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星命  作者: Isel


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第?話 失望の彼岸帝

ちなみにどうでもいいですが、本編のカロス君の年齢は26歳(+2500歳)です。

リーフェウス達の戦いからおよそ2500年程前、

カロスがまだ人間の子供だった頃、カロスは元傭兵の父と一般人の母と共に旅をして暮らしていた。決して裕福ではなかったが、裕福でないなりに幸せを感じられていた。

だが、カロスが16歳の時、カロスに『次元移動』の異能が発現した時、その幸せは終わりを告げた。

「こりゃあ使えるぜ…!」

カロスの父親が、その異能を利用して、金儲けに使おうとしだしたのだ。だが…

「駄目よ!息子をお金儲けに使うなんてどうかしてるわ!」

母親はそれに反対し、カロスを連れて逃げ出した。

父親は、賊を雇ってまでカロスを捕えようと追った。母親は、自分の出来る全てを尽くしてカロスを匿った。だが、金も人脈もほとんどない母親に出来ることなど、たかが知れており、とうとう父親とその3人の仲間に捕まってしまった。

「貴方達おかしいわよ!子供を見世物にしてお金を稼ごうなんて!」

「お前の方こそおかしいぜぇ?あんな奴が身近にいながら利用しないなんてよ?」

「おい依頼人。肝心のガキが見当たらねえぞ」

「異能を使って隠れてるのかもしれねぇ。辺りを見張ってろ」

実際、カロスは自身の異能を使い、別の次元に身を隠していた。その気になれば、母親と一緒に隠れることも出来た。だが、母親が自らを囮にし、カロスを逃がそうとしたのだ。

「チッ…マジで見つからねぇな…どうすんだ?依頼人」

「俺に良い案がある…おいカロス!見てんだろ?早く出てこい!じゃないとコイツぶっ殺すぞ!」

「駄目よカロス!出てきては駄目!私のことは忘れて!逃げて!」

「うるせぇ!マジで殺してやろうか!」

「もう良いんじゃねぇか?どっちみちガキの扱いは変わらねぇだろ?」

「まぁそうだな…そういう訳だ。じゃあな」

当時のカロスは武器など持っておらず、ましてや戦闘の経験すらなかった為、自分の母親が、自分を愛し、自分が愛した母親が、けたたましい断末魔をあげながら殺される様を、ただ1人安全な別次元から見ていることしか出来なかった。その時のカロスの中に湧き上がったのは、純粋かつ峻烈な怒りと失望であった。

「ん…?そこに置いてあったナイフどこやった?」

「俺は知らねえっすよ」

その時、2人の賊とカロスの父親の後方から短い悲鳴が聞こえてきた。3人が振り返ると、賊の1人が喉を掻き切られて死んでいた。

「あのガキか…!」

リーダー格の男はサーベルをカロスに向かって振り下ろすも、そこにカロスの姿はなかった。

そして、リーダーが奇襲を警戒するより先に、もう1人の仲間も同様に喉を掻き切られて死んだ。

「クソ…!」

その苛立ちの混じった台詞が、リーダー格の男の遺言となった。本人が気づいていなかっただけで、カロスには類稀なる戦闘の才能があった。そして、残るは母を殺し、自分を売ろうとした父親だけである。

「お…おい…やめろ…俺は父親だぞ…」

「だから何だ?我が子を見世物にして金を稼ごうとした者がどの面下げて父親を名乗っている?」

カロスの周囲には冷気が漂い、その手にはいつの間にか大きな鎌が握られていた。

「テメェ!育ててやった恩を忘れやがって!」

逆上して剣を抜いた父親の首を、カロスはその鎌で切り落とした。こうして、確かにカロスの仇討ちは完了した。だが、その心には一生消えない傷が残った。

それからカロスは、目的も無いまま一人旅を始めた。その旅の中には、当然幾多の戦いもあり、戦った相手から奪った金品で生活するようになっていた。カロスは、それが良い行いだとは断じて思っていなかった。しかし、そうしなければ死ぬより他に道はなかったのである。戦いを続けるうちに、鎌を操り、敵の首を刎ねて殺すという戦い方から、カロスはいつしか『死神』の通り名で呼ばれるようになった。父に裏切られ、母を失い、自らの手を血で染めてまで生きることを選んだ彼は、皮肉にも死の権化として扱われていた。

