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CODE:AW EPISODE Ⅰ 赤き指輪と夢見の魔女  作者: 黒咲鮎花 - AYUKA KUROSAKI -
第一章 配属と再会
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UCIA

 新宿高層ビル群の中心に、3角広場と呼ばれている場所がある。周囲にはイベント会場や飲食店等、西新宿では賑やかな場所だ。近くには東京都庁もある。


 そんな場所に、UCIA日本支部は存在していた。


 広場周辺の一見分かりにくい場所に、地下へと通じる暗い通路があり、その先に階段がある。足場に必要最小限の照明しか付けられていないその様子は、明らかに一般人が立ち入りがたい雰囲気を醸し出していた。


(天井に照明ないと、正直怖いな……)


 2階分ほど階段を降りただろうか。正直なところ足下以外はよく見えない程に暗い。階段はここで終わっているようで、目の前には重々しいエレベーターがある。先日訪れたスタッフの教え通りに、操作パネルにIDカードをかざす。


『網膜認証開始。UCIA特別捜査官、姫宮麻美と確認。ようこそ。UCIA日本支部へ』


 頭の中に直接語りかけてくるような機械音声。おそらく付近に設置された超指向性スピーカーからだろう。辺りが暗くてよく分からないのもあるが、何処から網膜をスキャンされたのか分からない。カードをかざした瞬間にはアナウンスが流れ、認証が瞬時に終わったようだった。


 エレベーターに乗り込むと、操作パネルには大きな液晶画面がついているが、行き先のボタンは一つだけ。”UCIA日本支部エントランス”とだけある。


 ――エレベーターが動き出し、地下へと降りていく。ただ、ずいぶんと長い。エレベーターが遅いのか、それともかなり地下深い場所にあるのか、よく分からない。体感としてはかなり深く降りているようだ。


『UCIA日本支部エントランスへ到着します』


 アナウンスの音声と共に、下がっていく感覚がなくなっていくと、おなじみの電子音と共にエレベーターの扉がゆっくりと開いた。


(!?)


 20メートルほど先に、大きなガラスドア越しにUCIAの明るいエントランスと思われる場所が見える。が、その手前の通路は薄暗く、わずかな照明と通路両脇にアサルトライフルを構えた警備兵らしき男達が立っている。特殊ゴーグルのようなものを付けたその姿からは、素顔がよく分からない。


(――ちょっと待って? この組織は一体……)


 推薦してくれた上司は、UCIAとは暗礁に乗り上げた未解決事件や、常識的には不可解な事件を専門に調査する組織とのことだった。Unknown case Criminal Investigation Agency.つまりは不明事件刑事捜査局と言ったところだろうか。通常捜査では暗礁に乗り上げた、もしくは説明のつかない事件を取り扱う組織なのだろう。


 だが隠すように設けられた入り口、おそらくかなり深い場所にあると思われるこの場所と、アサルトライフルを携え素顔を隠した警備兵による厳重な警備体制。新宿区のど真ん中にある施設は、未解決事件を扱う組織としてはあまりにも不釣り合いに思えた。


「ハイ。ようこそ。UCIA日本支部へ」


 奥のエントランスから、一人の金髪の女性が現れ、声をかけてきた。肩に掛からないほどのショートヘアに、タイトなパンツスーツを着こなしている。その上からでもわかる豊かな胸と括れたウエストは、十分すぎるほど大人の魅力を放っていた。年齢は30歳前後だろうか。スタイリッシュな女性だ。


「ハーディ室長。お疲れ様です」


 左右にいた兵士が言葉と共に敬礼する。スタッフリストに掲載されていたハーディ=エヴァンズ室長だろう。私も同じように敬礼し挨拶する。


「UCIA特別捜査官、姫宮(ひめみや)麻美(あさみ)。日本支部へただいま着任致しました」


 ハーディは軽く微笑み、答礼する。


「UCIA日本支部、室長のハーディ=エヴァンズよ。貴方を歓迎するわ。色々と説明することがあるから、オフィスに荷物を置いたら奥の室長室に来てちょうだい」



 ――エントランスを過ぎ、入ったオフィスは割と小さな部屋だった。パーティション等も無く、広々としたデスクが8台、それぞれ大型の湾曲ディスプレイが設置されている。仕事環境はとても快適そうだ。眩しすぎないように照明も調整されているようで、安っぽいオフィスにありがちなギラギラ感は皆無だった。おそらく極少人数向けのオフィスなのだろう。


 バックを置き、軽く身だしなみを整える。オフィスの隅の一角がパウダールームとなっているのは室長が女性だからだろうか。私は着任早々、このオフィスがとても気に入った。


「姫宮です。失礼致します」


 ドアをノックし、室長室に入る。オフィスの内装を更に豪華にしたような作りだが、全体的に白と黒でシンプルに優しくまとめられている。広さはオフィスの1.5倍くらいある。一角にある来客応対用の椅子に案内された。


「姫宮麻美さん。神蔵からある程度話は聞いているわ。彼とは幼馴染みで、FBIでも一緒だったそうね」

 

