第二十三話 回生へ導く星
ちなみに、オフの時のカロス君は威厳もクソもない姿を晒します。でも真面目な時はしっかりしてます。ダジャレ好きですが
ラビアとリーフェウスは、切れた食料の買い出しの為に付近の街に出かけた。やがて2人は無事に買い出しを終え、帰路についた。
「だからポン酢と味ぽんは別物なんだってば」
「意味が分からない…硝光やヴァルザとかも皆味ぽんのことはポン酢って呼んでるじゃないか」
「それはそうなんだけどさ…」
ここで、2人の耳につい最近聞いた声が聞こえてきた。
「分かるぞ…私や私の部下もよく同じことを言っている」
ラビアとリーフェウスの背後には、かつて敵として戦った奈落の王の姿があった。
「うわビックリした!何の用さ」
「ごきげんよう2人共。息災であったか」
「ああ、アンタも元気そうで何よりだ」
軽く挨拶を交わした後、カロスは要件を伝える。
「今回はリーフェウス殿に用があって来た。少し来てもらえるか」
「俺は構わない」
「んじゃ僕は帰ってるよ。他の皆にも伝えとく」
そしてリーフェウスとカロスは、人気のない場所へと移動した。
「それで、用件はなんだ?」
「この前、部下の蘇生を行うと言ったのを覚えているだろうか?」
「ああ」
「私の部下の1人…ディザイアの魂の場所が分かった。これから蘇生に向かう」
「そうか。で、何故俺に声をかけた?」
「場所の性質上、最も汎用性の高い能力を持つ君を選んだんだ」
どうやらカロスが行こうとしている場所は、少々特殊な場所のようだった。
「場所というのは?」
「私が個人的に研究している場所でもある…『深淵』という場所だ」
「深淵?奈落の仲間みたいなものか?」
「まぁそうだ。説明はするが、長くなる。よく聞いておいてくれ」
リーフェウスは耳を澄ます。
「深淵というのは、言うなれば『魂の終着点』だ。現世の生き物は、死して奈落に落ち、半魔族として生きることとなる」
「ああ。そこまでは知ってる」
「そして、奈落に住んでいる純魔族と半魔族は、死ぬと更に深い場所へと落ちる…そこが深淵だ」
「へぇ」
「そして深淵には、固有の生命体がいる」
「そいつらにも、名前があるのか?」
「私は『淵族』と呼んでいる。外見は黒いインクのようなもので出来た様々な形の生き物だ。それよりも、ここからが重要なんだ」
「ほう」
「深淵には常に『淵気』という気体が充満している。これはかなり危険な気体で、吸い過ぎれば誰だろうが無条件で淵族の仲間入りだ」
「怖いなそれ…俺大丈夫なのか?」
「幸い、魔力が扱えるのなら影響は少ない。ゼロではないがな」
「へぇ…大体分かったが、結局何故俺を連れて行くんだ?」
「深淵は何が起こるか分からない。入る度に構造も変わる上、その他のアクシデントも多々起こり得る」
「それで俺って訳か」
「ああ。説明でかなり時間を取ってしまったな。質問がなければ出発しよう」
「ちょっと待った。深淵とやらにはどこから入るんだ?」
「基本的には奈落のどこかにランダムで入り口が開く。ごく稀に、現世に開くこともあるが…まぁ、今回の入り口は見つけてある」
「なるほど、もう質問はない」
『出発しよう』と、リーフェウスが言おうとした時、先程とは別の聞き慣れた声が聞こえてきた。
「おい待てよ!話は聞かせてもらったぜ!渡したい物があるんだ!」
その声の主は、ヴァルザだった。
「ヴァルザ?よくここまで走って来たな…」
「君も元気そうでなによりだ。渡したい物というのは?」
「お前ら、ディザイアを生き返らせに行くんだろ?なら、コレを渡してくれねえか?」
ヴァルザが取り出したのは、ボロボロの古びた手拭いだった。
「何だこれ」
「この前話したろ?ディザイアとの戦いの後に拾ったんだよ」
「ああ…アレか」
「俺はもうアイツのことは憎んじゃいねえからよ、コレ渡してやってくれ。きっと…大事な物だと思うんだ」
「分かった。責任持って渡そう」
「リーフェウス殿、そろそろ出発しよう」
「ああ。ヴァルザ、行ってくるぞ」
「おう、行ってこい」
リーフェウスとカロスは、カロスの作り出した空間の裂け目に足を踏み入れた。裂け目から出ると、目の前には真っ黒な空洞があった。リーフェウスがそれを見たのは初めてだが、不思議とそれが深淵の入り口であることが分かった。
「ここだ。入るぞ」
(深淵…一体どんな場所なんだ…?)