そうして血で血を洗いながら4年ほど生きた頃、カロスに転機が訪れた。いつものように、自分と同じような荒くれ者を狩って、明日へと命を繋ごうとしていた時のことである。

「何…?」

今まで通りの相手なら、カロスの別次元からの一撃、二撃で終わらせられるはずだった。しかし、その日の相手は、カロスにとっては自分の奇襲を防いだ初めての人間だった。

「いきなり何すんだよ…ん?お前…もしかして『死神』か?」

「…だったら何だ」

「俺はお前を探してたんだ。単刀直入に言う。お前、ウチに来ないか?」

「ウチとは?」

「俺はとある移動式なんでも屋の頭なんだ。皆からは『団長』って呼ばれてるけどな。近頃、デカい鎌を持った腕の立つ奴がいるって噂になってるから、スカウトしようと思ってたんだ」

(移動式なんでも屋ってなんだ。定住しろ)

と、カロスは強く思ったが口にはしなかった。

「で、答えを聞きたいんだが…」

カロスは悩んでいた。この誘いに乗れば、自分は真っ当な生き方が出来る。もう望まぬ殺生をせずとも、生きていける。だが、また裏切られたら?こいつも何かに自分を利用しようとしているんだとしたら?そもそも散々手を血で汚した自分に、真っ当に生きる資格などあるのか?カロスの脳内には、そんな考えが巡っていた。

「お前の考えてることは大体分かるぜ。大方、自分の今までの行いを考えたら、そんな話には乗れない…みたいな感じだろ?」

「…ああ」

「確かにお前のやったことは、決して善行じゃない。でも、相手も同じような奴らだったんだろ?そうじゃなきゃ、俺らみたいな奴らの間で『死神』の噂が流れるはずがねぇ」

「…」

「んで、お前は今までの行いを悔いていて、出来ることなら真っ当に生きたいって思ってんだろ?それで十分じゃねぇか。どんな過去を持ってようが、『今』改心して善人になろうとしてんだったら、真っ当に生きるくらいバチは当たらないだろ?」

「…そうか?」

「ああ。少なくとも、俺はそう考えてる。で、答えは?」

カロスの答えは、決まっていた。

「フッ、私の力を持て余さない場所だといいがな」

「歓迎するぜ」

こうしてカロスは、団長の言う『移動式のなんでも屋』に加入した。団長は『移動式の〜』と言ったが、早い話リーフェウスの属していた『傭兵団』と大差はない。実際、世間でもそう呼ばれていた。

そこから、カロスは様々な任務に赴いた。それは、迷子の犬を探すような、簡単な任務もあれば、悪徳組織の調査や壊滅などの大規模な任務もあった。決して楽な日々ではなかったが、同時に退屈でもない、充実した日々を送っていた。

