第三十一話 茶番
もうタイミングが無さそうなのでここで言おうと思います
どっかで「魔族と神は寿命が無い」みたいな事を言ったかもしれないんですが、寿命が無いのは神だけです。魔族はめっちゃ長いですが一応寿命あります。本当はスケイドルのどっかでカロスに言わせようとしてたんですが、ねじ込む隙がありませんでした。許してください。
「…本当にやるんですか?あれ…」
朝一番、不安そうにメイは言った。
「不安なのか?」
「当たり前ですよ…私、演技なんてしたことないんですから…」
「大丈夫だメイちゃん!失敗しても誰も怒らないからさ!」
「観客は気楽で良いよなあ…演者の気持ちは分からねえか」
「その言い回しからして君結構乗り気だろ」
程なくして、カロスが襖を開けて入ってきた。
「おはよう皆の衆。早速作戦を実行に移そう」
「今日は常識的な時間に起きたのね」
「いや、起きたのはいつも通りの時間だ。少し奈落に用があって、先程現世に帰ってきたんだ」
「あなた眠くならないの?」
「もう慣れた…が、眠くはなるな」
それからリーフェウス達は、カロスが見つけた『人気のない場所』へと足を運んだ。
「森の中…ですか」
「まぁこういう場所が無難かと思ってな」
「で、具体的にはどうやりゃ良いんだ?」
「どうもなにも…君がメイを殺す気で追いかけ回したりすればいいんじゃない?」
「なるほどな」
「えっ」
メイが小さく声を上げたが、誰にも聞こえてはいなかったようだ。
「んじゃ、さっさとやるか」
「待てヴァルザ殿。折角だからこれを使え。より雰囲気が出るぞ」
カロスが次元の狭間から引っ張り出したのは、どこかで見たことのある大剣…鉄の茨が巻きつけてある大剣だった。
「おいコレディザイアの…許可取ったのか?」
「黙秘する」
「どうなっても知らねえぞ…」
その頃、奈落では…
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「やっっと終わった…」
「お疲れ様、生月」
「あ…?星導、ここに置いてあった俺の武器知らねえ?」
「え?あのトゲトゲのやつ?」
「うん」
「なんかさっき死神様が持っていったよ?『これでいいか』って」
「あの野郎…」
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「…うん、帰ったら謝るとしよう」
「それがいいだろ」
やがて、メイとヴァルザ以外は物陰に隠れた。
「よーい、始め」
いつもより気の抜けた声でカロスが言うと、その瞬間ヴァルザの目つきが豹変した。
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!」
ヴァルザは見るからに痛そうな大剣を構えてメイを追い回す。
「ひゃあぁぁぁぁぁぁ!」
当然ながら、メイも本気で逃げ回る。だが、他に何かするという訳でもなく、ただそれだけが繰り返されていた。
「…なんだい?この茶番…」
「2人とも素晴らしい演技だ…!はっきり言って予想外だが、これは嬉しい誤算だ…!」
「多分メイは演技じゃないがな…」
「仕方ないだろ…アタシでもアレ持って追いかけられたら怖えもん」
「というか、これに誘き寄せられるならセツの方にも問題あるんじゃないかしら…」
一行が物陰で口々に文句を言っていると、遠方から黒い影が接近してきた。その影は一度高く跳び上がり、手に持った槍をヴァルザに向けて勢いよく落下してくる。
「危ねえぇぇぇ!」
「うわマジで来たよ…」
「まさか本当に来るとはな」
「皆、見学は終わりだ。行くぞ」
一方、セツはヴァルザに襲いかかるより先に、メイと何かを話していた。
「お前は…あの時の娘か」
「え…あ、はい」
メイが驚きすぎて会話になっていなかったが。
「また会ったな、セツ」
カロスの声が耳に入るや否や、セツの目つきが変わった。
「貴様…」
表情にはあまり出ていなかったが、その声には激しい苛立ちが混じっていた。そしてセツは、この場にいる面々を見て、状況を察した。
「なるほどな…どういうつもりかは知らないが、私を嵌めたという訳か」
「セツ、俺達はアンタと戦いたい訳じゃ…」
リーフェウスのその言葉を、カロスが遮る。
「待ってくれリーフェウス殿。私はセツに言いたいことがある」
カロスは一息ついてから喋りだす。
「セツ、君は何の為に戦っているんだ?」
「…何故そんな事を聞く?」
「質問を質問で返すな。答えてくれ」
「……ならば今一度宣言しよう。私は…善良な弱者を守るために戦っている」
それを聞いたリーフェウス達は、言葉に出来ないような違和感を覚えた。だが、その違和感はカロスが言葉にしてくれた。カロスは、少し嘲りを混ぜたような声で言う。
「善良な弱者を守るためだと?世間に流れている君の噂を知らないのか?」
「…」
「『悪人も善人も関係無く襲いかかり、悪人なら死に、善人なら死にはしなくとも重症を負わされる』だ。何故、善人にも襲いかかる?」
セツは依然として閉口していた。
「もう何が善で何が悪かすらもよく分からなくなっているんじゃないか?笑えるな…よくもまあ私を半端者だと言えたものだ」
次から次へと嘲るような言葉を発するカロスを見て、リーフェウス達は段々と不安になってきた。
「おい…何でアイツはセツを怒らせるようなことを…」
「多分、前に言われた事が相当イラついたんじゃない?カロスだって元は人間だからさ」
だが、そこまで言われてセツが黙っているはずもない。
「何を偉そうに語っている?独り善がりの正義を振りかざして罪を贖った気でいる偽善者如きが…!」
「正義など…初めは大半が独り善がりだろう?それが結果的に他人に望まれるだけだ。スケイドルに伝わる噂によれば…君の正義は誰にも望まれなかったようだがな」
最後のその一言が、セツの逆鱗に触れたようだった。
「遺言はそれでいいんだな…!」
その言葉とほぼ同じ速さで、セツが槍をカロスに向けて突進してくる。それは、その場の誰1人として目で追えないほどの速さだった。だが、カロスもそれを読んでいたようで、すぐさま空間を引き裂いてリーフェウス達の元は帰ってきた。
「やってくれたなアンタ…」
「すまない…少し白熱し過ぎてしまった」
「ねぇ、セツはどこに行ったの?」
「手筈通り、先程奈落に送っておいた。私達も行くぞ」
リーフェウス達はカロスの作った裂け目を通って、奈落へと向かった。
最近知ったんですが、ラビアが真面目に魔力を使う時に出る背後の輪っかって「ヘイロー」って言うらしいですね
作中では混乱を防ぐ為にこれからも「法輪」か「光輪」で通します




