アンバーローズ
脚は渇きをよく知る草の上を走る。
テントの中から飛び出して。
その音は港から出る船の信号ではない。
夕陽の光反射させ。
帰ってきた頃には品物を連れてくる。
借り物を知らない遊牧民と育った。
マズバルは感じていた。馬から故郷の香りが。
彼はその馬が好きだった。蹄の音が好きだった。彼は故郷の敬愛する人々と、毎日目に移る品物の数々のことを、今になって思い返していた。
大河からの上を走った風は冷たかった。
彼は借り物を返しに行く西方の旅に出かけるのだ。
鱗を持っていた。手の中にあるそれは光って見えた。鱗はマズバルの目の中で朝焼けよりも眩しく見えたが、彼の目は閉じなかった。
透明な琥珀だった。 放つ光は大河の風を乗りこなしている。
負けてはいられないのである。乗りこなさなければならない。
〜Amber Rose〜
マズバルは朝焼けと比べると冷えた色をしている太陽の横を走った。爽快な風だった。
借り物を返しに行くのだ。
この先だいたい7里程だろうか。砂漠を流れる大河マナドゥインを跨ぐ橋とその両端に街がある。
遊牧民の出のマズバルには街という単語自体が珍しかった。
渡り鳥でも一年事に鳥が変わるんじゃあないのだ。と言いたくなるが、生憎一人なのである。この先の街のにぎやかさは見たこともない。にぎやかということも分からないが、マズバルは第一の止まり木に期待を見いだしていた。
蹄のペースは変わらない。
大河では相変わらず冷たい風が吹く。
この川の冷たすぎる風は周りの木々や草に寒気を与え、そのおかげでこのあたりは遊牧民が暮らす「冷えたサバンナ」に成り果てている。
その気性を考えなくても、大きな動物はここにはいない。
だが、その昔、冷えたサバンナには龍がいたのだ。
マズバルはそれを見た事がある。
借り物は龍に返しに行くのだ。
返しに行かなければならないと、血潮が叫んでいた。
西を向くと期待が胸を震わせる。血潮を送るのは心臓だ。
血潮も震えた。