第二話 仲間集め
リーフェウスとラビアが「全てを知る者」を探す旅を始めてから数日が経過した。だが、考えてみれば当然でもあるが進捗はゼロだった。
「この数日間色々と聞き込みとかしてみたけどなんの収穫も無いな」
「まぁ一朝一夕で見つかるような存在じゃないからね」
少ない所持金でも拠点にできるほどの格安の宿の一室で2人は会話していた。先程リーフェウスは「収穫が無い」と言っていたが、リーフェウス自身の変化はあったようで、ラビアはそれに気づいているようだ。
「…なんか初めて会った時より明るくなったかい?君」
そう。リーフェウスがなんか明るくなったのである。だが今この状況においてはなんのプラスでもない。
「それがなんだって言うんだ…というかそもそも一朝一夕じゃ見つからない存在を2人で探そうってのがまず難しくないか?」
「一理あるね。仲間でも探すかい?」
「賛成だけどそんな都合よく見つかるもんか?」
「君って僕と出会う前はどこかの傭兵団にいたんだろ?とりあえずそいつらに聞いてみればいいんじゃない?」
「そうするか。あいつらの拠点はここから遠くない。さっさと行こう」
こうして、2人は仲間集めの為に傭兵団の拠点へと向かった。
「おおリーフェウス!久しぶりだな!」
しばらく歩いて、傭兵団の拠点に着いた瞬間、明るく話しかけてきた男性がいた。
「団長、久しぶりだな。他の団員はどうした?」
「任務で出払ってる。お前の旅は順調か?」
「正直そんなに順調じゃないな。そうだ、俺達は訳あって旅の仲間を探しているんだが…誰か良さげな知り合いでもいないか?」
「知り合いはいねぇが…こんな噂なら聞いたことがあるな。話すと長えから要点だけ紙にまとめて渡してやるよ。ちょっと待ってな」
そう言って団長は奥の部屋へと入っていった。
「人柄が良さそうだね」
「ああ。行くところに困ってた俺を拾ってくれた恩人だ。感謝してもしきれない。」
「へぇ…」
と、その時団長が出てきた。
「待たせたな!ほらよ。こいつがその特徴と噂だ」
「どれどれ…」
・銀髪
・背が高い
・肌が日に焼けている
・倒した魔物の魂を喰うという噂がある
「…肌の色まで書いてくれたんだな」
「おう!俺の知ってる全ての情報を書き記したぜ!」
「団長、ありがとう。またいつかここに来るよ」
「ああ!お前の旅が上手くいくことを祈ってるぜ!」
そしてリーフェウス達は、傭兵団の拠点を離れて、噂の人間を探すことにした。
1時間ほど歩き回っていると、ついにそれらしい姿を見つけた。髪色、背丈、肌の色。全てがメモの通りである。
「絶対あいつだ…」
「絶対あいつだね…」
ほぼ同時に2人が呟き、そしてリーフェウスはその人物に声をかけた。
「なあ、ちょっといいか?」
「んあ?」
「話があるんだが…」
「ん、ちょっと待ってろ」
ゆっくりと振り向いたその人間は、恐らく食事中だったのだろう。骨が数本散らばっている。頬張っていた食べ物を飲み込んでから改めて口を開いた。
「食った食った…で、何の用だ?」
「俺はリーフェウス。訳あって旅をしている者だ。よろしく」
「僕はラビア。こいつの旅に同行させてもらってるよ」
「俺はヴァルザだ。よろしくな。その『訳』っての気になるな…教えてくれねえか?」
リーフェウスは旅を始めた理由と、ヴァルザを尋ねた経緯を説明した。
「へぇぇ、それで旅してんのか。で、俺に仲間になってほしいと…」
「なってくれたら助かるが、無理強いをするつもりはない」
「いや、別に構わねえぜ」
リーフェウスは、交渉が案外あっさり終わったので少し驚いた。
「ただ、俺の方にも目的ってもんがあるんだ。それに付き合ってくれることが条件だな」
「構わない。ヴァルザ、これからよろしく頼む」
「ああ、よろしくな」
その時、完全に蚊帳の外となっていたラビアが1つ質問した。
「君の目的って?まさか君も記憶関連のことじゃないだろうね?」
