第十八話 反魂
実は私、TwitterだかXだかのアカウントが存在してまして、新話更新の報告だとかを色々呟いているので、何人いるかは分かりませんが、読者の皆様よければそちらもよろしくお願いします
ディザイアとの激闘が終わり、ヴァルザとベルは勝利の余韻に浸りながら休憩していた。
「あれだけ苦戦した割には意外とあっさり終わったな」
「なんだよ、残念なのか?リーフェウスから聞いたぜ。あいつはお前の故郷の仇なんだろ?」
「そりゃ決着は早い方がいいけどよ…あの時みてえな惨いこと、理由もなしには出来ねえと思うんだよな」
「だからその理由を聞いてやりたいって話か?」
「ああ…別にこれでもいいんだけどな…何ていうか…スッキリしねえんだよな」
「まぁ…分からなくもねーぜ?」
その時だった。2人の耳に声が響いた。
「ならスッキリさせてやるぜェ…」
それは聞き覚えのある声であり、記憶にある声よりもずっと邪気を孕んでいた。
「ディザイア…!?お前死んだはずじゃ…!」
「いや、よく考えたら不自然じゃない」
「どういうことだよ!」
「思えば、ディザイアの身体はアステールの時みたいに消えていかなかっただろ?」
「流石…よく見てやがるなァ…どういう理屈か知らねェが…俺はまだ死んでねェみたいだ…!」
蘇った(?)ディザイアの声は、ヴァルザはおろか、ベルですら聞いたことのないほどに憎悪に満ちていた。
「丁度良いだろ…!お前…俺に言いたいことがあったんじゃねェのかよ…!?」
ディザイアは、言葉と言葉の間で少しずつ血を吐いていた。
「…なんで、あんなことしたんだよ。俺の故郷の奴らが…お前になんかしたのかよ!」
「何もしてねェよ…!」
「ならどうして…!」
「決まってんだろ!ただ…ただお前ら人間が大嫌いなんだよ!」
「…!」
その時、ヴァルザがふと見たベルの表情は、少し険しくなっていた。
「主も中々良い名前つけたじゃねェか…『復讐鬼』だってな…ククッ…」
「…それがどうしたんだよ…!」
「何が復讐だ!当然の報いだろうが!今度は俺の番なんだ!俺から全てを奪ったあいつらからも…!それを見てるだけだった他の奴らからも…!俺が全部奪ってやるんだ!自由も!幸福も!その命も!」
ディザイアの出血量は、その場に立てていることすら奇跡と言えるほどだった。
「関係ねえ奴らに八つ当たりして何になんだよ!お前に何があったかは知らねえけど…少なくともお前は幸せにはなれないだろうが!」
そのヴァルザの言葉も、今のディザイアには届いていなかった。
「いや…やっぱり主が正しいかもな…もうそれでいい…これが俺の…『復讐』だァァァァ!!」
次の瞬間、ディザイアの全身を茨が包み、蛹のような形になった。
「何だよあれ…!」
ヴァルザが斬りかかってみるも、あまりに硬く刃を弾かれてしまった。
「ヴァルザ…今だけでいい…俺の指示に従ってくれ」
「は?なんで急に」
「死にたくはないだろ…」
ヴァルザはいつも通りに何かを言い返そうとしたが、あからさまにいつも通りではないベルの様子を見て何かを察し、無言で頷いた。
そして、茨で出来た蛹が割れた。
「な…」
ヴァルザは、思わず絶句した。蛹の中から出てきたのは、何重にも重なった棘で両目を覆い、背中からは四対の茨が生えている。他にも細かな特徴はあったが一言で言えば、元の姿を知らない限り、それがディザイアだとは到底判別できないような異形の何かだった。すると、ベルが言葉を漏らした。
「反魂…」
「なんて?」
「反魂だ…!まずいぞヴァルザ!」
「だから反魂ってなんだよ!?」
「俺も昔本で読んだ程度だが…反魂ってのは、生き物が強い感情と共に死を強く拒んだ時に生まれる怪物だ」
「なるほどな…!だがやることは変わらねえだろ!」
ヴァルザはすぐさま武器を構えた。そして、異形と化したディザイアの方へと飛びかかった。
「待てバカ野郎!」
ベルが少し焦ったように叫んだのには理由がある。それは…
「反魂には神と同等の力があるんだぞ!」
「は?」
ヴァルザが一瞬ベルの方を振り向いた瞬間、幾重もの茨がヴァルザの足を貫いた。空中で体勢を崩したヴァルザを、ベルが回収する。傷を治しながらヴァルザは言った。
「そんな大事なことなんで言ってくれなかったんだよ…ああ痛って…」
