第一話 旅立ちの日
この作品を見ていただいてありがとうございます。
私の趣味が全開の稚拙な文章ですが温かい目で見てくださると嬉しいです。
「腹減ったなぁ…」
ある日の早朝、普段より早く目を覚ました青年が、既に消えた焚き火の側で呟いた。黒い髪と、寒くもないのに巻いているマフラーが特徴的な青年だ。彼の名はリーフェウス。とある理由で数週間ほど前から旅をしているこの物語の主人公である。
「そういやこの辺に牛型の魔物が生息してるって聞いたことあるな…」
「今日の朝飯は牛肉だな」
大して悩みもせずそう決めたリーフェウスは、野営の後片付けを済ませて、その魔物の住処へと向かった。
「あ、いた」
程なくして、リーフェウスは2匹の今日の朝食を見つけた。…が、その時
「ぐえっ」
左の脇腹に件の魔物が突進してきたのだ。突然のことだった為、リーフェウスは2メートルほど吹き飛び、魔物はその隙に3匹とも走って逃げていった。
「頭打った…」
「小さいのが2匹で中くらいのが1匹だったな」
そんなことをぼやきながらリーフェウスは背負っている剣を抜き、まばたきより少し長く目を閉じた。
すると次の瞬間、リーフェウスの頭上に「瞬」の文字が浮かんだかと思えば、およそ生身とは思えないほどの速度で魔物を追いかけ始めた。
5秒とかからず魔物に追いついたリーフェウスは慣れた手つきで小さい2匹を仕留め、残りの中央くらいの方を探した。…だがまたもや
「へぶっ」
「またかよ…」
確実に彼の声には苛立ちが混じっていた。
もう一度、先程と同じような時間目を閉じると、今度は「強」の文字が頭上に浮かんだ。そしてリーフェウスは決して柔らかくはないであろう魔物の皮膚ごと、肉体を切り裂いた。
「これで数日持つかな」
と、思ったのも束の間。いつの間にか入り込んだ森の奥の方から地鳴りとも取れるほどの咆哮と大きな足音が聞こえてきた。ここでリーフェウスが考えたことと言えば
「まさか…こいつらの親…?」
そのまさかである。さっき仕留めた魔物どころか自分よりも大きな身体を持った魔物が激しい雄叫びと共に眼前に現れた為であろうか、リーフェウスは動揺して構えるのが遅れた。
「やっべ…」
(ああ死んだなこれ。短い人生だった。)
恐ろしい速度で向かってくる魔物の親を前にして、恐ろしい速度で諦めたリーフェウスは思わず目を閉じた。だが、いつになっても予測していた痛みと衝撃が襲ってこない。恐る恐る目を開けると、そこには綺麗に真っ二つになった魔物の親の姿があった。
「マジか…」
リーフェウスは自分の腕に自信がある。何故なら、今までも自分の腕だけを頼りに生きてきたからだ。だが、そんなリーフェウスでも驚くほどに綺麗に身体か両断されていた。
「こんなこと出来るやつがこの辺にいたなんてな」
「…ちょっと探してみるか」
と、魔物の肉をまとめ始めたその時
「ねぇ」
不意に後ろから声をかけられたリーフェウスは、声にならない叫び声を上げた。
「そんなに驚くことか…?」
後ろを向くと、苦笑いしながら立っている青年がいた。黒く裾の長いレインコートのような服を着ていて、背格好はリーフェウスと大体同じである。
「そりゃ急に話しかけられたら誰だって驚くだろ」
「はっはっはっ」
リーフェウスの発言の何が可笑しかったのかはわからないが、その青年は依然として笑顔を崩さなかった。
「失礼失礼、まずは名乗らないとね。僕はラビアだよ。君は?こんなところで何してたのさ?」
「俺はリーフェウス。食料調達の為に牛型の魔物と戦ってたところだ。」
「牛?じゃあアレ君の獲物だったのか」
お互いの自己紹介を終えたあと、ラビアは少し申し訳無さそうにそう言った。するとリーフェウスは
「いや助かった。正直死も覚悟してたからな」
「そう?ならいいけど」
「てか、さっきの言い方からしてあいつを真っ二つにしたのって、もしかしてアンタか?」
「うん、そうだけど」
「へぇ〜すげえな」
そんな会話をした後、ラビアがこう言った。
「とりあえず森を出よう。ここにいるのはあの牛だけじゃないからね」
そして森を出ると、今度はラビアが質問した。
「君、さっきあの牛の前で『異能』使ってたよね?」
「異能?…ってなんだ?」
「え?知らないの?」
「あぁ言い忘れてたが、俺には3年以上前の記憶が無いんだ。それを知る為に旅をしてる。」
「へぇ…」
「なら、僕が異能について教えてあげよう」
「助かる」
そうしてラビアの解説が始まった。ラビアが言っていた内容を要約するとこうなる。
「まずこの世界には魔法とかを扱う為に必要なエネルギーである『魔力』ってのがある。呼び方は国によって違うけど…今はいいや。そして、魔力は人間を始めとした全ての生き物の中に流れてる。体内の魔力量が多いやつが特になんの前兆もなく覚醒する能力のことを『異能』って言うのさ」