少し笑いを含ませながらラビアが言うと、少しの間の後、ヴァルザが答えた。
「…俺は、故郷を滅ぼした奴に復讐してえんだ」
「故郷?君どこの出身なのさ?」
「『ボルカニア』って国だ。聞いたことくらいあんだろ?」
「ないんだなこれが」
間髪入れずにリーフェウスがそう言った。
「君…国名すら知らないほどの記憶喪失なのかい?ならそれも僕が簡単にだけど教えるよ。」
「助かる」
「まず今僕たちがいる国が比較的暖かい気候の『フィステリア』そしてヴァルザの出身でもあって、火山と砂漠が広がる大きめの国、『ボルカニア』あとは、旧世界の文化が強く残ってる『スケイドル』と『クロノケージ』、『聖教会』っていう教団の本部がある天空の国『カレアス』ざっとこんなものかな」
「旧世界ってのは?」
「それは…」
若干面倒そうな表情でラビアは視線をヴァルザに向けた。まるで「疲れたから君が説明してくれ」と言わんばかりの視線である。
「ハァ…旧世界ってのはな、この世界が作られる前に存在してたっつう世界のことだ。この世界よりもずっと進んだ技術を持ってたらしいんだが、ある日神同士の戦いに巻き込まれて、文明もそこに住んでた生き物も全部滅びたって話だ」
「補足すると、その戦いに勝った神が最後の力を振り絞って作り上げたのがこの世界だ。ちなみにその時に三神柱も作られたんだよ」
「なるほど、大体わかった」
「その故郷が滅びた時って大体何年前?」
「4、5年くらい前だな。その時の俺にはまだ異能が目覚めてなかったから、俺はただの無力なガキでしかなかった…だがな、今は違え。故郷の村を滅ぼした奴をこの手で殺す。それが俺の目的だ」
ラビアとリーフェウスは黙ってその話を聞いていた。そして話が終わると、ゆっくりとラビアが口を開いた。
「…それで、これからどうすんの?話してるだけじゃあ何も進まないでしょ」
「とりあえずは、俺の故郷の村に行こうと思ってるんだ。付き合ってくれるよな?」
「それはもちろん。理由を聞いてもいいかい?」
「ある信用できる情報筋から、あの日の襲撃は拠点を広げる為だったって聞いた。今も俺の村を拠点にしてる可能性は高いと思ってる」
「なるほど、そうと決まればさっさと行こう」
そうして3人はボルカニアに向かって出発した…が、少しして問題が起きた。
「…なあヴァルザ」
「なんだリーフェウス」
「あんたの村ってここからどれくらい離れてるんだ?」
「おおよそ100キロくらいだな」
「…徒歩か?」
「?ああ」
「流石に遠いだろ!そもそもラビアはなんとも思わないのか?」
「いや僕は魔法で飛べるし…」
「俺は飛べないんだよ!あとなんでヴァルザも『当然だろ?』みたいな顔してるんだ!」
「俺は異能のおかげで疲れにくいし…」
「畜生…」
そう、ボルカニアが思ったより遠いのだ。ラビアが「あの足早くなるやつ使えばいいのに」と提案したが想像以上に疲れるらしく廃案となった。
ということで…
「運転手、ボルカニアまで頼むぜ。地図だと…大体この辺だな。」
リーフェウスだけ置き去りにするのもアレなので、一行は馬車で移動することにした。
「自分の足以外で移動したのなんか久しぶりだな」
「右に同じだぜ」
小刻みに揺れる馬車の中でリーフェウスとヴァルザが会話している。だが、道のりは長い。2人はいつの間にか眠りに落ちていた。そしてラビアも寝はしなかったものの、俯いたまま考え事をしていた。
「お客さん、着きましたよ。」
「ありがとう。運賃はこれで足りるか?」
「大丈夫です。ありがとうございました」
ボルカニアに着いたようだ。馬車の中の会話で判明したことだが、ヴァルザの故郷は火山地帯にある1つの村らしい。だが…
「…僕の知ってる火山とはかけ離れた風景なんだけど?」
「これは砂だな。記憶喪失の俺でも知ってる」
「ボルカニアは暑いからな。水分補給を忘れるなよ」
ここはどう見ても砂漠である。本当にこいつらの旅は大丈夫なのだろうか。