第十六話 縁を灰と成す炎
今更ですがこの作品に何か思うこと等あればコメントしていってください。なければ今日の朝食でも書いていってください。
「熱い!」
「そりゃ火なんだから当たり前よ!」
灰蘭と硝光は、灰蘭の実姉である灰縁と戦闘を繰り広げていた。
「随分と余裕そうね?」
「熱い!」
「わかったから一旦黙って!」
灰縁が攻撃に用いるのは、様々な生き物の形をした炎である。そして当然ながら、その炎はそれぞれの生き物の特徴をある程度再現している。
「虫だぁぁぁぁぁぁ!」
「落ち着いて硝光!あれ火だから!」
「そうは言っても…うわぁぁぁ!飛ぶなぁぁぁ!」
炎で作られた羽虫相手に本気でビビる硝光だったが、それでも灰縁は攻撃の手を緩めない。
(硝光がこれじゃ私1人でやるしかない…でも1人じゃこの弾幕を捌ききるので精一杯…どうしよう…)
「まだ種類はあるわよ?」
「犬だぁぁぁぁ!」
「犬でしょ!大丈夫じゃない!」
「熱ぅぅぅ!」
「そりゃそうよ!」
(バカなのかしらこの子達)
「もう熱いのはこりごりだ!」
硝光は全身に電気を纏い、目にも止まらぬ速度で走り周り始めた。
「撹乱目的かしら?撃ち落としてあげるわよ」
(多分熱いのと虫が嫌なだけよ。硝光がそこまで考えられる訳ないわ)
(かくらん…?ってなんだ?)
確かに硝光がそんな難しい言葉を知ってるはずがない。だが、目的がどうであれ、硝光のその行動によって灰蘭には余裕が生まれた。その余裕を活用して、灰蘭は考えごとを始めた。
「少し前…ラビアに聞いたこと…なんだったっけ…?」
数日ほど前…
「戦いのときに意識してること?」
「ええ。あなたは見たところ戦い慣れしてるし、参考になればと思って」
「うーん…一言で言うなら、相手にクソゲーを押しつけることを意識してるかな」
「く…くそ、げー?」
「敵にどっちを選んでも不利益を被る2択を押しつけるってことさ。単純に効果があるだけじゃなくて、やられると相手は余裕がなくなってくるから、有利に戦闘を進められるんだよ」
「えっと…つまり、どういうこと?」
「まあ、相手の余裕を無くせたらそれでいいんだよ。勝負事は常に冷静な方が勝つからね」
そして今…
「そうだ。確かあの「くそげー」とかいうやつを押しつけろって言ってた。でもどうやって…?」
灰蘭は、ふと目の前で行われている鬼ごっこに目を向けた。硝光のスピードはなかなかのもので、灰縁も捉えきれていないようだった。硝光が冷静かはさておき、灰蘭は何かを思いついた。
「これなら…!」
そう言うと灰蘭は、手のひらに炎で出来た鉤縄を握り、高く跳び上がった。同時に、灰縁の頭上に影が生まれた。その影は、今自分が追いかけていた少女と同じように、忙しく頭上を動き回っている。
「少しは考えたじゃない…!」
硝光が地面を走り回り、灰蘭が灰縁の頭上を跳び回る。しかし、それだけではない。
「チッ…小賢しい…!」
硝光と灰蘭は、2人とも灰縁の視界の端に映るように動いていた。その上どちらかに気を取られれば、もう片方が一撃を加えて即離脱していく。灰縁の苛立ちは徐々に募っていった。
「ああ鬱陶しい!まとめて灰にしてやるわ!」
灰縁は、背後の地面から炎で作られた巨大な鯨を出現させ、地面に突撃させた。その鯨は大爆発を起こし、周囲に煙を蔓延させた。
「これなら…流石に…」
「残念ね。煙幕に乗じるやり方は経験があるの」
煙の中から現れた灰蘭が灰縁の足を払い、よろけた灰縁の首の真横に剣を突き立てた。
「私の勝ちよ、姉さん」
「私『達』だろ…」
「あとでラビアにお礼言わなくちゃ」
「アタシにはないのかよ?」
「ああ、ありがとう硝光」
「思い出したように言うな!」
「2人とも…本当に…強くなったのね…」
「姉さん、約束通り教えて。あの日のことを」
「…そうね。そろそろ、知ってもいい頃かしら」
灰縁は、ゆっくりと「あの日」のことを話し始めた。
「昔のことから話しましょう…私達姉妹は幼い頃、スケイドルの道端に捨てられていた」
「ええ。その時、私はまだ赤ちゃんで、姉さんも物心がついたばかりのような年齢だったのよね」
「そんな私達を拾ったのが…とある孤児院の人達。そこの人は、私達を本当の子供のように大切にしてくれていた…私も、蘭も、その人達のことは実の親のようなものだと思っていたわ…そういえば、硝光はその孤児院の先輩だったのよね」