入り口を潜ると、極めて暗い空間が広がっていた。すぐ隣にいるカロスの顔もうっすらとしか見えないほどに暗い空間だった。
「寒いな…なんとなく予想通りだが」
「いや、それは私が近くにいるからだ。いつ敵が襲って来てもおかしくない故、常に微弱な魔力を放出しているんだ」
「冷房みたいだな」
「夏は部下に重宝される」
「冷房じゃないか」
死の神を冷房呼ばわり出来るほどの胆力は前職で培ったものだろうか。
「なぁ、ディザイアの魂ってのはどこにあるんだ?」
「さっきも言ったが、場所は分かっている。淵族の相手なんてしていられないからな。さっさと行こう」
カロスは再び裂け目を作り出した。
「入れ、この先にディザイアの魂があるはずだ」
リーフェウスとカロスは再び裂け目をくぐり、変わらない光景の方へ足を踏み出した。
「本当にこんな所にあるのか?」
「正確には『いる』だな。深淵に落ちた以上、誰であろうが淵族と成り果てる…」
その言葉を聞いたリーフェウスは、自分がどのような場所にいるのかを改めて自覚した。
数分ほど深淵を歩き回り、カロスは突然足を止めた。
「あそこだ」
カロスが指差した先には、全身から棘が生えた人型の黒いインクのような生き物が呆然と立っていた。
「なんというか…分かりやすいな」
「ああいうのは稀だ。大概は他と見分けがつかない」
そう言うとカロスは鎌を握りしめ、刃と柄の接着点でディザイア(?)の後頭部を思いっきり殴り飛ばした。当然のことながら、ディザイア(?)は気絶したかのように倒れ込む。
「何してんだアンタ!?」
流石のリーフェウスも若干驚いたようだ。
「この方がやりやすいんだ。あまり長居できる場所じゃない。手早く終わらせよう」
カロスは、ディザイア(?)に向けて左手をかざし、何かの呪文のようなものを唱えている。
「…よし、あとは時間の問題だ」
「結局一度も淵族とは戦わなかったな」
「その方がいい…奴らにまともなダメージを与えられるのは、私と何かの光くらいだ」
「なんでアンタは淵族に攻撃を通せるんだ?」
「私は魂に直接干渉出来るのでな。どれだけ防御が硬かろうが関係ない」
(俺達はこんな奴と戦ってたんだな…)
リーフェウスがカロスの強さを再認識したところで、カロスは少し声のトーンを落としてこう言った。
「…少し、無駄話をしてもいいか?」
「ああ」
「君は、『失われるべき命なんて無い』と言う言葉に賛同するか?」
「…分からないな。俺は実質まだ3年しか生きてないのと同じだ。そういった話はまだ早い」
「それもそうだな…私は、この台詞を聞くたびに考えることがあるんだ」
「何を?」
「私は生死を司る神…言い換えれば、命を司る神だ。そんな私だからこそ言える…『失われるべき命はある』と」
「ほう」
「この台詞はよく、小説などの創作物で見られるが…そんなもの綺麗事に過ぎない」
「私はこの2500年間、様々な人間の生い立ちを、魂を通して垣間見て来た。その中には、吐き気を催すほどの行いをした者もいた…きっと、その台詞を初めに言った人間は、運が良かったのだ」
「運?」
「運良く…人間の醜い部分を見ずに生きることが出来たのだろう、とな」
「…まぁ同感だが、アンタは何が言いたい?」
「私は、ディザイアの過去を知っている。本人のことも考えて、ここでは言わないが…決して愉快な話ではない」
「ああ…そうだろうな」
「だが…ディザイアは一度たりとて死を望んだことはなかった。私は、ディザイアのような辛い過去を持つ者に出会うのは初めてじゃなかった。だが、他の者は全て、死を望んでいた」
「…」
「別に他人の願望を否定するつもりはない。寧ろ、それが正しい反応だ。どんな善行を積もうが、どんなに心が綺麗であろうが、現実はかくも…残酷なのだから」
