第三十三話 君如きが
ちなみにセツの素性はマジで一切不明です。カロスはなんか語ってましたが、あれも肝心な部分は全て憶測でしかありません。セツって一体何なんでしょうね
「ラビア殿…本当に君1人でセツの相手を…?」
「何度も言わせるなっての…たまには働いとかないと、読者が僕のこと忘れちゃうでしょ?」
「読者?何を言っている?」
ヘラヘラと笑っているラビアの背後には、既にセツが迫ってきていた。
「私の前でよそ見をするとはな!」
槍を振り下ろそうとするセツだったが…
「あっちでやろうよ…怪我人がいるんだからさ」
ラビアの背後に『重力』の文字が浮かんだ光輪が現れ、セツを遥か遠くまで吹き飛ばした。
「じゃ、行ってくるよ」
そう言うとラビアは、奈落の空を気怠そうに翔け抜けていった。
「チッ…何だあの男は…!」
「何だとは何さ?せっかく僕が相手をしてやろうってのに…」
「貴様…!たった1人で挑んでくるとは…余程命が惜しくないらしい!」
依然として滞空しているラビアに向かって、セツは黒く光る光線を放った。それに合わせて、セツ本人もラビアに突撃していく。しかし…
「意味ないよ」
ラビアの光輪の文字が『消去』に変わり、その光線を消し去った。セツは動じずに左手の黒い爪でラビアの心臓を狙っていたが、鳩尾を蹴り飛ばされて防がれた。
「クソ…!」
「疲れんのは嫌だからさ、もう終わりでいいよね?」
光輪の文字が、今度は『消滅』に変わり、空にはラビアの光輪と同じ模様の巨大な魔法陣が現れた。
セツがそれを視認した時には、既にその魔法陣の中心から一筋の光が地面に向かって放たれており、一瞬のうちにとてつもない大爆発を起こした。それは、遠くにいるリーフェウス達でも観測できるほどの規模だった。
「冗談だろ…向こうで何が起こってんだよ?」
「ラビア殿…あまり地形を壊さないでほしいのだがな」
「この状況で気にすることそれかよ」
全員がメイの治療を受けていると、爆発が起こった方向から何かが飛んできた。飛んできた何かに1番近かったリーフェウスは、すぐに正体に気づいた。
「ラビア…!?」
「あれ、戻ってきちゃったか」
「アンタ…本当に大丈夫か?」
「ああ…」
リーフェウスはそう聞いておきながら、答えは大体分かっていた。だが…
「どうしよう…アイツ思ってたより強いんだけど!?」
それを聞いた全員は、思わず『は?』と言ってしまった。
「冗談キツいって!さっきのアレ見えただろ!?アレ受けてほぼ無傷ってどんな身体してんだよ!」
「アンタ…いかにも『任せろ』みたいな顔してたくせに…」
「流石に予想外だったんだよ!さっさと終わらせて帰るつもりだったのにさぁ!」
「てか、その刀…」
『使えばいいだろ』とヴァルザは言おうとしたようだが、それを遮ってラビアが言った。
「刀?…コレ邪魔だ!」
ラビアは刀を空中に放り投げ、グリッジのような模様と共に刀を消した。
「そろそろ休憩終わりかな…ああ面倒くさ…」
それだけ言い残し、ラビアは再びセツがいる方向へ飛んでいった。その時のリーフェウス達が抱いた感想は、不思議と同じで…
(マジで何の為にあの刀持ってたんだよ)
だった。
「…まだ生きていたか」
「あの程度でくたばる程弱くないんだよ、僕も」
再び、ラビアとセツの攻防が始まる。セツの一撃は全て例外なくラビアの急所を狙っていたが、どの一撃もラビアは紙一重で躱していく。
「一応聞いておくけどさ、今からでも降参とかする気は無い?」
「愚問だな!貴様の方こそ降参するなら今のうちだぞ!」
「古典的なセリフ吐いちゃって…」
セツの攻撃が激しさを増す中、ラビアは淡々と疑問を投げかける。
「君ってそもそも何がしたい訳?」
「私は…」
その時のセツの脳内には、また過去の記憶が蘇っていた。先程とは別の記憶ではあるが、忌まわしい記憶であることに変わりはなかった。
「私は…弱者を虐げる強者を…弱者を襲う理不尽を…この世界から抹消する!それが私の信念だ!それが私の正義だ!」
(正義に…信念か…)
「…くだらないね」
その一言がセツの逆鱗に触れる一言だということは、ラビアも分かっていた。
「…何だと?」
セツは攻撃を中断して問う。その問いに、ラビアは乾いた笑いと共に答える。
「くだらないって言ったんだよ。生憎、僕はそういう話が大嫌いでさ…君の素性なんて知らないけど、カロスの同僚ってことは君もいい歳こいた大人だろ?」
