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CODE:AW 赤き指輪と夢見の魔女  作者: 黒咲鮎花
第四章 願いと代償

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審判の光

「会いたかったぞ。姫宮麻美……」


 それは赤黒いローブを纏い、神々しく光を放ちながら優雅に浮遊していた。その中は闇よりも深い黒。人の形をしているようだが、まるで何かの粒子のように姿が捉えられない……。


 明らかな霊的存在…… 現実を超越した存在…… これがAWか……。


 私はその存在に素直に恐怖し、足が竦みそうになる。私はいつのまにかに、無意識に銃を構えてしまう……。


「――話をしよう。私はお前の敵ではない。まずは銃を下ろせ。少なくとも私はお前の願いを叶えたのだぞ……」


 声が頭の中に直接響いてくる…… 反響しているのかよく分からないが、声の主は恐らく女性……。


 確かにそうだ。神蔵の空白の一年間…… 私はそれを視た。


 構えていた銃を、静かに下ろす。


(何が狙いだ……)


「あなた…… 何者なの? 何故私に指輪を授けた……?」


 わたしは静かにそう言った。


「……わたしは、お前達がAWと呼び恐れる存在。その呼び方は様々だが、多くの人間は私をこう呼ぶ。夢見の魔女――ユメミサマとな」


 私は再び、AWに向けて銃を構える。凄まじいプレッシャーだ…… 空気が重く、胸が張り裂けそうだ。それほどまでに、わたしは無意識にこの存在に対して恐怖している。サークルドットサイトがまるで収束しない…… 恐怖で手が震えているのだ。


「私が怖いか……? お前の心の叫び、そして願い。私はそれを叶えたいと思った。だからお前に指輪を授けたのだ。わたしはずっとお前を視ていた。その純粋な心、汚れ無き魂、実に素晴らしい真の輝きを感じる。こうやって会ってみれば、わたしの見込みは間違いでなかったと強く感じる。姫宮麻美よ。安心するがいい。私はお前の味方だ。代償として命までは取らない……」


(何を言っている…… 何が狙いだ? それともこのAWは本当に敵ではないのか……?)


「わたしはお前の敵ではない…… 願いを叶えた事がその証拠だ。知りたいのだろう? 白骨化事件の犯人と、AWと呼ばれる我々のことを……」


 心が読まれている…… 相変わらずサークルドットサイトは一向にドットへ収束しない…… 手の微妙な震えが止まらない。周囲一帯の空気が超絶に重い…… 敵ではないというのなら、このプレッシャーはなんなのか…… 無意識な潜在的恐怖、もしくは絶対的存在を前にして、私は打ち震えているのか……。


「……恐らく後者であろう。銃を向けてはいるが、私に対して絶対的な敵意は抱いていないようだ。――それでいい。お前の知りたいことは教えてやろう。私達は仲間だ。姫宮麻美」


 AWは静かに話し始める……。


「まずは我々について説明せねばなるまい…… 我々AWは別名、現代の魔術師アスファルティックウィザードとも呼ばれている。AWについて人によって古代の魔女(エンシェントウィッチ)とも呼ぶが、我々は魔女(ウィッチ)と呼ばれることを基本的に嫌っているのでな」


「……それは、何故?」


「ヨーロッパで16~17世紀に起きた魔女狩りを知っているだろう……? 多くの罪無き女性達が魔女だと罵られ、様々な迫害や虐待を受け、無残に殺されていった…… その中にはもちろん純真な少女も数多くいた。その数、10万とも言われているが、現実は違う」


 AWの言葉は続く。


 「――魔女狩りは今でも続いている。お前もその凄惨な光景を――先ほど視たはずだ」


(…………)


「――そう。今でも凄惨な殺人は続いている。魔術は黒魔術だけではない。人々を癒やす白魔術も同時に存在する。我々、現代の魔術師は永き時間の中で魔術というものを研究し、この世の裏から光と闇のバランスを保ってきた。原則的に善良な人間に危害は加えない。むしろそれらを守護してきたのだ」