リーフェウスは、カロスと自分の過去を重ね合わせていた。他人の命を奪うことでしか、生きることの出来なかったあの頃…決して清算しようのない、罪を犯していた頃の記憶である。
「私は…ディザイアにある種の希望を抱いていたのかもしれない。あのような過去がありながら、魂の理に反してまで生に執着する者を、私は見たことがなかったのだ。過去の出来事で命の重さが決まる訳では断じてない…だが少なくとも、ディザイア…君の命は…ここで失われるべきではない…!」
その時、リーフェウスの目の前に光が放たれ、辺り一帯を覆った。
「…あ、収まった」
「ご苦労だったなリーフェウス殿。成功だ」
リーフェウスが目を開けると、そこには記憶の中の通りの、目つきの悪い少年と青年の間くらいの男がいた。
「あ…?ここは…俺は確か…」
「久しぶりだな、ディザイア」
「主…そうか…アンタが…」
リーフェウスは、どこか違和感を覚えていた。
「…?なんか雰囲気変わったか?」
「あ?俺はなんも変わってねぇよ」
「嘘つけ、前に会った時は問答無用で襲って来ただろ」
「ああ…俺だって学習するんだよ。死ぬ間際に考えてたんだ…敵を、人間を、この世界までもを憎み抜いた先に、何が残ったんだってな」
「ディザイア…」
「結局何も残りゃしなかった…他人を拒んで、何かに憎悪をぶつけるだけじゃ、現状維持が関の山って事だけは分かったがな」
「2人とも、話は一旦辞めにしてくれ。まずは外に出よう」
こうして無事にディザイアの蘇生を終え、3人は奈落に帰って来た。
「あ、そうだ。アンタに渡す物があるんだ」
「あ?」
リーフェウスがポケットから取り出したのは、ヴァルザから預かった手拭いだった。
「それ…!」
「よくは分からないが…大切な物なんだろう?」
「…フン。思いもよらないところで借りが出来たな。…礼を言うぜ」
そう言ったディザイアの表情は、今まで見たことのないほどに優しく、何かを懐かしんでいるような表情だった。
「ん?そういえば、カロスはどこにいった?」
「知らねぇよ。主の行動は予想しにくいからな」
すると、2人の背後に裂け目が現れ、その中からカロスが出て来た。
「アンタ人の背後取るの好きだな」
「ディザイア、少し来てくれ。リーフェウス殿は…どちらでも構わないが」
「暇だし、俺も行くとしよう」
「今度は何だよ…」
3人は、先日の戦いの舞台である屋敷へと訪れた。
「もう直ったのかこの屋敷。早いな」
「ああ…頑張ったからな」
(8割くらいベルがやったんだがな。まあ伏せておくとするか…)
「どうせ8割くらいベルがやったんだろ?アンタはこういう力仕事やったことねぇじゃねぇか」
「ギクッ」
「『ギクッ』とか言うな。キャラがブレるだろう」
「で、何の用だ?サプライズでもあるってか?」
「ああそうだ。少し待っていろ」
カロスは、客間のような部屋のドアを開けて中に入った…かと思えば、部屋の中からドタドタと慌てたような音が聞こえてきて、その後リーフェウスの頭上から、鼻血を出したカロスが降ってきた。
「何してんだアンタ」
「き…着替え中だった…」
「は?着替え中?灰縁とかが中にいんのか?」
「もう、終わっただろうか?終わったら、ノックで教えてくれ」
すぐに、ドアが軽く2回叩かれた。
「よし…少しハプニングはあったが、順調に事が進んだ。出てきてくれ」
そのドアの向こうから出てきたのは、リーフェウスとディザイアの予想を大きく裏切る人物だった。
「は…?嘘…だろ?」
「こちらは…ディザイアの幼馴染、星導殿だ」
「どうも!生月の幼馴染の星導でーす!」
リーフェウスとディザイアは、数秒ほど固まっていたが、すぐにディザイアが口を開いた。
「おい主!どういうことだよ!?だって星導はあの日…俺が…」
「目をよく見ろ、ディザイア」