「ああ。アタシがあんた達に色んなことを教えたんだよな」
「それなら…!尚更どうしてあの人たちを殺したの!」
「あいつらは…あなた達が親と慕っていた人達は…」
「人身売買で生計を立てていたのよ」
「「え…?」」
「驚くのも無理ないわ…私だって驚いたもの」
「それ…どういうこと…?」
「私は、ある日疑問に思ったことがあるの。硝光が偶然『いなくなってる子がいる』と言ってきたことがきっかけよ」
「アタシ?」
「そうよ。そしたらいつの間にか、後ろに院長が立っていて、『里親が見つかったのよ』って言ってたわ」
「あー…そんなことあったな」
「今思えば、あの時の院長の顔は異常だった。笑っているのに、笑顔に見えない。そんな顔だったわ」
「…」
「それから私は、『里親が見つかった』子が出るたびに、院長とその子の後をつけていって調査を始めたの」
「すげえ度胸だな縁姉…」
「子供ながらの勇気かもしれないわね…そんな事を続けて…どれだけ経ったかしら。ある日、とうとう答えに辿り着いたの」
「…」
「…私がそこで見たのは、麻酔のようなものを打たれて、どこかへと運ばれていく子供と、大金を受け取る院長達の姿だったわ」
「…そんなの、信じないわ!だって…院長達は…あんなに…」
「灰蘭…」
「私だって信じたくなかった。でも、この目で見てしまったものはどうしようもないのよ…」
「そんな…」
灰蘭は、あまりのショックに座り込んでしまった。
「そこからは、あなた達の知っての通りよ。私は真実を知った翌日、孤児院の職員達を皆殺しにすることにした。軍とかの治安組織に言っても取り合ってもらえなかったし、何より当時の私は子供だった。それしか…方法が思い浮かばなかったの」
最早2人は、何も喋らなかった。
「でも、相手は大人で、私は子供。当然、殺されかけたわ。その時に異能が発現したの」
「最後に私は、その孤児院に火をつけた。私の魔法に巻き込まれて、他の子供達は皆死んでしまったし…何より、あんな忌々しいものを残しておきたくなかったの」
「…じゃあなんでアタシ達は生き残ったんだ…?」
「あなた達はその日、2人で外に遊びにいっていたじゃない。だから、助かったのよ。けれど、そのせいで…あなた達に辛い思いをさせてしまった…ごめんなさい」
「そう…だったのか…」
しばらくの間、3人は何も言わなかった。やがて、灰蘭が涙混じりの声で言った。
「姉さん…ごめんなさい…何も…何も知らないのに…勝手に…姉さんを憎んで…ごめんなさい…」
「あなたが謝る必要なんてないわ。ほら、泣かないの。あなたらしくないわよ?」
灰蘭は、泣きながら何度も頷いていた。そして、その涙が落ち着いた頃…
「じゃあ、アタシ達はそろそろ行くぜ。じゃあな、縁姉」
「忘れ物よ、硝光」
灰縁は鮮やかな色の球体を投げた。
「そういえば私達、これを取りに来たのよね…」
「忘れてた!ありがとな縁姉!」
「姉さん…また会おうね」
「ええ、元気でね」
灰蘭と硝光は、裂け目の向こうへと消えていった。
裂け目の向こう側には眠っているラビアと、その顔に落書きをするリーフェウスと、それをあわあわしながら見守っているメイの姿があった。
「あ…灰蘭さん、硝光さん」
「無事だったか、何よりだ」
「おう、メイちゃんらも無事だったか」
「強いて言うならラビアさんの顔が無事じゃないですけどね…」
「ヴァルザとベルはまだなの?」
「ああ。まだかかってるみたいだな…」
全員は、静かに中央の裂け目を見つめていた。
キャラクタープロフィール⑭
名前 灰縁
種族 魔族(半分人間)
所属 ヴェンジェンス
好きなもの 野菜 動物 子供
嫌いなもの 大人 脂っこいもの
異能 炎で様々なものを造形できる
作者コメント
喋り方からは想像し難いが年齢は二十歳らへん。大人が嫌いなのは過去の出来事が理由。子供が好きなのも同じ。名前には今話のタイトルのような意味があったりする。イメージした言葉は「魔女」で、実は初期案だと灰蘭達と別れたあとに色々あって殺される予定だったが、私のこの小説における信条は「全員が救われること」なのでやめました。