「だったら何だ!」
「正義だの何だの…カッコいいねぇ。恥ずかし気も無しによくやるよ」
セツは何も言わなかったが、激しい怒りを抱いていることは分かった。
「ほら来いよ。『正義』とか『信念』ってやつを証明しなきゃだろ?ダークヒーローさん?」
その言葉で、セツの堪忍袋の緒は切れた。かつてない速度でラビアの懐に迫ったセツは、ラビアの
の心臓に狙いを定める。だが…
「ハハッ。勝負は冷静さを欠いたら終わりだよ?」
セツの槍がラビアの心臓部に刺さる寸前で、数本の魔力の槍がセツの胴体を貫いた。
「ッ…!」
もう勝負は半分ついたようなものだが、それでもセツは膝をつかずにラビアを狙う。
「懲りないねぇ…そういうの嫌いじゃないよ。惨めでさ」
既に傷だらけのセツの身体を、更に3本の斬撃が交差するように切り裂いた。
「自惚れんなよ。いくらアイツらを圧倒できたからって、君如きが僕に敵う訳ないだろ」
ラビアは宙に浮いたまま冷たく吐き捨てると、力無く地面に落ちていくセツを眺めていた。セツは何とか片膝を立てはしたものの、それ以上身体を動かせなかった。セツの姿は、いつの間にか初めて見た時と同じ姿に戻っていた。
「さて、君はどうしようか…」
セツは俯いたまま、微動だにしなかった。ただの一言も、発することはなかった。
「…うん、やっぱ殺そう。悪く思うなよ。戦場に立つなら覚悟の上だろ?」
ラビアが刀を抜き、セツの首を落とそうとする。だがその時、ラビアは自身の背後から何かが急接近してくることに気づいた。
「ちょっと待てぇぇぇぇぇ!」
「ぐぁっ」
頭上に『瞬』の文字を浮かばせたリーフェウスが、ラビアの脇腹に飛び蹴りを入れた。
「何すんのさ!これからトドメを刺そうって時に!」
「アンタは殺す以外の対処を知らないのか!?カロスが『セツを殺さないようにラビア殿に伝えてくれ』って言ってたんだよ!」
「ああ、良かった。間に合ったか」
リーフェウスの背後の空間が裂け、カロスやその他の旅仲間達も合流する。
「マジかよ…アイツ勝ちやがった…」
「同じ人間とは思えないわ…」
「なんかもうここまで来ると気持ち悪いな」
「勝利に対する祝福よりそっちが先なの酷くないかい?」
その時、セツが口を開いた。
「何故…私を殺さない?カロス…貴様は…どういう了見だ」
「…敵対していたとはいえ、君は私の同僚だ。それ以外に理由がいるか?それと…先程は言い過ぎてしまったな。すまない」
「アンタ…謝れるのか?」
「ちょっと待てリーフェウス殿。何だその疑問は」
「いや…部下に金は返さないくせに謝れはするんだなって…」
その時、ラビアやヴァルザ達の頭に閃光が走った。
「え…君、部下に借金してんの?」
「しかも返してねえって…」
「今度姉さんに聞いてみようかしら」
「カロスさん…」
「や…やめろ…そんな目で私を見るな!」
先程までの殺伐とした雰囲気から一転して、一気に和やかな雰囲気になった一行。そこで、突然カロスが叫んだ。
「…!皆警戒しろ!周辺の時空に異常が発生している!」
「異常?どんな?」
「この辺りに…深淵への入り口が開くかもしれない!」
「まあ、じっとしてれば大丈夫だろ…」
そう言ったリーフェウスは、足元が妙に風通しが良くなっていることに気づいた。
「ん?」
足元を確認してみると、真っ暗な穴が空いていた。
「えええええええええええええ!?」
流石のリーフェウスも、取り乱して大声を上げる。周りの仲間達も同じような反応だったが、仲間が驚いている理由は他にもある。
「どうしましょう…セツさんも一緒に落ちていっちゃいましたよ!」
そう。最強クラスの敵と全員のリーダー的存在が、訳の分からない場所で2人きりになってしまったのである。
キャラクタープロフィール㉖
名前 セツ
種族 不明(性別も不明)
所属 スケイドル
好きなもの 漬物 蕎麦 食事
嫌いなもの 理不尽 強者に位置する全て カロス
異能 淵気を操る能力
作者コメント
マジでただただクソ強いキャラ。どれくらい強いかと言うと、私がセツの倒し方を思いつかなくて結局ラビアをぶつけるに至った程。元ネタは仏教の守護神である『羅刹天』。この戦いでは、我々で言うところの「ゾーン」のような状態の為テンションが高めだが、元々は物静かな性格である。実はあと1つ好きなものがあるが、それはまたいつか語ろうと思う。イメージした言葉は「夜叉」「羅刹」「断罪」