ディザイアが星導の目をよく見てみると、左目が記憶の中のものより黒かった。片目が人間と比べて黒目の割合が大きいというのは、元人間の魔族、つまりは『半魔族』の特徴である。
「そういうことかよ…主が何の神かをすっかり忘れてたぜ」
「そうだよ生月!死神様は忙しいのに、わざわざ私をこの広い奈落の中から探し出してくれたんだよ!」
「流石に骨が折れた…2000年ほどもかかってしまった」
「どうやったんだ?カロス」
「簡単な話だ。私は、奈落に在る魂の位置を全て知覚している。だが、位置を知れるだけで、そこに向かうのは自分の足を使わなければいけない…だから、ここまで時間がかかってしまったのだ」
「生月大きくなったねぇ〜昔は私の方が大きかったのに、いつの間にか同じくらいになっちゃった」
「ああ…まともな飯食わせてもらってるからな」
ディザイアの目には、少量ではあるが涙が浮かんでいた。
「ディザイア…私は1つ問題に気づいてしまった」
「なんだよ?解決出来るなら俺がやってやるぜ。その…ありがとうな」
「いや、その…部屋が足りないんだ」
全員の頭の中に、『?』のマークが浮かんだ。
「今よく考えてみたら…星導殿の部屋が足りないのだ。灰縁と相部屋にしてもいいのだが…」
「やめとけ。灰縁だけはやめとけ。あの地獄みてぇな飯食わされる上に本人の寝相もやべぇんだぞ」
「逆にちょっと気になるなその飯」
「リーフェウス殿…君もヴェンジェンスに入りたいと言うのなら、止めはしないが」
「ああ分かった分かった。辞めとくよ…ん?ってことはつまり…」
「ああ。消去法で、ディザイアと相部屋しかない」
星導とディザイアの脳内に稲妻が走った。
「わ…私は、全然構わない…よ?」
「ああ…俺も…構わねぇけど」
「よし、決まりだな。寝具等は揃えてあるから、好きな使ってくれて構わない」
(カロス…さっきのハプニングのことと言い、多分異性と関わったこととかないんだろうな。俺もないけど)
リーフェウスは1人小さく頷いていた。ふと目の前を見ると、星導が立っていた。
「あなたも生月を助けてくれたの?」
「俺はほとんど何もしてない。ただついていっただけだ」
「でも、ついていってくれたんだ…!よかったねぇ生月…!」
感慨深そうに言う星導の横で、ディザイアの過去を知らないリーフェウスは首を傾げていた。
「あ…?てか『寝具等は揃えた』って、誰の金だよ?」
「ヒュッ…」
カロスは突然、変な音を立てて息を呑んだ。
「まさかお前また…」
ディザイアの手には、お馴染みの大剣が握られている。
「ファ…ファァァァァァァァッ!」
カロスは聞くに耐えないほどの情け無い声を上げて屋敷中を逃げ回る。そしてそれをディザイアが追う。
「お前また俺の金使ったのかよ!いい加減返しやがれクソ上司がぁぁぁぁぁぁぁ!」
「来月!来月まで待ってくれ!いや!待ってください!」
「それを2000年続けてんだろうがお前はぁぁぁぁぁぁぁ!」
その光景を見ながら、星導は微笑んでこう言った。
「…友達沢山出来てよかったね!生月!」
リーフェウスは、既に帰っていた。
キャラクタープロフィール⑱
名前 生月
種族 魔族(半分人間)
所属 ヴェンジェンス
好きなもの 星導 動物 子供
嫌いなもの アステール
異能 鉄の棘や茨を操る
棘や茨が刺さった生き物の力を奪う
作者コメント
生き返り記念でもう一度書きます。『ディザイア』ではなく『生月』としてのプロフィールに近いです。反魂になった時の力が残っています。原理としては、反魂というのはよくある『暴走状態』などではなく、あくまで進化の一端なので、姿は戻っても得た力はそのままなのです。あと星導が思いの外私好みのキャラになった。すこすこ。イメージした言葉は「月」「回生」