「言う前にお前が突っ込んでいったんだよ」
「おい後ろ!めっちゃ来てるぞ!」
「そんな曖昧な報告があるか!」
ベルは慌てて出力を上げ、空中へと回避しようとした。しかし…
「ヴァルザ…!?なんでまだそこにいる!」
「なんか足に力が入らねえんだよ…!」
「チッ…手間のかかる相方だ…!」
「お前飛べるんだな…助かったぜ」
「礼は後でいいぜ。それよりも、大事な知らせがある」
「随分と余裕だなお前」
「1つは、『神と同等の力を持つ』なら、権能のようなものもあるはずだ。そして多分あいつの権能は、『茨や棘が刺さった生き物の力を奪う』ってやつだろうな」
「本当だ。なんか茨とか棘が増えてんな」
「そして2つ目。こっちの方が重要だ」
「危ねっ!おい!勿体ぶらずに早く言え!」
「飛行用の燃料が尽きた」
「…は?」
2人は地面に真っ逆さまに落ちていった。
ヴァルザが視線を前に向けると、着地に成功したベルが交戦していた。
「ベル!援護させてもらうぜ!」
ヴァルザは大剣を思いっきり振ると、紫色の波動を前方に放った。それが命中したディザイアの動きは、明らかに遅くなった。
「悪く思うなよ、ディザイア」
ベルが右腕から、ゼロ距離で散弾を放つ。ディザイアは後ろにのけ反ったが…
「!!!!!!!!!!!!」
ディザイアは、最早言葉で表すことすらできないような叫び声をあげ、戦場の空間中を棘で満たした。
「ベル!」
そしてディザイアの近くにいたベルは…数えきれないほどの棘に全身を貫かれた。
「俺は無事だ!自分の心配しろ!」
気づけば、ベルの側からディザイアが消えている。そしてヴァルザの背後には、大剣を振りかぶるディザイアの姿があった。
「やべえ…!」
「ヴァルザ!」
ヴァルザはこの直後自分の身に起こる事を察し、思わず目を硬く閉じた。
…だが、いつまで経ってもその時は来なかった。
代わりに、鉄の塊のようなものが地面に落ちる音が聞こえた。ヴァルザが恐る恐る目を開けると、信じられない光景が広がっていた。
大剣を握っていたディザイアの右腕が、塵となって消滅していたのである。
「お前…腕…」
「腕がなんだ…!まだお前を殺す手は…」
次は、左脚が塵となって消えた。ディザイアは地面に倒れ込んだ。だが、ディザイアの抱く強い感情はこの程度では収まらない。
「まだだ…まだだ…!」
ディザイアは茨で消えた腕と脚を作り、咆哮にも似た叫び声を上げながら、ヴァルザに襲いかかる。
だが、その補完した手足も、すぐに塵となって消えてしまった。
「ベル…これ、どういうことだよ…?」
「魔力を使い果たしたんだろ。戦闘用のものだけじゃなくて、体を構成してる魔力までも全部。その証拠に、普通は死んだら身体が魔力の粒子に分解されるはずなのに、ただの塵に分解されてる」
ディザイアは、もう起き上がらなくなった。代わりに、ただヴァルザの方へと手を伸ばして、何かを呟いていた。
「何が…何が悪かったんだよ…『忌み子』なのに人と関わったことか…?『忌み子』なのに幸せになろうとしたことか…?生まれた時から髪と歯が生えてたからか…?」
「ディザイア…」
「いや…違うだろうな…俺は…生まれてきたこと自体…間違いだったんだな…」
「…そんな訳ねえだろ。俺はバカだからそれしか言えねえけど…絶対そんな訳ねえ」
「ヘッ…お前に何が分かるんだよ…クソが…」
ディザイアが伸ばした手は、ヴァルザを殺そうと足掻いているようには見えなかった。その手は、ただ一途に救いを求める孤独な少年の手に見えた。
そして、掠れた小さな声でディザイアは呟いた。
「なんで…普通に…生きられなかったんだ…」
ヴァルザもベルも、何も言わなかった。いや、言えなかった。
「星導…」
その言葉を最後に、ディザイアの身体は完全に塵と化した。
「…あいつ、最後なんて言ったんだ?」
「『せいどう』って言ってたな。誰かの名前なのか…?」
それ以上は、2人とも何も話さなかった。その空間は、先程までの激闘が嘘のように静まり返っていた。そこにあるのは、静かに佇む2人の勝者の姿と、塵に包まれた衣服。そしてその衣服の中にあったのは、使い古された、ボロボロの小さな手拭いだった。
あの事件当時、ディザイアは12か13歳でした。




