悪霊祓い
「あ、こんばんは。来たよ……」
「うん、上がって」
風が音を攫い、雲が月を隠す、とある夜。彼は怯えた表情で知人の家に足を踏み入れた。古びた一軒家で、整頓されているとは言い難い。それでも何か言うべきかと思い、知人の後に続いて家の中を進みながら遠慮がちに訊ねた。
「えーっと、今日、家の人は?」
「いないよ」
「そう……どこかに行ってるの?」
「うん。母さんは合宿中なんだ」
「ふーん? お父さんは?」
「ああ、うち離婚してるから。さ、ここが僕の部屋だよ、入って」
「あ、うん……。ねえ、それでさ、前に話したあれって、本当なの?」
「うん、君の体の異常は悪霊のせいなんだよ」
「取り憑かれてるとか言ってたよね。それで、除霊できるんだよね……?」
「うん、任せて。やり方は完璧にわかってるから。さっそくやろう。まずはこれを飲んで」
知人はそう言って、コップを差し出した。中の液体に何かの欠片が浮かんでいるのが見え、「これは?」と彼が 訝しげに訊ねた。
「これを飲むと、取り憑いている悪霊が体の表面に現れるんだ」
「そう……でも、大丈夫なの?」
「大丈夫、大丈夫。信じて。僕も前に除霊してもらったことがあるから」
促されて、彼はおそるおそるコップに口をつけた。すると――
「……う、あ、あ、ああああ!」
液体を口にした途端、彼は床に崩れ落ち、苦痛の声を上げた。
「ああ、いいよ! 出てるよ! さあ、悪霊よ! この体から出ていけ!」
「あ、あ、あ、あう、あ、あ」
「苦しいか! 苦しいのはお前が汚れているからだ!」
「あ、あう、うあ、う、く、くる、し」
「さあ、立ち去れ! 悪霊よ、消え失せろ!」
「のど、の、の、い、い、き、き」
「あなたは不浄なのよ! 不浄不浄!」
「あ、い、た、い、あ、あうあ」
「お母さんは、あなたみたいな子を産んで恥ずかしいわ! 神さまにお祈りしなさい! 祈るのよ! もっと叩かれたいの!?」
「あ……あ……あ……」
「はあ、はあ……さあ、起きて。悪霊は去ったみたいだ。もう怯えなくていい。給食だって普通に食べられるよ。アレルギーなんてものは、存在しないんだって。お母さんが言うには全部、悪霊のせいなんだ。……あれ? ねえ、ねえ、おーい……」