最終話 旅立ちの日
終わるよ
ある日の昼前。リーフェウスとラビアが今日の依頼について話し合っていた。
「今日は何件来てんの?」
「8件だな。ちなみにメイとアルカディアと硝光は今日休みだ」
「珍しいじゃん、灰蘭と硝光がセットじゃないなんて」
「ああ、『たまには1人で行ってみたい』らしい」
「まぁ灰蘭強いし大丈夫でしょ」
頭の後ろで手を組み、さりげなく自室に戻ろうとするラビア。だが彼の上司はそれを見逃さない。
「いやアンタも行くんだよ」
「はいはい…」
ラビアが踵を返して玄関のドアに手をかけると、そこで動きを止めた。
「…こりゃ意外な客だ」
ラビアが玄関を開けると、そこに立っていたのはスカーヴだった。
「驚いた…まさか本当に萬屋を営んでいるとはな」
「スカーヴ…!?何でここが…」
「月に教えてもらったんだ」
「何でアイツも俺ん家知ってんだ」
「聞いたぞ、月と一戦交えたらしいな。しかもその上勝利を収めたとか…」
「…俺1人の力じゃない。少なくとも、俺だけなら確実に勝てなかったさ」
「で、何の用でここに来たの?」
「ああそうだ。お前に用があるんだ」
スカーヴが指差した先にはラビアが居た。
「はぁ?僕?」
「俺は…『ある事』がキッカケで、この世界の真実を知った…幻覚と幻聴の方が大きかったせいで今までは気にした事が無かったが…それらが消えた今、俺を悩ませるのはその『真実』だ」
「真実…?何を言って…」
戸惑うリーフェウスを無視して、ラビアは言葉を続ける。
「リーフェウス、悪いけど僕の任務は君に任せたよ。スカーヴの相手は僕にしか出来ない」
「ああ…分かった……ん?アンタ本当は任務サボりたいだけじゃ…」
リーフェウスが言い切るより前に、ラビアが首元を掴んでリーフェウスを外に放り投げた。
「さて…早い段階で相談に来たのは賢明だよ。遅れ過ぎると僕みたいになるからね……今まで感じた幸せも苦しみも、全部誰かの手によって作り出された物…その事実は、理解を深めるほどに空虚感を加速させていく」
「やはり…お前も『そう』なのか」
と、ここでラビアは無意識にスルーしていた事実がある事に気がつく。
「…ちょっと待って、何で僕が『知ってる』って分かったの?」
「それも月に聞いた。お前が『全てを知る者』であるという事をな」
「なるほどねぇ…そんで、僕にその空虚感の対処法を教えてもらいに来たって訳だ」
ラビアはいつもと違う真剣は表情で、スカーヴと向き合って答える。
「結論から言うと…対処法は無いよ」
「何だと…?」
「ある訳ないでしょ。あるなら僕がとっくにやってるっての」
「……そうか…」
肩を落とすスカーヴに向かって、ラビアは1つの提案をする。
「でも…もしかしたら有効かもしれない方法がある」
「本当か…!教えてくれ!」
「旅に出るんだよ」
「旅?旅なら今までも…」
「この星だけの話じゃなくて、他の星まで行くんだよ。この世界には本当に様々な星がある。それらを巡って、自分の生きる理由を探す…それが見つかれば、少しはマシになるんじゃない?」
「なるほど…だが、他の星に行くだなんて出来るのか?」
「僕がやり方を教えてやるよ…まぁ、今いる星から1番近い星にしか移動出来ないんだけど」
2人はしばらく、星の間を移動する魔法の練習をしていた。そして日が暮れた頃…
「…うん、これで完璧だね。君センスあるよ、他の星でもやってけると思う」
「それはどうも」
「もう行くの?」
「ああ、数少ない交友関係ではあるが…既に別れは済ませた」
そこで、ラビアはふと気になってスカーヴの『ある事』を調べた。もちろん、権能を用いてである。
「あれ…君、赤月の使徒を抜けたんだ」
「ああ、月が復活した今…使徒に存在意義は無いからな。月にもらった力が消えてないのは…今後面倒事が起こった時に再利用するつもりなのだろう」
「ふーん…ま、どうでもいいけど」
「それでは…さらばだ。フィクサーによろしく伝えておいてくれ」
そう言い残し、スカーヴは赤い霧の中へ消えていった。そんなスカーヴと入れ違うように、リーフェウスが帰って来た。
「あれ…スカーヴは?」
ラビアはさっきまでの流れを説明した。
「なるほど…他の星にな」
リーフェウスは何かを考え込むかのような顔をして黙っている。
「何?寂しいの?」
「いや…ただ面白いな、と思ってな」
「何が?」
「俺達が出会ったあの日も、旅を続けていた日々も、今日だって…毎日が誰かの旅立ちの日なんだなって思うと…何か感慨深くないか?」
「…正直なところ……同感だね」
ラビアは微笑みながらそう答えた。ラビアが形容し難いよく分からない感情に浸っていると、不意にリーフェウスが叫んだ。
「ああ!まずい!」
「何、どうしたの?」
「スカーヴから依頼料もらうの忘れてた!」
「ハァ…台無しだよ……ま、これもいつも通りか」
彼らの日常は続いていく。
終わったよ




