましく思ったのは、カロスの居る部屋の真下の部屋に住む灰縁だった。灰縁は休暇ということで、部屋の中で穏やかに読書をしていた。
「…さっきからうるさいわね…」
小説を読んでいた灰縁の耳には、定期的に『ヴォン』『ヴォン』という音が響いていた。
「…」
灰縁は本に栞を挟み、窓を開けた。そして指を鳴らして、小さな火の鳥を作り出すと、それを真上の部屋に向かって飛ばした。
その頃、カロスは…
「…段々疲れてきたな…」
なんて考えていた時、カロスの視界の端が赤く光った。
「えっ」
そしてその直後、カロスに火の鳥が当たって爆発した。
「熱ぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
カロスは部屋を転げ回って消火すると、落ち着く為に深呼吸し始めた。
「ああ…灰縁か…今日休みだったのか…」
火元を知ったところで、カロスは自分が休憩中だったことを思い出す。
「さて、そろそろ再開だ」
だが、ここで問題が起こった。もうペンがないのだ。さっき折れた一本が、最後の一本だったらしい。
「買いに行くか」
そう言って自身の財布を開けてみると、銅貨が2枚と、謎のバネだけが出てきた。これでは、この物価高の時代にペンなど買えやしない。
「…仕方ない、『あの手段』を使おう」
カロスが向かった先は、ヴェンジェンスの古参メンバーであるディザイアの部屋だった。だが、ドアからは入らず、自分の部屋から異次元を移動して侵入した。
「よし…やはり買い物に行っているな」
カロスは部屋の隅からディザイアの貯金箱を探し出し、誰に向けた対策かは分からないが、蓋についていた南京錠を開け、金貨を2枚と銀貨を1枚取り出した。ちなみにペンを買うには銀貨が1枚あれば十分である。
「そしてここからが職人技だ…」
ほざけクソ上司。私の感想は置いておいて、カロスは部屋の壁に光の針を刺し、壁を少しだけ崩した。そこから見えるのは、ベッドで寝ているベルの姿である。
「すまんな、ベル」
それだけ言い残すと、カロスは現世の雑貨屋に出かけた。
それとほぼ同時刻、買い物から帰ってきたディザイアと星導が廊下を歩いていた。
「…だからね、生月。ポン酢と味ぽんは別物なの」
「訳分かんねぇ…他の奴らだって味ぽんのことポン酢って言ってるじゃねぇか…」
「それはそうなんだけど…」
どこかで聞いたようなやりとりをしながら、2人は部屋に入る。
「あ…?」
ディザイアは、すぐに異変に気がついた。開けられた貯金箱。崩れた壁。眠りこけるベルの姿。その瞬間、ディザイアの脳内にあった疑念は確信に変わった。
「星導…少し待っててくれ」
「?いいけど…」
ディザイアがドアを静かに閉めた部屋の中で、星導は隣の部屋のドアが蹴破られる音を聞いた。そして、次に聞こえてきたのは、ディザイアの怒号だった。
「ベルお前ぇ!!」
「うわなんだよビックリした!」
「また金盗みやがったな!今度こそスクラップにしてやらぁぁぁぁ!」
「待てって!どうせ主だろ!」
「じゃああの壁はどう説明つけんだよ!」
「崩れ方からして主だろ!俺あんな細かく崩せねーよ!」
そんな口論など知りもしないカロスが帰宅すると、廊下で殴り合っているベルとディザイアを見つけた。
「何をしている?」
「コイツが俺の金盗みやがったんだよ!」
「だから俺じゃねーって言ってんだろ!」
「仲の良いことだ…」
「あ?主…その袋なんだ?」
「これは…買い物だ」
「そんな金あったのかよ?」
その疑問をぶつけた瞬間、ディザイアは今までの全てに合点がいった。
「そういうことか…お前ぇぇぇぇぇぇ!」
「いや!これは仕事で使う物だから!」
「知るかぁぁぁぁぁぁぁ!」
その後、何が起こったのかは言うまでもないだろう…
それからしばらくして、カロスの仕事部屋に、カロスと灰縁の姿があった。
「酷い目に遭った…」
「自業自得じゃない…何が酷い目よ」
するとカロスは、突然黙り込んで考え事を始めた。
「あら…怒った?」
「いや…少し腑に落ちない事があってな」
「何?」
「この前、リーフェウス殿に聞かれたんだ。『何故、魔力を使うと自分の髪や目が光るのか』とな」
「リーフェウス…蘭のお友達ね。なんて答えたの?」
「それが…」
「覚えていないんだ」
「覚えてない?もう歳かしら?」
「違う。ただ何故か1つ分かるのは…あの時答えた内容が誤りだったこと。何故なら、髪や目などの発光は…」
その時、カロスは何を言ったのだろうか。
「…それ本当?」
「ああ…それに関しては確信がある」
「ハァ…不思議ねぇ…」
そんな、死神様のとある1日だった。
豆知識⑦ 〜反魂と神の違い〜
神→生まれつきある程度のすげえ強い魔力を持った存在。カロス君も普段は情けねぇ姿を見せてますが、あれでも神なのです。
反魂→人間が突然神と同等の力を手にする
=肉体の強度や許容量などは人間のままな為、体内に留めきれない魔力が常に放出され続ける。つまり、放っておいたらディザイアみたいに魔力を使い果たして死ぬ。