「はい。彼とは子供の時からずっと一緒で、FBIでも一年ほどバディとして、共に職務を行っていました」


「ハーバード大学出身、その後はNYPD(ニューヨーク市警)で警察官として勤務。その後にFBIね。キャリアとしては順調だけど…… UCIAへの転属願いは――神蔵君が関係しているのかしら?」


 鋭い目線と言葉。透き通るような青い瞳が私の心の中を見通すかのようだ。ハーディ室長が言葉を続ける。


「もし彼を追ってここに来たのだとしたら、荷物をまとめて本国に帰った方が良いわ。FBI以上に――ここは危険よ」


 声のトーンが一段と低くなる。FBI以上に危険というのは、セキュリティの面から考えて嘘とは思えない。ただ、未解決事件等を扱う組織にしては、何故このような厳重な警備になっているのか違和感が拭えない。


「――私はただ、感情的に彼を追ってこの場所に来たのではありません」


 ハーディ室長の目を見つめ、言葉を返す。半分以上は図星だったが、その為だけにここに来たのでは無い。FBIであれほど優秀だった神蔵が、何故突然姿を消し、今この組織に配属されているのか? 考えれば考えるほど腑に落ちない。


 何故なら、FBIにも密かに未解決事件を専門に調査する部署があったからだ。


「――なかなかいい目をしているわね。貴方のその意思がどれだけ強いのか、確認させてもらうわ。来なさい」



 室長室から案内された場所は、トレーニングルームだった。ただ中は予想以上に広い。中央に柔道場のようなエリアがあり、部屋の端には様々なトレーニング機器。壁には竹刀、木刀、棍、トンファーなど様々な打撃武器が掛けられている。


「好きな武器を取りなさい。私に攻撃をヒット、もしくはガードさせる事が出来たら、貴女の勝ちで良いわ」


 ハーディ室長はジャケットを脱ぎ、その場に投げ捨てる。スタイルが良いことは分かっていたが、シャツの上からでも相当に鍛え抜かれた感が窺える。こう見ると肩幅も女性にしては広く、細く見える腕もかなり筋肉質だ。靴を脱ぎ道場に上がる。


 相当に自信があるようだけど…… 私だってNYPDやFBIで過酷な訓練を受けてきている。ガードさせれば勝ちなら、リーチの長い武器が絶対有利。その理由だけなら棍だけど、扱いやすさとスピードなら竹刀がベストだと判断した。


 若干戸惑いながらも、ジャケットと靴を脱ぎ軽く畳んで床に置くと、竹刀を手に取り道場に上がる。あいにく今日はスカートで若干足さばきに難があるが、問題は無い。何しろ相手は武器を持っていない。絶対的有利のはずだ。


「私の勝利条件は、貴女が負けを認める。もしくは交戦不能な状態に陥ること。顔とお腹は狙わないから安心して。準備は良いかしら?」

 

「――聞きますが、本当に素手で良いのですね?」


 一呼吸おいてハーディ室長が言った。


「姫宮さん、勘違いしないで。貴女レベルにはこれでも十分すぎるのよ」


 薄ら笑いを浮かべながら発された言葉に、さすがに怒りがこみ上げる。だがこれは安っぽい挑発だ。ヒット、もしくはガードさせる事が勝利条件なら、竹刀が相手に当たりさえすればいい。タイミングを見計らって踏み込み、胴を狙って横から切りかかる。最も竹刀が当たる確率の高い動きのはずだ。


「行きます」


 静かに口を開き、竹刀を構える。ハーディ室長は左足を前に、空手のような構えだ。こうやって対峙すると、どういう訳か微妙に足が震える。相手から発せられる気迫のようなものなのだろうか……


 気持ちで負けてはダメだ。相手の動きを注意深く窺う。


 顔とお腹は狙わないと言った。素手であることを考えると、おそらく相手は一瞬の隙に寝技に持ち込んでくる。私が横から切り払う動作は相手も予測しているはず。だとしたら限りなく低い軌道から打ち上げるように上半身を狙う。


 私から動く。素早く一歩を踏み込むと、両手で構えた竹刀を右斜め下から相手の胴に向けて斜め上に切り払う。


(もらった!)


 竹刀が当たる、はずだった。だが力強く振り切った竹刀はむなしく宙を切る。ギリギリのタイミングでのバックステップ。それも必要最小限の距離。竹刀を振り切ってしまった今、完全な隙が生じた瞬間だった。


(!?)


 視界から消えたと思った瞬間、極限まで身を屈めたハーディ室長が一瞬で距離を詰め、私の腰に右腕を絡ませ、それを軸に周り一瞬で背後を取る。腕が途端に首に巻き付き、ものすごい力でホールドされる。


(息が…… 体が……)


 体が動かず息が出来ない… 次第に意識が… あぁ…


「――10秒持たなかったわね。これが実戦なら、貴女はもう死んでいるわ」


 耳元で…… そう室長が…… 囁いた気が…… した……



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