 一呼吸置いて、AWは言った。


「姫宮麻美…… お前は魔術の根源をなんだと捉える? お前は()()()()()()()()()()()()()()()()()な…… 実に興味深い。通りで()()()()()()()()()()わけだ……」


(数奇な力……? 何のことを言っている? 魔術の根源…… それは……)


「……よく分からない。だけど、人や自然を慈しむ心。全てを敬い大切にする心。それは大事にしなさいと、よく昔から言われてきたわ……」


「――なるほど。お前の心を密かに導いてきたものは、流石によく根本というものを理解していると見える。だが、よほどお前のことが可愛かったのだな……」


(祖母のことを言っている……? なんなの、何が言いたいかさっぱり理解できない……)


「――魔術という力の根源。それは崇高なる魂だ。全てを愛しみ、そして敬い、大切にする心。それが魔力を引き出し、大いなる奇跡と力を生み出す。姫宮麻美よ。お前は()()()()()だ。お前のその純粋かつ強く、汚れ無き魂は、無限の可能性を秘めている」


「……あなたは、何が言いたいの?」


 恐怖心が少しずつ薄れていく。AWから放たれているその神々しくも禍々しいオーラ。そのプレッシャーに、少しずつ心と体が慣れてきたのか、先ほどのような震えは少し収まってきたかのように思う。サークルドットサイトが少しずつ収縮している。


「――私が言いたいのは、お前は仲間だということだ。姫宮麻美…… 世界中で密かに発生している白骨化事件。アレを起こしているのは我々ではない。規律を破り、愚かにも力を求める現代の魔術師になり損ねた者達だ……」


(なり損ねた……者達?)


「魔術の根源とはまた別の概念になる…… より強大な力を得るには、高度な知性を持つ魂を生け贄に捧げ吸収する必要ある。嘆かわしくも魔術の探求にそれは欠かせない。魔法のアクセサリーを授ける理由は、魂の選定をしているのだよ…… 我々も元は人の子。良心がある。他人を敬い、汚れのない心を持つ者。自分を律することが出来る者に、多くは代償を求めない。その者のささやかな願いを叶えるだけだ。だが――」


(なんだ…… 空気が重い…… このプレッシャーは……)


「低俗な者共ノ願いは…… その代償として魂を奪う。そういったものは後に周囲や他人に危害を及ぼす。実害が起こる前に、それを摘み取っているのだ」


(つまりは…… 善なる人間、悪なる人間を選定し、悪を摘み取ることでそれを力に変えているのか……)


「そういうことだ…… 白骨化事件を起こしている愚者達は、現代の魔術師としてのレベルがあまりにも低い…… 完全な次元結界ディメンショナルフィールドを形成し、その中で接触し、魂を奪う。現実世界においてその影響を及ぼさない事は、現代の魔術師アスファルティックウィザードとして最低限の振る舞いであり、それが絶対のルールだ。だがレベルの低すぎるその行いが、結果として現実世界に影響を及ぼしている」


(……完全な次元結界。つまり本物のAWの力なら、次元結界の中が現実世界に戻ることは無い…… 完全な別次元での殺人を行うことが出来る…… そう言うことなのか……)


「察しが良くて助かる…… だがある意味彼女らも被害者だ。姫宮麻美。その事はお前自身がよく分かっているはずだ。この世界の歪みはもう修正できない程、酷い状況にある。特にこの国の衰退は酷いものだ。特権階級が既得権益を独占し、低俗な欲に駆られ続け、弱者は生きる権利すら奪われようとしている。嘘にまみれ、多くの人間が搾取され続けている……」


(……たしかに、その通りだ。世界人口はむやみに増え続け、貧富の差は拡大し、移民や難民問題は解決の糸口すら掴めていない…… 国家という法治システムは形骸化し、少しずつ崩壊しつつある…… ここ日本は特にそうだ。善良な市民が、あらゆる所から搾取され生きる希望が失われつつある…… 日本についての分析レポートを読む度、何度心が痛かっただろうか……)