大体こんなことを言っていた。
なんとか説明を理解したリーフェウスが
「へぇ…じゃあ俺のあれも異能なのか」
「あれ?」
「まあ見てろよ」
そう言うと、先程魔物を追いかけた時と同じように、頭上に「瞬」の文字を浮かばせ、周りを走ってみせた。それから、今度は「強」の文字を頭上に浮かばせ、付近に生えていた太めの木を引き抜いた。
「おぉ〜」
ラビアは「パチパチ」と拍手をした。そしてこう続けた。
「君、その力のことを『ただ腕力と脚力が上がるだけの異能』として捉えてないかい?」
「違うのか?」
「やっぱりね…じゃ、僕を見てて」
そう言うとラビアは、自身の周りにバリアを貼った。
「おお、なんか出た」
「君にも同じことが出来る筈だよ」
「は?」
「いいからやってみなって」
言われるがままに、リーフェウスは自分の周りにバリアが生成されるシーンをイメージした。すると、リーフェウスの頭上に「護」の文字が浮かんだかと思えば、リーフェウスの周囲にバリアが生まれた。
「おお…」
「案外驚かないんだね。意外だよ」
「いや結構驚いてる。なんだこれ?なんでこんなことが出来たんだ?」
「それが君の異能だからさ」
依然としてピンと来ていないリーフェウスを前に、ラビアはこう続けた。
「君の異能はただ腕や足を強くするだけのものじゃない。『一度見た技を自分の技として使える』っていう、とんでもない代物なのさ」
リーフェウスは開いた口が塞がらなかった。自分にまさかそんな力があったなんて。
「ただある程度の制約はあるっぽいね。そこまではよく分からないけど」
リーフェウスの開いた口が塞がらなかった理由は自身の異能に関してだけではない。見ただけで自分の異能の制約の有無まで見抜いたことにも、リーフェウスは驚愕したのだ。
「なんでそんなことまで分かるんだ?」
「まあ…僕の異能だと思ってくれればいいかな」
「あ、それと」
「?なんだ」
「君の記憶に関してだけど、僕は協力できると思う」
「え?」
リーフェウスにとって、こんなに驚きが連続した日は初めてである。そんなリーフェウスを気に留めず、ラビアは続けた。
「『三神柱』って知ってるかい?」
「知らない」
「早っ…そりゃそうか。まず、この世界には『神』って種族がいる。こいつらは炎とかの物質や、何かの概念を司ってる奴らだ。そして、神よりもさらに上位の神…それが『三神柱』なのさ」
リーフェウスは目を少し見開いて聞いている。
「三神柱はこの星で最初に生まれた神なんだ。本体が三柱と、それに対応した予備の体である『後継体』ってのがいる」
「後継体ってなんか役割あるのか?」
「良い質問だね。そもそも後継体を含めた三神柱のやつらには、それぞれ『権能』と呼ばれる異能の上位互換みたいなのがあるんだけど、本体がなんらかの理由で死ぬと、対応した後継体にその権能が受け継がれるんだ」
「権能か…なんか良い響きだな」
「実際は僕たちの異能と大差はないんだけどね。ちなみに権能を受け継いだ後継体も死んだ場合は、別の三神柱に受け継がれるんだけど、これはその後継体と関わりが深いやつから優先されたりする。あとこれは中々無い話だけど、万が一なんらかの理由で後継体も関わりが深い誰かも死んでいた場合は、権能は誰にも受け継がれずにそいつの魂に留まる」
リーフェウスは先程の説明よりも時間をかけたが、なんとか理解することができた。
「で、ここからが本題だ。結論から言うと、君は三神柱の内の1人である『アルヴィース』ってやつを探せばいい」
「ファ◯リーズ?」
「それ消臭剤」
「なんでそいつを探せばいいんだ?」
「アルヴィースは別名『全てを知る者』って呼ばれてるからさ。安直と言われれば否定は出来ないけど、探してみる価値はあるんじゃないのかな?」
「なるほど…」
リーフェウスは暫く腕を組んで考え込んだ。だが、心のどこかで答えは決まっていたのだろう。そう時間もかからずにリーフェウスはこう答えた。
「なら、そいつを探すのが当面の目標になりそうだな」
「そうだね。そして、君は記憶を失っているせいでこの世界について疎い。けど、今君の前にはこの世界についてとても詳しい男がいる。」
「……もしかしてついてきてくれるのか?」
「ご名答。このラビア、暫く君の旅に同行させてもらうよ」
「頼もしいぜ、ありがとな」
(この気配…やはりこいつは…)
「ん?なんか言ったか?」
「いいや何も。目的は定まったんだ、さっさと行こう」
こうして、リーフェウスとラビアの旅が幕を開けた。
リーフェウスって変換で1発で出てこないのめんどい