表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

俺YOEEEEから始める異世界転世

成長譚ではありません。主人公はたぶん成長しません。成長させる予定はありません。

(スキール音)ドカン。

僕は死んだ。


さて、早速異世界転世だ。

おあつらえ向きに、女神が僕の前に現れた。

女神「お主はこれから異世界に転世するのじゃ。

じゃが…お主には何の能力もやらん。」

冗談じゃない。碌なこともなく幕を下ろした現世と同じ人生をもう一度味わえというのか。


人生は苦しみの連続だ。生老病死、四苦八苦。生きることも死ぬことも苦しみだ。だから生まれたくなかった。

生まれてしまったからには、簡単に死ねないから辛い。せっかく死ねたのに、転世してもう一度苦行を味わえというのか。

それならせめてよくある異世界転生小説のように、最強の能力を与えるなりして、楽に生かしてくれよ…(クドクド)


女神「安心せい。お主の適性的に、お主は能力を授けるより、もっと良いものを授けた方がよいと思ったのじゃ。」

勘弁してくれ。何の能力も与えられず、また人生という苦しみを強制させられるのか。

僕は恨み節を何度も唱えた。だが結局女神の力に抗えず、僕は強引に異世界に転世させられた。


ありがちな景色。ありがちな世界観。

ハイファンタジーの世界。よくある中世ヨーロッパ風の住居が点在する、小さな集落の中に、僕はいた。

やれやれ。ご都合主義なら、日本語が通じればいいが。


僕はひと気のない村でトボトボと歩を進める。

おかしい。集落とはいっても、やけに静まり返っている。いや、村全体から生気が感じられない。人っ子一人いないようだ。


すると、これまたおあつらえ向きに、ドラゴンが現れた。どうやら村人はこのドラゴンから避難したのだろう。

とほほ。異世界ファンタジーなら人語を解する竜も登場するが、果たして日本語以前に言語が通じるだろうか。

高層ビルはあろうかという大型のドラゴンは、僕に鋭い眼光を向ける。射すくめられた僕は、身動きができなかった。

僕は何とかコミュニケーションを図ろうと言葉を紡ぐが、ドラゴンはまったく動じない。これは、ドラゴン語を覚える必要がありそうだ。当然そんな暇はないが。

女神は僕に、能力よりも良いものを授けると言った。それは死ぬことだろうか。それならいっそ、転世させるよりも一思いに死なせてくれ。

そんなことを考えていた一瞬の間に、僕の目の前にはドラゴンの大きな口があった。僕は死ぬ──


気が付くと、僕の目の前には青空と、僕を見つめる女の子の顔があった。

女の子「大丈夫ですか?!すみません、遅れてしまって!」

遅れた?何を言ってるのだろう。僕はとうに死んでいるはず。

そうか。ここもまた異世界なのだ。僕は二度異世界転世したのか。きっとそうだ。

女の子「ドラゴンは、私が退治しておきました!だから気をしっかりもってください!」

ドラゴン?あゝそうだ。僕はドラゴンに食われて死んだんだ。

女の子「しっかりしてください!」

女の子にゆすられ、視界がガクガクと上下に揺れる。すると、視界の端に、さっきのドラゴンを捉えた。ドラゴンは目を回してのびている。

あれ?僕は…生きているのか?

女の子「そうですよ!あなたは生きています!私が助けました!」

女の子が僕を抱きしめる。

急に、安心感が湧いてきた。死への恐怖心が緩んだ僕は、女の子の腕の中で、情けなく失禁してしまった。

あゝ、こんなところで失禁してしまうなんて、なんて情けない。女の子はカンカンではすまないだろう。おそらく、この女の子に殺される。まぁドラゴンに食いちぎられるよりマシだろうか。

すると女の子は、怒るどころか、

女の子「怖かったんですよね。もう大丈夫ですよ、私がいますから。」

と言って、尚も僕を抱きしめてくれた。

現世でさえ人から抱きしめられることなんてなかった僕は、女の子の胸の中で、大声でむせび泣いた。

生への執着など捨てたいが、やはり死ぬのは怖かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