第八十八話 曰く、暗澹たれ
出す暇が無かったので解説
スカーヴの過去編で真月が見せた「時間停止」みたいな奴は真月の「停滞」の力です。
真月とラビアが真月の贖罪について考えている時、突如として異星から侵略者が訪れた。地上にいるリーフェウス達は交戦の用意をしている。が、そこで真月が何かを思いついたようだ。
「アルヴィース…1つ…聞いても良いかい?」
「何?」
当然、ラビアには真月の返答が分かっていた。だが、あえて知らないフリをして真月の言葉を待つ。
「先程言った通り…私は長きに渡って人類、及び世界に穢れを齎してきた。その罪は、並大抵の行動では贖い切る事は出来ない…そうだろう?」
「そうだね」
「では質問だ…全てを知る者よ、どの程度の事を行えば、私の贖罪を完遂出来ると思う?」
その問いに、ラビアは少し悪戯っぽい微笑みと共に答える。
「そうだな……とりあえず、1回この星救っちゃえば?そしたら帳消しとまでは行かなくても…『まぁ許される』くらいにはなるんじゃない?」
「フフ…分かった、ありがとう」
そう言い残し、真月は赤黒い霧に身を包んでどこかへ移動した。残されたラビアは地面に寝転んで呟く。
「本当に…神ってのは気まぐれだね…」
その頃、上空では…
「さぁ行け!この星の侵略を開始するぞ!」
隊長の男が号令をかけた時、軍団の後ろの方から突然悲鳴が聞こえた。
「どうした!何があった!」
「い…いきなりコイツが…!俺の腹を刺して…!」
そこまで伝えたところで、腹を刺されたと主張した男は大量の血を吐いて絶命した。その様子を見ていた地上のリーフェウス達は困惑する。
「な…何だ?仲間割れか…?」
そこにラビアが黒い穴の中から現れる。
「やぁ」
「あ、ラビア…アイツら、急に仲間割れし始めたように見えるんだが…何か分からないか?」
「今回に限っては僕達の出る幕は無いよ。黙って見てな、僕達が犠牲を出さずにこの戦いを終えられた事がどれほどの奇跡なのか…よく分かる筈だよ」
ラビアがリーフェウスに説明している間も、侵略者の軍団は依然として上空に居る。
「貴様!仲間を殺害するとはどういう了見だ!」
隊長が怒号を飛ばすと、血に濡れた剣を握りしめた男が震えた声で呟く。
「アイツが悪いんだ…!いつもいつもいつもいつも…!何でアイツだけが評価されるんだ…!俺だって命を懸けて戦ってるのに…!何で何で何で何で何で何で何で何で何で…!!」
男の両目からは、一筋の血が流れ出ていた。
「…やむを得ん!誰か、コイツを…」
『処刑しろ』と言おうとしたのだろうか。隊長は振り返った瞬間、言葉を失った。
「何が…起こっている…!?」
両目から血を流した隊員達が互いに殺し合っていたのだ。更に異様なのは、大勢での殺し合いが起こっているというのにほとんど誰の声も聞こえない事だ。黙々と、ただ黙々と仲間同士で命の奪い合いをしている。
「「隊長!ご無事ですか!」」
殺し合いの渦の中から、2人の人影が隊長に寄って行った。
「参謀と副隊長…お前達は無事だったか!」
その確認に2人は頷き、参謀と呼ばれた男が隊長に告げる。
「はい!ですが…この原因不明の騒動により、我が隊はほぼ全滅…ここは一度撤退した方が賢明かと、死ね」
「隊長…私もそう思います。隊長は我が星でも指折りの強者…ここで失う訳にはいきません!死ね」
その2人は、今自分が何をしているのか分からなかった。先程の発言も本心から放ったものだったが、何かに違和感を覚えた。それに、目から頬にかけて何かが垂れているような感覚がある。
「お前達…もか…!」
参謀と副隊長は、気づけば大剣と短刀で隊長の腹部を突き刺していた。
「ええい!」
隊長は2人を弾き飛ばし、何とか状況を分析しようとする。だが、どれだけ考えを巡らせても理解する事は出来なかった。
「誰だ…誰の仕業だ!」
苛立ちを募らせた隊長が叫ぶと、いつの間にか背後に誰かが立っていた。誰あろう、真月である。
「私だ」
「貴…様…!いつの間に後ろに…!」
「…五月蝿いな」
真月は指を鳴らして、隊長の後ろで殺し合っている隊員全てを真っ二つにして殺害した。
「何…だと…!?」
「…やはり私の技も万能ではないね。君のようにある程度自我の強い者は…精神を暴走させる事が出来ないらしい」
「何を言って…」
その時、不協和音が鳴り響いたかと思えば、それと共に空に大量の赤い亀裂が走った。それらは順番に裂けていき、裂け目から赤黒い目玉を覗かせる。
「クソ…!何をしたかは知らないが、貴様を殺せば万事解決なのだろう!?」
その瞬間、真月の顔からあの空虚な微笑みが消えた。
「殺す…?」
「そうだ!そもそも我々はこの星を侵略しに来たのだ…今までも数多の星を侵略してきた!貴様1人に足止めされるようでは…」
その時、隊長は初めて真月の顔を見た。目を合わせてしまった。それも運の悪い事に、逆鱗に触れられて苛立っている真月の目を。
「殺す…殺すか。君のような矮小極まりない下等種族が…この私を?」
「あ…あああ…!」
「冥土の土産に教えてあげよう。私の精神暴走の原理は、対象の中にあった微かな悪感情を増幅させる事で成り立っているんだ」
真月は表情を全く変えないまま言葉を続ける。
「それが出来るという事は…即ち悪感情であれば増幅可能だと言う事」
「ああ…!ああ…!!」
隊長は人が変わったかのように顔を覆って啜り泣いている。
「さぁ…哭け、戦慄け。君の前に居る存在がどういった存在なのか…思い知るがいい」
残念でした。残念でした。本当に残念でした、異星の強者様。貴方の唯一の間違いは、かの者の前で『殺す』などと驕った事。貴方に唯一出来る事は、両の手を合わせて啜り泣き、祈り続ける事のみです。残念でした。残念でした。本当に残念でした。
「今、私を恐れたな?」
その瞬間、隊長は地上にいるリーフェウス達にも聞こえる程の大絶叫を上げる。
「ああああああああああああああああああああああ!!!!うわああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
隊長は恐怖と錯乱のあまり、喉を掻きむしっている。次第にその首からは血が出始めたが、その途端真月は手を翳しながら告げる。
「おっと…君のような無礼者に、普通の死なんて生温いだろう?」
真月の背後に亀裂が入り、それを突き破って出て来た赤黒い腕が隊長の顔面を掴み、亀裂の向こう側へと引きずり込んだ。いつの間にか、彼らが乗ってきた宇宙船すらも真月によって破壊されている。
「フフフフフ……フハハハハハハハハハハ!!」
いまいち何が起こっていたのか分からなかったリーフェウス達だったが、真月の心底愉快そうな笑い声を聞いて察した。先程まで上空で起こっていたのは、決して愉快な事ではない、と。
残念でした。




