第三十四話 淵底にて
小話 〜この世界の命の循環について〜
この世界の生き物の命は、こんな感じで循環してます
現世で死ぬ
↓
奈落にて魔族となる
↓
寿命(クソ長い)か他の要因で死ぬ
↓
深淵にて淵族となる
↓
ゆっくりと魂が再構築され、現世に生まれ変わる
「相変わらず暗いな…」
セツと一緒に深淵に落ちてしまったリーフェウス。だが、周りにセツの姿は見当たらなかった。
「セツも淵族も見当たらないな。まぁ、淵族の方はいない方がいいんだが」
その時、後ろから不気味な声が聞こえた。
「縺薙%縺ッ縺ゥ縺難シ…」
「うわっ」
リーフェウスは思わず振り向いた。そこにいたのは、この前訪れた廃墟で見た通りの姿…淵族だった。リーフェウスは一応武器を構えるが、淵族はリーフェウスに気づいていないようで、ヒタヒタとどこかへ歩いていった。
「アイツらの声ってノイズみたいだな…気味が悪い…」
そこで、リーフェウスはある事に気がついた。
「…そういえば、セツはあの傷でここを彷徨ってるのか…探さないとな」
リーフェウスは、深淵の大地を歩き始めた。
一方、奈落に残った者達は…
「リーフェウスさん達、大丈夫なんですか?」
「彼もセツも相当な実力者を持っている。すぐに死んだりはしない筈だ…」
「でもアイツら2人とも、深淵から帰ってくる手段って無いだろ?どうすんだよ」
「…やはり私が行くしかないか」
「何か不都合でもあるのか?」
「私は極力淵族を殺したくはないんだ。生命の循環内に存在する魂の絶対数が減ってしまうからな」
「ふーん…」
多分硝光は理解出来ていないだろう。
「それより、早急に彼らを救助しなくては。行ってくる」
カロスは、黒い大穴に身を投じた。
同時刻、セツを探して深淵内を彷徨っているリーフェウスは、もう半分諦めかけていた。
「よく考えたら…こんな広さもよく分からない場所で人探しって難易度高くないか?しかもセツの服黒いから背景と同化して見つけづらいし…」
その時、また背後から気味の悪い声が聞こえた。
「蜉ゥ縺代※…」
今度はリーフェウスを認識しているらしく、ゆっくりではあるがリーフェウスの方へと向かってくる。
「…遅いな」
自分の元へと辿り着くのを待っていては日が暮れるので、リーフェウスはさっさと首を落とした。
「案外弱いんだな…」
燃えカスのようになって消えていく淵族を眺めていた時、リーフェウスの耳に微かではあるが誰かが交戦しているかのような音が聞こえてきた。
「あっちか」
リーフェウスは駆け足で音の鳴る方へと向かう。そこにいたのは、3体の淵族と…先程まで戦っていた相手であるセツだった。淵族は不気味な叫び声を上げながら、セツに襲いかかる。
「逞帙>…逞帙>…!逞帙>…!!」
「…何を言っているかは分からないが、私に敵意を抱いているということは分かる」
セツは瞬く間に、3体の淵族の首を素手で引きちぎった。
「えっ」
それを見たリーフェウスは、思わず声が出てしまった。
(淵族って素手で殺せるんだっけ?さっき斬った時も結構硬かったんだが…)
その時、セツがリーフェウスの方を向いて叫んだ。
「…誰かいるな?」
今にも襲ってきそうな雰囲気を感じ取って、リーフェウスはセツの前へと出ていく。
「何だ…お前か」
「…襲ってこないのか?」
「もう決着は着いた。私がお前に槍を向ける理由は無い」
セツの声には、今までのような覇気が感じられなかった。
「…アンタ、多分ラビアになんか言われたんだろ」
「何故そう思う?」
「ラビアは口が悪いからな…それに加えて、他人をすぐ小馬鹿にする癖があるんだ。俺が代わりに謝っておこう。悪かったな」
「構わない…彼の言った事は全て事実だ」
「そうか…」
「それより、お前は私を殺そうとは思わないのか?」
「殺す?」
「私はお前達と戦い、敗北した。命を奪われるのが普通ではないのか?」
「どこの世界の普通だ?少なくとも、俺はそんなことしない。そもそも…俺はアンタと戦うつもりなんてなかったしな」
「…そうだったのか。申し訳ない」
性格がどことなく似ているせいか、リーフェウスとセツは少し仲良くなりかけていた。
「…腹が減ったな」
「恐らくカロスが助けに来るだろう。それまでの辛抱だ、少年」
ここでリーフェウスはとある事を思いついた。
「…淵族って食えないかな」
「……はぁ…?」
セツはリーフェウスが淵気に当てられたせいで正気を失ったのかと思ったが、表情からしてそうではなさそうだった。
「丁度良くそこにいるし…ちょっと狩ってくる」
「馬鹿なのか?淵族は殺したら消えるんだぞ?」
「消える前に食べればいい」
「腹を下したらどうするつもりだ?私は介抱出来ないぞ」
「やってみなきゃ分からないだろう」
リーフェウスは、付近にたまたま居た淵族の腕を斬り落とし、セツの前に持ってきた。
「いや…私は遠慮しておこう」
「そうか。じゃあ俺だけでも食べてみるとしよう…」
未調理の淵族を頬張ったリーフェウス。そのお味は…
「ヴェ"ッ"…泥と炭を墨汁で和えたみたいな味がする…」
「…もう何も言うまい」
リーフェウスはなけなしの水で口をすすぐと、ふとした疑問をセツに投げかけた。
「そういえば気になっていたんだが…」
「何だ?」
「さっきの戦いの時に言ってた『彼女』ってのは何だ?」
それを聞いたセツは、何とも言えない複雑な表情になった。
「あ、いや、答えづらいなら別にいいんだ」
「…いや、話そう。会話が途切れても気まずいだけだからな。この話はカロスも知らない話だ」
セツは、『彼女』について…そして己の過去について語り始めた。
豆知識④
淵族は攻撃が「通りにくい」だけなので、理論上は素手でも殺せます。理論上は。