「……その通りだ。だから些細な事で心が闇に大きく反転する。清く正しい心を持つものでも、きっかけ次第で心が暗く深い闇に墜ちるのだ。闇へ墜ちたAWのなり損ないは、我々が打たなければならない」


 私は思った。


「――貴女の言う通りね…… 私は貴女のことを、何と呼べば良いのかしら? わたしは麻美でいい」


「――そうだな。私のことは審判(ジャッジメント)と呼ぶといい。人としての名前は、とうの昔に捨てたのでな」


 審判の粒子のような姿が、少しずつだが完全な人の形に変化してきているように感じる……。


「――貴女の言っている事。私は()()()()()()()()()()()()。だから私は貴女に問いたい」


「なんだ。申してみよ」


 そして私は、その疑問をぶつけた。


「――貴女は私のことを仲間だと言い続けた。だったら何故、最初に騙すような幻覚を見せ、この中に閉じ込めようとした? 何故現実から引き離した!」


 サークルドットサイトの収縮率が80%を超え、審判を捕らえる。言っていることは何も間違っていないし理解もできる。だからこそこの事が()()()()()()()()()()のだ。あの時私が感じた()()はその状態が非常に危険なことだと察知した。


「貴女ほどの力があれば、もっと違うやり方があったはず! あの時感じた()()()()()()()()()()。あれは間違いなく何かしらの私を欺こうとする力。わたしを欺きこの世界を現実と思い込ませ、貴女は私を取り込み支配下に置こうとした。違うかしら?」


 審判が右手を口に当て微笑する。


「――それは違う。お前に安心してほしかったのだ。わたしは――」


 審判の言葉を遮るように畳みかける。


「それは嘘ね! 人は嘘をつく時、必ず何かしらの行動を無意識に行う。目線を背ける、手を顎や口に当てる。人によって様々だけど、貴女は今初めてその行動を取ったわ。今まで自信たっぷりに両手を微動だにせず話していたのにね!」


 サークルドットサイトの収縮率が90%を超える。


「……面白い。オモシロイナ姫宮麻美。その状態で我が夢幻結界(エターナルフィールド)と力の流れまで察するとは……」


 喋り方が所々恐ろしくなる…… 間違いない!やはり審判は私を取り込むつもりだ!


「我ト共に来い……姫宮麻美。お前ならいずれ私を遙かに超える、素晴らしき現代の魔術師アスファルティックウィザードと成れる! 愚者達を粛清し、新たナル世界を我々で築くのだ。コノママデハ世界は確実に崩壊する。お前はそれを誰よりも分かってイルだろう!」


「惜しかったわね審判(ジャッジメント)! 貴女は私と交渉する上で初動を間違った! 最初から誠実な対応をし、最後にそう言えば私を仲間に出来る可能性は十分にあったのにね!」


 サークルドットサイトの収縮率が98%を越えた。今なら確実に当たる。


「貴女の言っている事はもっともよ。だけどね、人は善悪を迷いながら生きていく。その人の立ち位置によって善であることも、他人からみれば悪になる事もある。善悪の狭間で苦悩しながら、己の正しき道を探して生きる。それが人間なの! たとえ悪人であっても、勝手に命を奪うことは許されないわ!」


 まるで自分に言い聞かせているようだ。審判の言っていることは間違ってはいない。それはよく分かるのだ。だからこそ引くわけにはいかない!