加入してから1年ほど経ったある日、カロスは団長と遺跡の調査に向かった。その道中通った川辺で、カロスはあるものを見つけた。

「何だこれは」

それは、人型の機械だった。苔や錆が付いてはいるが、捨てられてからさほど時間は経っていないようだった。

「カロス、どうした?」

「団長殿、粗大ゴミが放棄してあるぞ」

「粗大ゴミて」

その時だった。

「誰が粗大ゴミだぁ!」

苔と錆が付いた身体が、地面から這い出てきた。

「ん?あれ?どこだここ?誰だよお前ら?」

「「こっちの台詞だ」」

「あー…思い出した。俺捨てられたんだった」

「何故」

「捨てるにしたってこんな雑な捨て方あるかよ」

「なんか…火力調節がどうのこうのって…あんま覚えてねーや」

「まぁ良い。行くところがないならウチに来ないか?」

「勧誘癖は相変わらずだな」

「良いぜ」

「軽いな」

「身体は重いぜ?」

「スクラップにしてやろうか」

こうして出会ったスクラップ予備軍が、後のベルである。ベルは自分を見つけたカロスを慕い、常に共に行動していた。一方カロスは単独行動派の為、内心鬱陶しく思っていた。

それからまた1年程経ったある日、カロスと数人の仲間は未開拓で国名すら無い場所、俗称では『郊外』と呼ばれている場所にて、奴隷を解放する任務に赴いた。

戦闘には当然なったが、難なく全員倒し、無事奴隷を解放した。

「ありがとう、ございます…お姉さん」

「私は男だ」

「えっ!…すみませんでした…髪が長いから、てっきり女かと…」

そう言うと奴隷の1人だった10歳くらいの少年は、どこかへと走り去っていった。

「…?何故逃げる?」

「だってカロスさん目つき怖えっすもん。その武器も、初めて見た時すげぇビビりましたよ」

「氷漬けの活け造りにしてやろうか?」

「そういうところっすよ!」

全員の間に笑いが走った。カロスも、例に漏れず小さく笑っていた。だが、この時のカロスは、この日の出来事が後に悲劇を起こす事を知らなかった。

奴隷を解放した日から4年程経ったある日、カロスは単独で近頃出没するという通り魔の退治に向かった。

「全く…君のような子供が悪事に手を染めるとは…世も末だな」

その時、カロスは通り魔の顔を初めて直視した。

(あの顔…どこかで見た気が…)

そして、突然通り魔が叫んだ。

「俺はアンタを覚えてるぜ…その長え髪…どういう運命の巡り合わせだろうな?」

「…まさか…」

カロスの予想は、当たっていた。

「そうさ…俺はあの時お前らに助けられた…奴隷のうちの1人だ」

「理解に苦しむな…被害に遭った人間の気持ちは、奴隷だった君にならよく分かるはずだろう?」

その時、通り魔は血相を変えて叫んだ。

「俺だってやりたくてやってんじゃねぇんだよ!こうしてねぇと生きていけねぇんだよ!」

「…!」

カロスは、かつての自分を思い出した。

「他の奴隷がどうなったか知ってるか?良くて俺みてえな通り魔、物乞い、檻の中、悪けりゃその辺で野垂れ死にだ!」

カロスは、何も言えなかった。あの日団長に出会った時、カロスが加入を渋った理由が、その時本人にもようやくわかった。真っ当に生きることに対する負い目ではなく、同じ穴のムジナを咎めることに対する抵抗感…それが理由だったのだ。

「確かにお前らは俺達を助けたさ…だが『助けただけ』だ!その後のことには干渉しなかった!檻の中の景色と、暴力や飢えの恐怖しか知らねぇ奴らが!いきなり外に放たれて自由を与えられたところで何が出来る!?」

カロスは、依然として閉口していた。

「最後にこれだけは教えといてやるよ…」


「中途半端な善意なんて…悪意と同じだ」


その言葉を最後に、通り魔は持っていた拳銃で脳を撃って自殺した。カロスは、一歩も動かずに呆然としていた。

次第に、雨が降ってきた。

段々と広がっていく血溜まりを、カロスはただ見ていた。

数日ほど辺りを彷徨い、カロスは拠点に戻った。

「カロス!しばらく帰らなかったから心配したぜ!」

「すまない団長殿…少し疲れているんだ、寝かせてくれ」

「あ、ああ…そうか」

翌朝、拠点にカロスの姿は無かった。ベルの姿も、消えていた。

団長の枕元には、ただ一言の書き置きがあった。

『許してくれ』

「馬鹿野郎が…」

そう呟いた団長の頬は、何故か光って見えた。

なんでも屋を抜け、放浪の身となったカロスは、勝手についてきたベルと共に当てもなく彷徨っていた。カロスの中にはただ同じ言葉が何度も何度も響いていた。

(中途半端な善意なんて、悪意と同じだ)

「結局…私も彼等と同じだったんだ。偶然手を差し伸べられたからといって…自分に善人になる資格があると勘違いしていたんだ…実に…愚かしい…」

カロスが失望した相手が、人間であることに間違いはない。だが、それ以上にカロスは己の愚かしさに失望していた。

「カロス…」

ベルも何があったかは知らないが、自然と口を噤んだ。

その時だった。

「カロス、前に誰か立ってるぜ」

「君は…」

カロスの人間としての記憶は、そこで終わっている。

キャラクタープロフィール⑰

名前 団長殿(本名は不明)

種族 人間

所属 移動式なんでも屋

好きなもの 人助け 酒 肉

嫌いなもの 野菜 猫(アレルギーの為)

異能 なし

作者コメント

星導に次ぐ善人。職業上人の命を奪うこともあるが、それを良くは思っていない。なんで『星導に次ぐ』善人なのかと言うと、多分星導は仕事どころか『やらなきゃ死ぬ』って状況でも人殺さないからです。

イメージした言葉は「強壮」

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