「甘イ! 甘イぞ姫宮麻美! 有史以来、歴史を作り上げ統治してきた人間共が、何度同じ過ちを繰り返してきてキタ! 次同じ過ちを繰り返せばもうこの世界は終わるのだ! 屑共にもう歴史を任せてはオケヌ! 我々が新たな力と共に統治する必要ガアルノダ!」


 審判、ごめんなさい。私は貴女の言っているが、本当によく分かる……。


 この世界の汚れきった歪み。世界はもう壊れてしまう寸前だということも……。


 だけどね…… 私は帰りたい場所がある…… 待っている人達がいる……。


 そして、守りたい。側で支えたい人がいる……。


「……私の直感は、今まで一度も外れたことはない! ごめんなさい! 貴女と今歩む気は無いわ! 私を解放し、元の世界へ帰しなさい!」


「……失望シタゾ。姫宮麻美。我のものにナラナイというのなら仕方が無い。お前の力を欲しがるものはいずれ無数に現れるダロウ。誰かに奪われるノナラ、ここで強引にお前をウバウマデダ!」


 審判が右手を宙にかざすと、まばゆい光と共に銀色の輝きを放つ大槍が現れ、それを右手で握りしめる。片手で銀の大槍を構えた審判は、自身を形成すると思われる黒い粒子を激しく脈打たせながら、その敵意を完全にこちらへ向けた。


(まずい! 完全に怒らせたか!)


 狙いを定め、トリガーを何度も引く。何発も銃声が鳴り響く。


(なんだ! 全部弾かれている!?)


 着弾の瞬間に魔方陣のようなものが一瞬現れ、それが完全に銃弾を無効化している。わたしは何度もトリガーを引く。だが結果は全て同じ。いつの間にかに、弾倉が空になった……。


(まずい!)


 速すぎて見えなかった。ほんの一瞬で懐に飛び込んできた審判(ジャッジメント)が、私の首を左手で握りしめる。息が苦しい…… ギリギリの力加減で私の抵抗力だけを奪っている。


「……間近で視れば、ここまで美しいとは…… お前は特別な存在だ…… ドウダ? 考え直さないか? お前は私の正しさを心から理解している。その力を行使シタイと思っている。だからNYPD、そしてFBIへ入ったのだろう? 騙そうとしたのではない。只、私は傷つけたくなかったのだ。余計な現実での思い出は、余計に自分を苦しめる事になる……」


 ダメだ……心の中に入り込んできている……。


「――力を手に入れるのだ。姫宮麻美。黒魔術、白魔術、幻魔術、私はあらゆる魔術に精通している。私の全てを教えよう。その力でこの世を正せ。この世界を救い、正しき社会を作れるのは我々だけだ」


 息が…… 苦しい…… 耳元で、囁いている……。


「現代の魔術師となるのに、恐れることは何もない…… お前はただ横たわり、その愛撫を心から受け入れるだけで良い…… 私の魔力をその口づけで優しく全身へ注ぎ込む。その快楽に身を任せるだけで良いのだ…… 目が覚めたとき、お前は新たな力と共に、新たな世界を知ることになる」


 その言葉と共に、闇よりも深く黒い粒子が、完全に人の形へ変化していく。


 完全に人へと変化したその姿は、神々しい光に包まれた、まるで巫女のような女性だった……。


(綺麗……)


「……麻美。貴女がこの時の中で、罵られ蔑まれたことは、私がよく分かっている。その正義と平和を愛する尊い心を傷つけられたことも…… 我と共に来い。一緒にこの歪み淀みきった世界を正そう。本当にか弱き者が救われ、誰もが平和に暮らせる世界を作るために」


 優しい声…… 心にすっと入ってくる…… とても神聖で…… 心地よい……。


 審判は微笑む。この人の暖かな心が伝わってくる……。


 この人の言うことはもっともだ…… 現行の法で対処できることは限られている……。


 法を作りし者もまた人間…… 悪意を持ってそれが作られたとしたら…… 抜け道はいくらでもある……。


 その結果が…… この淀み…… 歪みきった世界ではないか……。


「……それでいい。お前を理解し、その力を引き出せるのは――私だけだ」


 意識が遠くなっていく…… 優しい微笑みと…… その心地よい光に包まれながら……。

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